自分で決めることがほとんどの『迷宮グルメ』
――ヒロシさんって、昔から旅番組によくご出演なさっていましたよね?
ヒロシ:そうなんですよ。テレビに出ていないとか言われてたときも旅番組のレギュラー出演はありましたし、海外に行く番組も毎月やってましたからね。基本的には女優さんとか俳優さんと一緒に行って、僕がエスコートするパターンが多かったんですけど、誰かと一緒だと僕はどうしても気を遣ってしまうから、できれば一人で出たいなぁという密かな野望があって。
ヒロシ:「いつかそういう旅番組ができたら最高だろうなぁ」と思っていたら『迷宮グルメ 異郷の駅前食堂(以下、迷宮グルメ)』(BS朝日)という旅番組の仕事が来たんです。見知らぬ街の駅前を適当に僕が歩いて、いろんな人に話しかけて、最終的に食堂を見つけて飯を食べて終わり……、という番組なんですけどね。
――『迷宮グルメ』でヒロシさんは、片言の英語とジェスチャーで現地の方々とコミュニケーションを取られていますが、不自由することはないですか?
ヒロシ:難しい話とかだとちょっと困るのかもしれないですけど、店でご飯食べたりするぐらいだったら全然通用するんだなぁって。やっぱり同じ人間なんでね。何なら日本の人よりも親切に店を教えてくれたりとかしますから。
――ひとり旅と言っても、実際にはスタッフさんなどがたくさんいますよね?
ヒロシ:いるんですけど、誰も何もやってくれないし。番組構成から何から全部自分でやらなきゃいけないから。
――本当にアポなしでヒロシさんご自身が交渉してるんですか?
ヒロシ:そうですよ。本当に僕が「ここにしよう!」って決めて入っているだけなので。
――台本はないんですか?
ヒロシ:ないですないです! 降りる駅さえ、決まっていたり、決まっていなかったりするくらいですから。そういう意味では、あの番組に映っているのは割と素の状態の自分なのかもしれないね。
プライベートでの旅は「本当の自由」を求めて
――先程のイベントで今年の抱負は「休」だとおっしゃっていましたが、もしカメラ無しの完全プライベートで行くとしたら、どんな旅がしたいですか?
ヒロシ:う~ん。多分やることは一緒だと思うけど、全然違うんだよな。
――何が違うんですか?
ヒロシ:自由かどうか。だって、きっと動物園の檻のなかにいる動物たちだって、絶対に落ち着かないと思うんですよ。パンダはこうやってくつろいでいるように見えるけど、実際には周りにずっと沢山人がいるんですよ。その環境がもう当たり前になっているから気づかないけど、一回本当に野に放ったら、檻には戻りたくないはずですよ。
――まさに、ヒロシさんが出演されている『起業時代』のTVCMの「心の檻」篇とも通じます。あちらはパンダじゃなくて、日本猿ですが。昔から、プライベートでひとり旅にはよく行かれていたんですか?
ヒロシ:そんなにしょっちゅう行っていたわけじゃないですけど、キャンプにハマる前は釣りが好きで、釣りに行くために車でちょっとした旅に出るみたいなことはやってましたね。旅自体が目的と言うよりは、何かのついでに旅をすることが多かった。なんだかんだでちょこちょこ行ってましたね。
旅でのインプットが仕事に繋がることも
――旅を通じて得たことが、日常生活や仕事のうえでどんな風に活かされていますか?
ヒロシ:「あの旅のあれが役立っている」っていうのはないけど、断片的にいろいろあるんですよね。食堂の内装とか、建物自体も日本とは全然印象が違うんですよ。ペンキ1つ塗るにしても、例えばキューバだとこっち側にピンクを入れて、その隣に黄緑を入れるとか。アジアだったら漢字がいっぱい書かれた札が壁にベタベタ貼ってある感じとかね。なかなか日本人にはそういう感覚はないじゃないですか。
ヒロシ:僕は旅先で見たり聞いたりしたものから自然と影響を受けていて、自分の家の壁を塗るときにも取り入れたりしてるし、キャンプのサイト作りとかにもきっと活かされてるよね。こう並べたほうが洋風だとか、いろんなところから吸収してるんだと思います。
――休みたいと言いながらも、ヒロシさんの場合、結局それが全部仕事に繋がっていますね。
ヒロシ:そうなんですよね。「そんなに休みたいなら、YouTubeもやめればいいじゃん!」って言われるかもしれないけど、「いや、撮るのも楽しいんですよ!」っていうね。で、撮ったらやっぱりアップしたくなるから、アップするでしょ? そうするとまた新たな仕事が来るっていう……。
――それ、めちゃくちゃいいじゃないですか。でもヒロシさんの究極の理想は、自分が稼働しなくてもお金が入ってくる状態にしたいんですよね?
