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祇園御霊会が起源?「祇園祭」の歴史とは?
「祇園祭」という名は聞いたことがあるものの、その由来や歴史を知らない人も多いのではないでしょうか。実は1000年以上続く長い歴史を持つお祭りなのです。
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京都で疫病が流行した平安時代前期の貞観11年(869年)、現在の二条城に近い平安京の庭園・神泉苑(しんせんえん)に当時の国の数にちなんで同じ66本の矛(ほこ)を立て、疫病退散を願った「祇園御霊会(ぎおんごりょうえ)」が祇園祭の起源とされています。洛中(京都の町中)の男児が祇園社(現在の八坂神社)の神輿を神泉苑に送り、疫病を封じ込めたのが始まりです。
元禄元年(970年)からは毎年6月14日に行われるようになり、平安末期にかけてにぎやかになりました。室町時代には巨大な山鉾(やまほこ)が登場しましたが、応仁、文明の乱で京都は焼け野原となり30年ほど中断。しかし町衆の祭に対する熱意により、明応9年(1500)には再び山鉾26基が巡行したと伝わります。
それを機に、裕福になった町衆らが競うように山鉾に豪華絢爛な装飾を施し、華麗な祭礼となります。江戸時代には3度の大火で大きな被害を被るもののその度に復興し、現在の八坂神社の神事としての「祇園祭」へと受け継がれてきました。平成21年(2009)には「京都祇園祭の山鉾行事」はユネスコ無形文化遺産に登録されています。
近年では、平成26年(2014年)から、およそ50年ぶりに山鉾巡行(やまほこじゅんこう)の前祭(さきまつり)、後祭(あとまつり)が復活したのが大きな変化です。
また、応仁の乱以前から巡行していたとされ、文政9年(1826年)の巡行で大雨にあい、それ以降は休み山だった「鷹山(たかやま)」が、今年から約200年ぶりに完全復帰します。
「山鉾」とは?山と鉾の違いとは?
祇園祭の主役、「山(やま)」と「鉾(ほこ)」とはどんなものかご存知ですか? 言ってみれば、祭礼の神幸の際に引き出す「山車(だし)」の一種です。祇園祭の山鉾には美術品や装飾が施され、「動く美術館」と呼ばれるほどの豪華さ。山鉾の数は前祭23基、後祭11基、休山1基、合計35基です。
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「山」にはそれぞれ装飾品や人形が飾られ、多くは松の木の飾りを付けています。昇方(かきかた)と呼ばれる20人ほどの人により巡行します。高さは地上約15m、重量は約1.2~1.6トン。
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「鉾」には金属の依り代(よりしろ・神霊のよりつく代物)が立っています。山より更に大きく、先頭を行く「長刀鉾(なぎなたほこ・ぼこ)」は、高さ約25m、重量は約11トンもあります。組み立て、巡行、解体に180人ほどの人出がいるそうです。曳方のほか、当日鉾に乗る屋根方(やねかた)、音頭取り(おんどとり)、囃子方(はやしかた)、また車輪を装着する車方(くるまかた)と呼ばれる人々などが携わります。
各山鉾にはそれぞれの由来があり、飾りや人形に特徴が表れています。「山」と「鉾」の明確な違いは、疫病を追い払うための「御霊会」を行う際に誕生したのが「鉾」、その後に見せ物として登場したのが「山」といえます。
山と鉾を保存、運営する「山鉾町」は、京都の中心街・四条烏丸周辺にある、八坂神社の氏子の地域にあります。
祇園祭の「見どころ」をピックアップ
クライマックスの7月17日の前祭、24日の後祭の「山鉾巡行」が祇園祭と認識している人も多いかもしれません。祭りは7月1日の「吉符入」に始まり、31日の「疫神社夏越祭」まで1カ月間続きます。数ある行事の中から、いくつかの見どころをご紹介します。
夜の祭り風情を満喫できる「宵山」
夕暮れ時に駒形提灯に明かりが灯り、祇園囃子が流れる中で始まる「宵山(よいやま)」(前祭7月14~16日、後祭7月21~23日)。四条通りの八坂神社~堀川通り間・烏丸通りの御池通り~高辻通り間が歩行者天国(15・16日18時~23時)になります。白や赤の明かりが古都の通りを幻想的に彩り、お祭りムードに包まれます。
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山や鉾に上がれる所もあり、前祭では多くの夜店が出るのでお祭り気分を味わうのなら、この宵山がベストです。後祭の宵山では、歩行者天国はなく屋台が出ないこともあって、古来から続くお祭り本来の風情を静かに味わえますよ。
祇園囃子で鉦や笛、太鼓を奏でるのは、鉾の上で能や狂言を演じた名残ともいわれ、江戸時代に現在のようなスタイルになったそうです。山や鉾によって微妙に異なる旋律で、悪霊たちを封じ込めることを願います。この祇園囃子は、決められた山と鉾のみで奏でられます。
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宵山でぜひ見ておきたいのが、町家などの各町で公開する山や鉾に飾られる装飾品「懸装品(けそうひん)」です。舶来の織物や西陣織、金細工、彫物など、古くから伝わる豪華絢爛なお宝を間近で鑑賞することができますよ。よく見てみると、龍や魚、フクロウやウサギなどの動物、植物などさまざまな物語のある刺繍や彫物が施されています。
また、山鉾町にある老舗や旧家が所蔵する美術調度品を一般に公開する「屏風祭(びょうぶまつり)」も見逃せません。表の格子を外し、秘蔵する屏風や美術品、調度品などを飾り、通りから観賞できるようにされています。重要無形文化財レベルの美術工芸品も展示されているので、「京都の老舗、旧家はこんなお宝を持っていたのか!」と感心するような、京都の奥深さを垣間見ることができます。
宵山でご利益別の「厄除け粽」を入手!
