明治維新後、新しい繁華街として脚光を浴びるようになった銀座のレンガ街。東京のにぎわいの中心が日本橋から銀座へと移り、今も東京と言えば銀座を連想する人が、特に地方在住者には多いと思います。銀座には老舗の名店が軒を連ねており、多くの人を魅了してやみません。そんな銀座で老舗の喫茶店と言えば、どこになるのでしょうか?
そこで今回は1911年にオープンした歴史を持つ、銀座カフェーパウリスタを紹介したいと思います。
あのジョン・レノンも通った名店で、なんと「銀ブラ」という言葉の起源にもなっていると言われるお店になります。ぜひともチェックしてみてください。
ブラジルへの日系移民を助けるために喫茶店をスタート
カフェーパウリスタは、銀座通り沿いにある昔ながらの喫茶店になります。銀座8丁目と銀座の中でも「端」の方ではありますが、狭い店舗スペースで回転率を高め利益を狙う現代のコーヒーショップとは一線を画し、1階と2階を合わせ100席ものスペースで、のんびりと喫茶を楽しませてくれます。
カフェーパウリスタのオープンは1911年と明治時代。「移民の父」とも呼ばれブラジル移民事業を手掛けていた故・水野龍氏が、ブラジル共和国サンパウロ州政府から、年間1,000俵(約60トン)のコーヒー豆を無料で提供され、普及事業を委託されたところから始まります。サンパウロ州の狙いとしては、
<これを 農園労働の需要性と、コーヒーそのものを周知する機会としてほしい。日本がいずれ西洋を凌駕する民族発展をみるのは確実であり、生活様式が進化すれば、コーヒーは日本の嗜好に迎えられるに違いない>(銀座カフェ―パウリスタの公式ホームページ より引用)
といった思いがあったそう。一方の故・水野氏はコーヒーの普及が、ひいてブラジルに移民した日本人を助けると感じ、1910年に合資会社カフェーパウリスタを創業、翌1911年にカフェーパウリスタ銀座喫茶店をオープンしたのだと言います。
ちなみに「カフェーパウリスタ」という名前。ブラジルの母国語であるポルトガル語で、カフェーは「コーヒー」、パウリスタは「サンパウロっ子」「サンパウロの」といった意味があるそうです。
日本移民が収穫した準国産のブラジル豆を提供
とはいえ、創業者である故・水野氏は開業にあたって、そもそもコーヒーがどのような環境で飲まれているのかを知らなかったと言います。そこでパリのカフェ―・プロコプに視察に向かい、店舗スタイルをつぶさに観察してきたのだとか。
帰国後は銀座に白亜の2階建ての洋館を建て、日本移民が現地で収穫した準国産とも言えるブラジル産の豆を使って、サービスを開始します。
残念ながら創業店は1923年の関東大震災で焼失し、しばらく喫茶店としての営業は行っていなかったと言いますが、1970年に現在の地にお店を復活。2014年には2階に禁煙席を設け、現在のスタイルになります。
2階は50席のうち、8席がカウンター席になります。先日も平日に足を運んでみましたが、カウンター席は全部埋まり、テーブル席も常時、満席の盛況ぶりでした。
準国産のブラジル豆が「銀ブラ」の起源に
創業店の開業時、コーヒーをバカにする歌が流行したほど、市場にコーヒーは受け入れられていなかったと言います。しかし、白亜の洋館と、海軍士官の正装をした給仕の珍しい姿、さらには1杯の料金の安さで、次第に都会人に受け入れられていきます。
そのうち1日に4,000杯も売り上げるようになり、菊池寛、徳田秋声、芥川龍之介など文化人や、アインシュタインなど世界の著名人も訪れるようになったと言います。
そのころ慶應義塾大学の学生は、キャンパスから銀座のカフェーパウリスタまで歩き、ブラジルのコーヒーを飲んで談義する行為を、「銀ブラ」と呼び始めたそう。その造語が後に定着し、今に伝わっているのですね。
昭和に入って再スタートを切った後も、ジョン・レノンなど世界中の著名人が訪れたと言います。今ももちろん人気で、年配の方が常時喫茶を楽しんでいる一方、平日はビジネスマンの打ち合わせ場所としても利用され、休日は地方からの観光客を楽しませています。
1階で販売のコーヒー豆はお土産にもなる
看板商品はお店の方いわく、『森のコーヒー』。森林農法と言って、農薬を一切使用せず、他の果樹や作物と一緒にコーヒーを栽培する方法で収穫されたコーヒー豆を、バイヤーが各農園に実際に訪れて買い付けた商品になります。焙煎(ロースト)は普通で、ドリップで楽しみたいコーヒーだと教えてくれました。
次いで大プッシュされたコーヒーは、『パウリスタオールド』。深めのローストで、柔らかい苦味とコクのある風味がおいしく、ミルクと砂糖を入れて飲むとおいしいそうです。
もちろん、メニューは店舗でも注文できますが、1階では豆の状態でも購入できます。パッケージもおしゃれで、手提げ袋にはGINZAといった文字が印字されていますから、東京土産にも最適ですよ。
以上、「銀ブラ」の語源にもなったと言われる老舗、銀座カフェ―パウリスタを紹介しましたが、いかがでしたか? 1階のレジには「銀ブラ証明書」が置かれています。東京観光の証明書にもなりますから、忘れずに手に取って帰ってくださいね。
カフェーパウリスタ銀座店
http://www.paulista.co.jp/paulista/ 住所 東京都中央区銀座8-9 長崎センタービル1F
電話 03-3572-6160
営業時間 [月~土] 8:30~21:30、[日・祝] 11:30~20:00
定休日 年中無休(年末年始は除く)
席数 1階:50席、2階:50席
駐車場 なし
※分煙(1階喫煙可、2階禁煙) 但し土・日・祝祭日は1階2階共に禁煙
[All photos by Masayoshi Sakamoto]
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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