春巻きづくりの機械化で圧倒的な立ち位置を誇る日本の企業
「春巻き」とは、そもそもどのような歴史を持つ食べ物なのでしょう。『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館)によると中国料理の点心の1つで、
<中国では立春の行事として春餅(チュンピン)をつくって食べ、春を喜び迎える習慣があるが、この春餅とすこし異なる形態の春巻を立春のころにつくって、春を迎える所もある>(『日本大百科全書(ニッポニカ)』より引用)
とされています。点心とは、
<中国料理で、食事がわりの軽い食品の総称>(『広辞苑』<岩波書店>より引用)
です。中国生まれの軽食で、春を迎える際に食べた歴史があるのですね。
歳時記×食文化研究所の北野智子さんに取材した「ウェザーニュース」の記事によれば、春巻きは中国の山東省で生まれたといいます。
山東省とは、青島(チンタオ)などの都市がある中国北東部の省です。日本史にも深く関係する地域で、山東半島を巡る動きは世界史でも知られていますよね。
時代は、東晋(317年~420年)の頃にさかのぼるとも、唐(618年~907年)にさかのぼるともいわれています。中国の旧暦の元日(春節)に春の訪れを祝うべく春の野菜を巻いて食べたところから来ているようですね。
この春巻きが、日本へいつごろ来たのかについては定かな情報がありません。
<中国人は、古代、偉大な文明をおこした民族だが、19世紀になると、世界へのもっとも大きな貢献は、中華料理をすみずみまでひろげたことにあるだろう>(司馬遼太郎『街道をゆく 35 オランダ紀行』より引用)
とあるように19世紀以降だとは予想ができます。
現に、春巻きについて調べた食ライター・じろまるいずみさんが書いた「NIKKEI STYLE」の記事によると、1922年(大正11年)の新聞の料理コーナーに春巻きのつくり方が掲載されていたのだとか。
新聞の料理コーナーにつくり方が掲載されるくらいですから、その時点でそれなりに市民に広がっていたことが予想されます。日清修好条規が1871年(明治4年)に結ばれ、日本と中国(清)の人が近代的な関係を持ち、両国の行き来が盛んになった時期が1つのタイミングとして考えられるはずです。
なににしても、いつの日か中国から伝わった春巻きは、日本でも広く親しまれ、ファミリーレストランや冷凍食品の棚でも見られるまでになりました。
春巻きが広く消費されるようになると、機械化による大量生産も求められるようになります。まさに、その春巻きづくりの機械化において、圧倒的な立ち位置を誇る日本の企業があります。兵庫県尼崎市にある大栄技研株式会社です。
中華料理屋から春巻きづくりの自動化を相談される
筆者の手元にある、毎日新聞経済部『増補版 日本の技術は世界一』(新潮社)という本には、大栄技研の紹介があり、もともとシャープの技術者だった渡部英文社長がつくり上げた春巻き製造機についての記載もあります。
<あっと言う間に、湯気を立てた春巻きが次々とできあがっていく。皮を焼き上げ、ひき肉などの材料を詰め込んで>(『増補版 日本の技術は世界一』より引用)
1970年(昭和45年)に独立し、中華料理店から手間のかかる春巻きづくりの自動化を相談されて、同年に1号機をつくり上げたそうです。
実際に自分でつくってみるとわかりますが、春巻きづくりは、なかなかの手間です。肉を切り、ピーマンやゆでたけのこなどの野菜を縦切りにして、フライパンで焼き、ソースを入れ、炒めた具材をバットなどに取り、春巻きの皮で巻いて、揚げ(焼き)ます。
それらの作業の機械化を頼まれてすぐに実現してしまうとは、日本の技術力、恐るべしといった感じですよね。
2003年(平成15年)に発行された『増補版 日本の技術は世界一』によれば、1号機から数えて1,600台が売れ、世界40カ国以上に輸出したといいます。同社の公式サイトには、
<春巻皮成形機および春巻充填機は日本および世界中の市場のほぼ100%を占めています>(大栄技研株式会社の公式サイトより引用)
ともありますから、その後もレンタルを含めて世界トップを保っているようですね。
冷凍食品やファミリーレストンランなどで春巻きを食べる時は、大栄技研のマシンがつくった春巻きである可能性が高いです。
中国から日本へ伝わってきた食べ物づくりを自動化した日本の技術を感じながら味わってみてください。普段以上のおいしさが楽しめるかもしれませんよ。
[参考]
※ Spring Rolls — a Popular Chinese New Year Food – China Highlights
※ 春巻きって何? 歴史は謎だが、レシピは多彩 – Nikkei Style
※ 『中国料理と近代日本:食と嗜好の文化交流史』
※ 小田真規子『料理のきほん練習帳』(高橋書店)
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