【メキシコ】カルト映画巨匠ホドロフスキー縁の地を巡る

Posted by: Miho Nagaya

掲載日: Aug 19th, 2014

新作映画が日本公開中のホドロフスキーとメキシコの深い関係

ジョン・レノンとヨーコ・オノ、デニス・ホッパーが惚れ込んだ魔術的ウエスタン映画『エル・トポ』で1970年代に世界的に名が知られることとなった、カルト映画の巨匠アレハンドロ・ホドロフスキー。南米チリ出身で、現在はフランス在住。劇作家、マルセイユ版タロットの研究者としても知られる多才な人物です。

そんなホドロフスキーの23年ぶりの新作映画『リアリティのダンス』が現在日本公開中。彼の同名自伝小説を基に描かれ、幻想的世界と原点回帰のドラマが一体となり、感動へと導く傑作です。


映画『リアリティのダンス』予告編 日本配給:アップリンク/パルコ

85歳になった今も精力的に活躍し、世界中の人々を魅了するホドロフスキーですが、実はメキシコと深い関わりを持っています。
ホドロフスキーは1958年から、メキシコシティに通算20年以上住み、100本以上の演劇を上演しました。そして、『エルトポ』、『ホーリーマウンテン』、『サンタ・サングレ』の3大代表映画をメキシコで撮影したのでした。

それでは、ホドロフスキーに縁があるメキシコの場所を案内していきましょう。

ホドロフスキーが暮らしたメキシコシティの家

ホドロフスキーが暮らし、マルセイユ版タロットの研究を行っていた旧自宅があった、メキシコシティ・ローマ地区の石造りの洋館の一部が、現在は改修され、現代アートギャラリーLa Galería OMR となっています。ホドロフスキーの自宅だった部分は現在アンドレス・ロエメルという、テレビ番組司会者をやっている芸能人が住んでいるので、残念ながら見学はできません。ギャラリー部分を堪能しましょう。

『エルトポ』が撮影されたメキシコの荒野

息子を連れて荒野を旅するガンマンの奇想天外な物語を、血なまぐさいウエスタンとラテンアメリカ文学にあるような、マジックリアリズム的感覚で描いた、カルト映画の金字塔『エル・トポ』(1970年作品)。

メキシコ北部ドゥランゴ州、コアウイラ州、ソノラ州、ヌエボ・レオン州や中央高原部のサンルイス・ポトシ州、イダルゴ州といった、荒涼とした砂漠、乾いた広大な大地で撮影されました。


映画『エル・トポ』予告編 (C)Alejandro Jodrowsky“La Danza de la Realidad” Caméra One,Le soleil Films


日本公開版『エル・トポ』予告編

『ホーリー・マウンテン』が描いたメキシコの万華鏡

1972年に撮影され、1975年に公開された『ホーリー・マウンテン』。ひとりの放浪者が、錬金術師とその弟子たちとともに、不老不死の7聖人たちが住むとされる「聖なる山」を目指して旅立つというあらすじで、宗教世界とサイケデリックが混沌とした、かなり奇天烈な内容。ロックミュージシャンのマリリン・マンソンが、自身の曲のPVで、『ホーリー・マウンテン』とホドロフスキーを意識した映像を使っていたために、再注目された映画です。

メキシコシティのセントロ地区、ソカロ大広場、メルセー市場、グアダルーペ寺院、メキシコ州のサテリテ・タワー、テオティワカン遺跡、メキシコ南部のチェチェン・イッツアー遺跡、ウシュマル遺跡、イスラ・ムヘーレスといった、観光スポットでもある場所がロケ地になっています。

http://youtu.be/5M5uWjGtFfI 
映画『ホーリー・マウンテン』予告編

カルト映画の巨匠ホドロフスキー、メキシコ縁の地を巡る
ケレタロ州方面に向かう高速道路の入り口に現れる、モダン建築の巨匠ルイス・バラガンが手がけた巨大モニュメント、サテライト・タワー(ラス・トーレス・デ・サテリテ Las torres de Satélite (C)Miho Nagaya

