メキシコ壁画運動を牽引したディエゴ・リベラ
メキシコの首都メキシコシティには、壁画の見どころがたくさんあります。
「岡本太郎もびっくり?シケイロスの壁画が見られるメキシコシティのスポット」では、1910年のメキシコ革命後、1920〜40年代に起こったメキシコ壁画運動の中心人物のひとり、ダビッド・アルファロ・シケイロスの壁画スポットを案内しました。シケイロス、ホセ・クレメンテ・オロスコと並ぶ、メキシコ3大壁画家のひとりが、メキシコを代表する画家フリーダ・カーロの夫でもあるディエゴ・リベラ(1886-1957)です。
壁画運動は、ヨーロッパ主義的な芸術からの脱皮をはかり、先住民とヨーロッパ文化の融合から誕生したメキシコのアイデンティティを打ち出した芸術でした。メキシコの民衆に向けて、ルーツへの回帰や歴史、人びとの結束を訴えました。言葉が読めない人にも、壁画を見ただけでメッセージが伝わるように、公共の場に描かれているものが多いのも特徴です。あの岡本太郎もメキシコの壁画運動に大きな影響を受けたとされています。
今回の記事では、メキシコシティの数あるリベラの壁画のなかから、圧巻の壁画を鑑賞できる3つの場所を案内します。
大都会の喧騒を離れて、ゆっくり壁画の世界に入り込みましょう。
そこには、メキシコを知る鍵が隠されているのです。国立宮殿の『メキシコの歴史』
メキシコシティで絶対に外せない観光地、世界文化遺産に登録される歴史的中心区=セントロ地区の中央部、大広場ソカロにあるのが大統領府、国立宮殿(Palacio Nacional)。
この宮殿内はメキシコの政治の歴史がわかる博物館になっていますが、階段の踊場と中庭の回廊を囲むように描かれた、リベラの大作『メキシコの歴史(La historia de Mexico)』は何が何でも必見。1929〜1951年の間に描かれた壁画です。メキシコ誕生前の先スペイン期の芸術にインスパイアされ、先スペイン期の先住民の暮らし、スペイン征服、そして20世紀に至るまでの壮大な歴史を、壁画の力で雄弁に語っています。
回廊までのびる壁画には、先スペイン期に人々が物々交換を行う青空市の様子が詳細に描かれています。教育省の『労働と祝祭の中庭』
メキシコ教育省の建物には、1923〜28年の間に描かれた、リベラやシケイロスを含む10名以上の画家の壁画が並んでいます。
リベラの壁画が見られるのが、『労働と祝祭の中庭(Patios de Trabajo y de la fiestas)』と呼ばれる、省庁舎の2つの中庭部分を囲む回廊すべて。これでもかというほど多くの壁画が見られるのです。
まず「主要部(または「労働」)」の中庭の壁画では、
2階に「メキシコの宗教」、3階に「メキシコの科学、芸術の象徴」、4階に「労働の偉人や、革命の闘いの姿」が描かれています。階段の踊場には自然や人類をテーマにした壁画があります。もう一方の中庭部分は「フアレス(または「祝祭」)」と呼ばれて、2階にはメキシコの祝祭、宗教行事、政治が描かれ、3階にはメキシコ各州の旗が描かれ、4階には1910年のメキシコ革命の姿が描かれています、
リベラの妻の画家フリーダや、壁画運動の中心人物シケイロスの姿も描かれています。
ディエゴの妻、フリーダの姿が描かれた壁画『蓄積(El arsenal)』カルカモ博物館の『水、生命の根源』
チャプルテペック森林公園の「カルカモ博物館」は、メキシコシティまで流れていたレルマ川の水を受け止めるための施設。
貯水施設の水門部分に描かれたディエゴ・リベラの壁画と、建物のデザインの総称がカルカモと呼ばれていたことから、修復作業の末、2010年にようやく一般公開されて、現在は博物館となっています。この場所は現在もメキシコシティの一部の水道のための貯水施設として機能していますが、壁画保護のために、水を張ることはなくなりました。
水を受け止める部分には、人間と水の関わりを描いた壮大な壁画『水、生命の根源(El agua, origen de la vida)』(1951年)があります。
海のプランクトンから海洋生物が生まれた過程を底面に描いています。
入り口から向かって右側には男性の姿。これはすべての母であるアフリカから人類が誕生したというエピソードから描かれたもの。左側には女性の姿。黄色い肌なのはモンゴロイドと特定しているのではなく、アフリカで人類誕生後に混血の末にさまざまな人々が世界に生まれたということを示しています。つまりすべての人類は同じところから生まれているというメッセージなのです。
水を受け止めるような大きな手の両側には水を受け止める人々の姿があります
大きな手の先には池があり、そこに浮かぶ巨人の大きな顔が水を受け止めるように見えます。像は建物の内側から見ると、人間の顔、反対側から見ると、水の神トラウアックの姿になっています。
この水が、現在でもメキシコシティの都市部へ脈々と流れ続けているわけです。
Googleアースで見た池の画像。 メキシコシティの飛行場へ向かう飛行機のなかから、この巨人の姿が見えることもあるとか © Google建物もメキシコ先住民文化とアールデコ様式が融合していて独特。天井近くの照明部分にはケッツアルコアトルという鷲の頭を持った蛇の姿の神の頭部を模したものがあります。
建物内に設置されたパイプオルガンは、水の流れと連動した装置を作動させると、それによって演奏するのだとか。いつか聞いてみたいものです。
博物館の裏手にある貯水施設の古い塔のまわりには、緑があふれ、竜舌蘭やサボテンで囲まれていました。都会のなかの自然を楽しめる場所です。
この施設は自然歴史博物館(Museo de historia natural)の一部でもあり、入場料23メキシコペソで両方の博物館の展示を見ることが出来ます。
■Palacio Nacional(国立宮殿)
住所:plaza de la constitución s/n col. centro histórico Entre calles moneda y corregidora
開館時間:月~金 /10:00 ~17:00(公式行事などで予告無く休業)
料金:無料 (入場にパスポートなどの身分証明書が必要)■Secretaría de educación pública (メキシコ教育省)
住所:Argentina #28 Col. Centro Histórico, Del. Cuauhtémoc Distrito Federal
開館時間:月~金 /9:00 ~15:00(公式行事などで予告無く休業)
電話: (55) 3601-1000
料金:無料 (入場にパスポートなどの身分証明書が必要)■Museo del Cárcamo de Chapultepec(カルカモ博物館)
住所:Av. Neri Vela s/n,Bosque de Chapultepec, Segunda Sección
Miguel Hidalgo, Miguel Hidalgo, Distrito Federal
電話:(55) 5271 1939 内線113または112
営業時間:火〜日/10:00〜16:30
入場料:23メキシコペソ(火曜無料)