通りを歩いていると、子どもたちの歌うわらべ唄が聞こえてきます。歌いながら山鉾の各町会所で祇園祭名物の「厄除け粽(ちまき)」(食べ物ではありません)を販売しているのです。浴衣姿で一生懸命に歌う様子が可愛らしくて、手ぬぐいやお守りなどのグッズまで買いたくなります。
厄除け粽やグッズは各山鉾のオリジナルなので、祇園祭のいい記念になりますよ。また、最近は御朱印も押してもらえます。
厄除け粽は、基本的には宵山の期間に販売されます。購入した後は、玄関の軒下などに吊るし、疫病などが侵入するのを防ぎます。京都の住宅街を歩いていると、軒下に吊るされているのをよく見かけます。一番人気は前祭の先頭の長刀鉾ですが、各山鉾によってご利益が異なるので、どの厄除け粽を購入するかにこだわる家も多いようです。
長刀鉾は厄除け、疫病除け、菊水鉾は不老長寿、商売繁盛、鯉山は立身出世、家内安全、保昌山は縁結びなど、それぞれのご利益があるので、先に調べておいてから、各会所に出かけるのもいいですね。
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前祭の宵山には多くの人が訪れ、暑い中でかなり混雑します。特に烏丸通りから八坂神社までの四条通りはもっとも込み合うので、時間帯によっては避けた方が無難です。また、宵山の期間には市営地下鉄が増発して運行されます。市バスやタクシーだと渋滞に巻き込まれる可能性が高いので、できる限り地下鉄や電車を利用しましょう。
昔ながらの風情をじっくりと楽しむのなら、後祭の宵山がおすすめです。歩行者天国も基本的には屋台も出ませんが、その分静かに山鉾の懸装品を鑑賞できます。人出も前祭ほどではないので、ゆったりとそぞろ歩きながら本来の祇園祭の姿を満喫できます。
必見はなんといっても前祭と後祭の「山鉾巡行」
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祇園囃子が鳴り響き、山と鉾が通りを練り歩く「山鉾巡行」は、祇園祭のクライマックスです。
前祭は7月17日、毎年先頭に立つ長刀鉾から、山鉾23基がくじ取りで決まった順番に、四条烏丸(9時出発)から河原町通り、御池通りを巡行します。
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長刀鉾に乗り、太平の舞を舞うお稚児(ちご)さんも見どころです。ほかの山鉾では人形ですが、こちらでは生きた稚児で、神の使いとされています。お稚児さんが注連縄を太刀で切り、神域との結界を開放し山鉾が進みます。そして巡行のコースを清め祓い、疫病退散を祈願します。毎年、このお稚児さんは誰が務めるのかも、大きな話題になります。
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後祭は7月24日に、橋弁慶山(はしべんけいやま)を先頭に山鉾11基がくじ取りで決まった順番に、烏丸御池から出発(9時30分)し、御池通りから河原町通り、四条通りを巡行します。最後尾を担う大船鉾(おおふなぼこ)は、応仁の乱以前からの歴史があり、大火で多くを焼失し休んでいましたが、平成26年(2014)から復活。幾度もの大火を逃れ、江戸時代以前に作られたという御神面は一見の価値ありです。
宵山で展示されていた美しい刺繍が施された舶来の織物や彫物など、山鉾に装飾された「懸装品(けそうひん)」も見事です。好みの山や鉾を見つけるのも楽しみの一つ。
巡行の最大の見せ場「辻回し」
「辻回し」は巡行中最大の見せ場であり、祭りは最高潮に達します。山鉾を90度方向転換する際、四条河原町交差点や、河原町御池交差点で行われます。前祭では、新町御池交差点でも山鉾が山鉾町に戻るために辻回しを見ることができます。
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道路に青竹(ささら)などを敷き、水を掛けて滑りやすくしてから、その上に直径約2mの前輪2本を乗せ、大勢の曳子(ひきこ)が観衆の大きなか掛け声と一緒になり、山鉾を方向転換させます。最大12トンもあるので見ごたえたっぷり!
音頭を取る音頭方は通常2人ですが、辻回しの時には4人になり、掛け声も通常は「エンヤラヤー」ですが、辻回しでは「ヨイヨイヨイトセ ヨイトセ」に変わります。その豪快さは圧巻の一言! 成功すると拍手喝采に包まれます。
辻回しは大変な人気スポットなので、2~3時間前までに場所の確保が必要です。交差点のビルの上階、または御池通りの有料観覧席(全席指定)を購入するのも一つの手です。
今回は、祇園祭のメインの見どころを紹介しました。1カ月に渡るお祭りにはまだまだ魅力的な神事や祭事があるので、次回の「通な楽しみ方」もぜひご一読ください!
[参考]
京都 祇園祭
京都観光オフィシャルガイド 祇園祭
『月刊京都』2021年、2019年各7月号(白川書院)など