カルト映画の巨匠ホドロフスキー、メキシコ縁の地を巡る
軍隊の行進シーンに登場したメキシコシティのソカロ大広場(C)Miho Nagaya

『サンタ・サングレ』が捉えたメキシコシティのカオス

サーカス一家の子どもとして生まれた主人公が、狂った母の言いなりになり、自分に近づく女性を次々と殺してしまう・・・というホラーな物語でありながら、その独特な映像世界で、多くの人々の心を捉えた『サンタ・サングレ』。世界文化遺産に登録されるメキシコシティ中心部の歴史的地区を舞台にし、ヨーロッパと先住民文化が混じったような様式美の教会や建造物が立ち並ぶ町並みと、カオスな光景を映画の中に見事に取り入れています。


映画『サンタ・サングレ』予告編

メキシコシティの心臓部と呼ばれる大広場ソカロ(Zocalo)の北側には、南北アメリカ大陸最大のカトリック教の大聖堂=カテドラル(Catedral)がそびえ立ち、東側には大統領府となる国立宮殿(Palacio Nacional)があります。その大統領府の裏側の、商人たちや買い物客でごった返す「ソレダー(Soledad)通り」を東へ直進し、突き当たりにあるのが、16世紀に建てられたネオクラシック様式の教会、ラ・パロキア・デ・サンタクルス・ソレダー(la Parroquia de Santa Cruz y Soledad)です。
映画『サンタ・サングレ』のサーカスがあった場所は、この教会前の広場。

カルト映画の巨匠ホドロフスキー、メキシコ縁の地を巡る
最初は先住民たちの信仰のために建てられた教会だった ©Miho Nagaya

カルト映画の巨匠ホドロフスキー、メキシコ縁の地を巡る
参拝者たちが、ひっきりなしに訪れています©Miho Nagaya

カルト映画の巨匠ホドロフスキー、メキシコ縁の地を巡る
教会内には神や聖人の像がたくさんあります。不法移民を見守る神トリビオ・ロモの写真もありました。©Miho Nagaya

カルト映画の巨匠ホドロフスキー、メキシコ縁の地を巡る
ホドロフスキーの世界観と共通する感じ。©Miho Nagaya

映画『サンタ・サングレ』の大部分のシーンは、この教会周辺で撮影されています。教会はメキシコシティで2番目に大きな市場、メルカド・メルセー(Mercado Merced)からも、ほど近い場所にあります(治安が悪い地区なので、訪れる際は細心の注意を払ってください)。

「サンタ・サングレ」でサーカス一家が住む屋敷として撮影されたのが、メキシコシティ南部の高級エリア、コヨアカン地区にあるカーサ・フォルタレサ・デ・エミリオ・エル・インディオ・フェルナンデス(Casa Fortaleza de Emilio el Indio Fernández)です。この屋敷は、メキシコ映画黄金時代に活躍した監督・俳優のエミリオ・エル・インディオ・フェルナンデスの自宅だった場所で、その美しい建物が数々の映画の撮影に使われています。

定期的にイベントも開催される、カーサ・フォルタレサ・デ・エミリオ・エル・インディオ・フェルナンデス ©Facebook/Casa Fortaleza de Emilio el Indio Fernández

エル・インディオ・フェルナンデスが生きていた頃には、この屋敷にマリリン・モンロー、ブリジット・バルドー、ケネディ夫妻、マリア・カラス、フリーダ・カーロ、ディエゴ・リベラといった著名人たちが訪れていたのだとか。
一般公開していますが、見学の際は事前に要予約です。ちなみに2014年10月まで一般公開はお休みだそう。詳しくは公式Facebookを参照ください)。

PROFILE

Miho Nagaya

長屋美保 ライター

メキシコシティの路地裏から見た生のラテン文化や社会を追い続けるフリーライター兼なんでも屋。雑誌、WEB、ラテン圏アーティストのCD解説、映画、コンサートのパンフレットなど、メキシコを中心としたラテンアメリカの記事を日本の媒体に執筆するほか、リサーチやスペイン語⇔日本語翻訳も行う。情報サイトAll Aboutのメキシコ公式ガイドでもある。

メキシコシティの路地裏から見た生のラテン文化や社会を追い続けるフリーライター兼なんでも屋。雑誌、WEB、ラテン圏アーティストのCD解説、映画、コンサートのパンフレットなど、メキシコを中心としたラテンアメリカの記事を日本の媒体に執筆するほか、リサーチやスペイン語⇔日本語翻訳も行う。情報サイトAll Aboutのメキシコ公式ガイドでもある。

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