ヒロシ:そう! 不労所得を得たいという気持ちはある。昔は50歳でスパッと仕事を辞めて、南の島で暮らしたい……。と思ってたんですけどね。そもそも喧噪から逃れたくて、自然の中に行って非日常を味わうために、キャンプしたり、旅に出たりするわけじゃないですか。でも僕は仕事柄、日本中のいろんなところに行ってるから、正直そんなに新鮮味がないんですよ。それプラス、「ヒロシだ!」って言わたりするわけじゃないですか。だから、ゆくゆくは海外に移住するという憧れもありますよね。
試してみる勇気と軸を持つことの大切さ
――ヒロシさんは、『迷宮グルメ』のロケだけでも、トルコ、キューバ、タイ、ミャンマー、インドネシア、フィリピン、クロアチア、スロベニア、ブルガリア、ラトビア、マケドニア、ポーランド、オランダ、チェコ、フランス、イタリア、スペイン、韓国、台湾、香港など、世界各国を旅していますが、移住するとしたらどこがいいですか?
ヒロシ:やっぱり食べ物は大事で、日本人の口に合うところ。そうすると結局アジアになるんですよ。ヨーロッパもおいしいんだけど、飽きるんですよ。2番目は治安の良いところ。いままで行った中だとトルコかな。僕はなんとなくいまの日本をちょっと窮屈に感じてるんですよ。SNSで何でも監視したがるような状況が、なんだか息苦しくて。『迷宮グルメ』で海外に行ってた時って、昔の日本を見てるような感じで。もうちょっとのびのびしてた。ゴミが落ちてたり、マナーが悪かったり、電車が遅れたりするけど、そっちの方がストレスがないなぁと思った。
ヒロシ:でも、今から昔の日本に戻れるかって言ったらそれは無理なんで、となるとやっぱり海外に行くしかないのかなぁと思っていた矢先にコロナ禍になっちゃって。もしこれから興味が持てる国があったらそこにちょっとだけ住んでみて、また日本に帰ってきてもいいわけですよ。別に一生そこに住む!とか、無理に決めつけなくてもいい。
――起業もそうですよね。
ヒロシ:そうそう。起業してみて自分には合わないなと思ったら別にやめればいいんですよ。そのためにも無駄金はあまり使わないで、まずはいろいろ種をまいてみることが大切。起業はあくまでスタートだから、起業をゴールにしているようじゃダメ。何がやりたいか、何で採算が取れるか。何をやるにしても明確な軸がないと上手くいかない。お金のこととかも、やらざるを得ないから税理士さんに訊いたりして覚えていくんですよ。だから何かを始めるときに一番大事なのは、熱でしょうね。その上で、まずは自分ができることから始めたらいいと思う。
――先程のイベントで、「キャンプの仕事は実は裏側が大変なんだ」とお話されていたのが印象的でした。
ヒロシ:そうなんです。これ、気づかない人も結構多いと思うんだけど、キャンプを扱う番組に出るには、道具の準備と片付けも必ずついてくる。ロケをやって、道具を広げて片付けて、次のロケに備える。ロケが立て続けにあると、準備する暇もなくなるし、地方のキャンプ場に行くとなると、前もって道具を送らないと間に合わない。同じ道具のセットが2つもあっても、てんやわんやするんです。テントが濡れたらカビが生えるので、家で広げて干さないといけないけど、そんなに広いスペースもないし。
ヒロシ:そういうのも含めてキャンプの仕事なので、キャンプの仕事は裏側が大変なんです。キラキラして見えることの裏側には、めんどうくさくて地味なこともいっぱいある。プライベートだとそれも楽しみの一つになるんだけど、仕事だとやっぱりちょっと憂鬱になりますね。
今年の抱負を「休」と掲げるほど超多忙であるにも関わらず、快くTABIZINEの取材に応じてくださったヒロシさん。ハリウッドスター並みのタイトなスケジュールにたじろぐと、「スミマセン……、その代わり早口でしゃべります!」とすかさず笑いに変えて和ませてくれる優しい人柄に魅了されました!
ヒロシ(芸人、タレント、YouTuber、ヒロシ・コーポレーション社長)
1972年1月23日熊本県生まれ。九州産業大学商業学部卒業。トリオ、コンビ活動など多くの笑いの経験を積み、2004年頃ピン芸人「ヒロシ」という名前がメディアに広がりブレイク。以降、芸人活動の他、俳優、ラジオパーソナリティ・執筆活動など幅広い分野で活躍。
近年では、趣味であるソロキャンプを自身で撮影編集を行っているYouTube「ヒロシちゃんねる」の登録者が100万人を突破するなど根強いキャンプファンも多い。芸能人のソロキャンプ集団『焚火会』のリーダーでもある。2021年流行語大賞で『ソロキャンプ』の先駆者として賞を受賞。2021年にオリジナルキャンプブランド『NO.164』を立ち上げ、1人用ソロ鉄板『独焼鉄板』が数分で完売するなど今もなお、更なる活躍に注目が集まっている。
[Interview Photos by Masahiko Watanabe]
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REICO WATANABE ライター
映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍するクリエイターや起業家のインタビュー記事を中心に、WEB、雑誌、パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。イベントMC、ラジオ出演なども。
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