【実はこれが日本一】日本一低い山は標高3メートル!一度地図から消えた山が復活したワケとは?

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Aug 12th, 2021

意外な日本一を紹介するTABIZINEの連載。意外にも奥深い歴史のある日本一「低い」山を今回は紹介します。

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日本一低い山は標高3m

考える女性

「日本一高い山は?」と聞かれれば、日本人の成人なら誰もが「富士山」と答えられるはずです。世界一高い山はエベレストですね。

では、逆に日本一低い山と言われたら、どこを思い浮かべるでしょうか?答えは宮城県仙台市にあります。名前は「日和山(ひよりやま)」。国土地理院の地図を見ると、その山には「3」と書かれています。つまり標高3mです。


日和山 image from Wikipedia by タコノマクラ, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

標高とは平均海面からの高さですから、海抜と一緒です。海をほぼ目の前にしたその山の頂上は海面から3mの高さがある計算です。3mとはされど3mで、意外にも平屋の屋根の上くらい高さがあります。

しかし、この山を「登山口」から見る限り、3mの高さを感じません。ただの土地の隆起といった感じです。

その理由は、海沿いに築かれた防潮堤(盛り土)の上に乗る山だからかもしれません。堤の上にある登山口から山を見上げると、もはや高低差は、ほぼないに等しいのです。

USJの近くにも日本で最も低い山があった

仙台市の情報によると、日和山の山頂に一本松が昔は生えていたそうです。そのころの標高は6.05mで、1991年に日本一低い山と認定されています。

しかし1996年には、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンの川向こうにある天保山が国土地理院の地図に掲載され、標高4.53mの山として日本一の座を日和山から奪います。


天保山山頂 image from Wikipedia by KishujiRapid, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

日本一の地位から陥落した15年後、日和山には追い打ちをかけるように東日本大震災で津波が押し寄せます。山頂の一本松はもちろん、山体の大部分が削り取られ、地図上からも消滅しました。それだけのエネルギーがあの津波にはあったのです。

被災後、復興の過程で地元の人たちが日和山の保全活動をスタートし、国土地理院に再掲載を申請しました。結果として2014年、あらためて地図に標高3mの山として認められます。幾多の悲劇を乗り越え、大阪の天保山から日本一の座を奪還し、現在の栄誉に輝いているのです。

山が地図に掲載される手順は?

この話を聞くと疑問が残ります。そもそも「山」とは何なのでしょう?『広辞苑』(岩波書店)を調べると、

<平地よりも高く隆起した地塊>

と書かれています。似たような「丘」はどんな意味なのか調べてみると、

<土地の小高い所。低い山。小山>(広辞苑より引用)

とされています。意外にも辞書的に言えば丘も山の一部なのですね。もっと大胆に言ってしまえば、特に定義は決まっていないと考えられそうです。

日和山の標高を3mと公式に認めた国土交通省の国土地理院も、現実問題として山の定義をはっきり持っていないと公式ホームページ上で明かしています。山と丘の違いももちろん区別していません。

かつて1960年代には、日和山と同じ標高3mの菜切山(菜切塚)が神戸の海抜0m地帯にありました。しかし今では地図上から消えています。


菜切山の立て看板 image from Wikipedia by Kei425Kei425, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

兵庫県の県紙・神戸新聞の取材によると、国土地理院の地図掲載の有無は、まず自治体の申請を受け、国土地理院が歴史的な伝承や資料から判断し、「山」と見なされれば地図上に表記するシステムがあるようです。

「山」と「丘」の漢字の成り立ちを『漢字源』(学研)で調べると、

山 <△型をなした分水嶺のこと>

丘 <周囲が小高くて中央がくぼんだ盆地を描いたもの>

(それぞれ『漢字源』より引用)

と違いはおぼろげに見えてきます。小高い土地で、その土の塊が△型をなしている場合、丘ではなく山と語源的には定義できるのかもしれません。

宮城県の日和山は△とは言えないまでも、すそ野を持った台形に近い土の塊といった印象を受けます。

人工(築山)であろうと自然が生んだ地形であろうと関係はないようです。

先ほど登場した大阪の天保山(標高4.53m)も実は築山です。日和山から日本一の座を一度奪った、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン近くの公園にある山ですね。

△型の土の塊が人工であろうとも、自然が生んだ地形であろうとも、さらに言えば標高が何mであろうとも、長い年月を通じて地域の人々が「山」と呼び続け、その根拠が説得力を持てば、いつしか地図にも山と記載されるわけです。

そう考えると、そのうち築山で標高3m未満の山が地図上に生まれる可能性も、ゼロではないはずです。この日本一低い山の競い合い、これからも続くのかもしれませんね。

[参考]
珍しい水鳥や植物が生息している貴重な干潟 – 仙台市
地理院地図 – 電子国土Web
国土の情報に関するQ&A – 国土地理院
【高校生が取材した沿岸部の今】日本一低い山「日和山」のいま – TOHOKU360

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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