【お祭りトリビア連載2】祇園祭は京都だけじゃなかった!コロナ禍の今こそ知りたい「祇園」の意味

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Feb 14th, 2022

日本の有名なお祭りに関する素朴なトリビアを連載形式で紹介しているTABIZINE。今回は、日本三大祭の1つとされる「京都の祇園祭」について、その由来や祇園の意味などを、ほかの地域でも行われている祇園祭とあわせて紹介します。


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かなりの数の「祇園祭」が全国には存在する

「祇園祭」を今までに見た経験はありますか? 京都タワーのある駅前から見て東側、京都市東山区には祇園と呼ばれる地区があります。

住所で言えば、祇園町北側と祇園町南側があります。周辺のにぎわいは鎌倉時代に八坂神社(当時・祇園社)の門前町として始まり、遊興の町としても江戸時代に発展を遂げた歴史に由来します。明治維新を迎えるまでの古い呼び名である祇園社が地名にもなりました。

令和の今でも祇園には、料亭・スナック・茶屋が軒を連ねていて、祇園甲部・祇園東の芸妓・舞妓もかいわいで活躍しています。

毎年7月になるとこの一帯では祇園祭が行われますが、そもそもこの「祇園」とは何なのでしょうか?

多くの人にはきっと意外な話だと思いますが、京都以外でも祇園祭は行われています。筆者の暮らす富山県内の氷見(ひみ)にも祇園祭がありますし、同じ北陸では石川県と福井県にもあります。それこそ全国を見れば、かなりの数の祇園祭が存在するわけです。

そうなると、祇園祭の「祇園」は京都の地名に由来するのではない気がしてきますが、どうなのでしょうか?

祇園の神には疫病を鎮める力がある


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そもそも祇園という言葉はなんなのでしょう? 岩波書店『広辞苑』を調べると、

<「祇園の神」に同じ>(『広辞苑』より引用)

と書かれています。「祇園の神」を調べ直すと、

<牛頭(ごず)天王(素戔嗚尊(すさのおのみこと))・八王子宮(素戔嗚尊の五男三女)と少将井の宮(奇稲田姫(くしなだひめ))>(『広辞苑』より引用)

とあります。すごく読みづらい引用文ですね。要するに、祇園とは神の呼び名です。神の呼び名が神社の名前になり、神社の名前が地名になりました。そう考えると、祇園祭の「祇園」は神の名前から来ていると分かります。

多くの読者にとって、日本の神であるスサノオノミコトは有名だと思います。スサノオノミコトの別名として牛頭(ごず)天王とも辞書には書かれています。『世界大百科事典』(平凡社)を使って牛頭天王を調べると、

<疫病を鎮める強い力をもつ疫病神>(『世界大百科事典』より引用)

と書かれています。もともと、インドに建てられた祇園精舎(寺院付属の家屋)の守護神とも言われる牛頭天王が、日本では、スサノオノミコトにあたると解釈されました。

この牛頭天王は、薬師如来の仮の姿だともされています。ちょっと難しい言葉で言うと、薬師如来を本地仏(ほんじぶつ)とするみたいです。

薬師如来とは左手に薬つぼを持つように、

<衆生(しゅじょう)の病苦を救い>(『広辞苑』より引用)

癒やしてくれる教主です。薬師如来の別の姿である牛頭天王と同体のスサノオノミコト(祇園の神)にも、疫病を鎮める強い力があると考えられています。

その力に頼って、流行する病を鎮めてもらおうと御霊会(ごりょうえ)が行われてきました。御霊会とは、

<疫神や死者の怨霊などを鎮めなだめるために行う祭り>(小学館『大辞泉』より引用)

です。たたりや呪いが疫病を引き起こすと考え、怒る神を鎮める、あるいは神の力で怒る悪霊を退散させるために、大昔の人たちは熱心に祈りました。その御霊会が、京都の祇園祭の発端とされているのですね。

神の怒りや悪霊が疫病を引き起こす


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国家的な御霊会(ごりょうえ)を朝廷が初めて行った年は863年(貞観5年)です。今も京都にある神泉苑(宴遊地)が舞台で、疫病を鎮めるために神への祈りが5月20日に捧げられました。

しかし、病の流行がその後も止まりません。富士山が噴火して大地震が起きるなど、不安定な世の中が続きました。そこで、それらの疫病を鎮め災いを払おうと、869年(貞観11年)6月14日に国家的な御霊会が神泉苑でまた行われます。

当時の国の数を意味する66の矛を立て、祇園社(現在の八坂神社)から神泉苑へ向けて祇園の神を乗せたみこしが送られました。この祇園御霊会が、祇園祭として今も続いていると考えられています。


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全国各地にある祇園祭も似たような経緯を持ちます。先ほど一例を出した富山県氷見市の祇園祭りで言うと、今から300年前に氷見で悪病が流行したために、悪病除けの神として京都の八坂神社(当時は祇園社)から祇園の神の分霊を迎えました。

退散祈願したところ悪病が治ったため、その感謝の気持ちとして、祇園の神をみこしに乗せ、京都の祇園祭をまねて町内を巡りました。この経緯を聞くとなるほど、氷見の祇園祭りも立派な祇園祭だと分かりますよね。

新型コロナウイルス感染症の影響で全国各地の有名な祭りが中止に追い込まれるなか、京都の人たちは祇園祭の開催を望んだみたいです。まさに祇園祭が、疫病退散のための祭りだからですね。

観光客にとって最大の見どころである山鉾(やまほこ・やまぼこ)巡行は2年連続中止になっています。それでも神事だけは続けられてきた理由もやはり同じです。

2022年(令和4年)7月にはどの程度の規模で祇園祭が開催されるか分かりませんが、京都に居る人も居ない人も、地元に祇園祭りがある人もない人も、それぞれに思い浮かぶ祇園の神に祈りを送って、新型コロナウイルス感染症の退散を願いたいですね。

 

[参考]

どんな祭? – 京都市観光協会

【観光ガイドのプロが徹底解説!】来年の山鉾めぐりが一層奥深くなる!覚えておきたい祇園祭の楽しみ方 – 京都市観光協会

※ 朝日新聞出版発行『知恵蔵』

※ 平凡社『世界大百科事典』

祇園祭り – きときとひみどっとこむ

祇園町とは – 祇園甲部歌舞会

※ 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』

京都人が「祇園祭だけは、やめるわけにはいきまへんやろ」と話す深いワケ – PRESIDENT Online

祇園御霊会 – 神泉苑

八坂神社の歴史 – 八坂神社

 

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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