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地球上のさまざまな場所が探検しつくされたと言っても、冒険心をかき立てる場所はたくさんありますよね。例えば北極点もその代表例の1つ。既に未踏の地でなくなってから1世紀ほど経過していますが、いまだに「北極点に行く」と聞くと、壮大な冒険が想像されます。
そこで今回は北極点へ行こうと思ったら、どのような旅が待っているのかを、まとめてみました。
北極点には最初に誰が行った?
人類の歴史を振り返ると、北極点には誰が最初に行っているのでしょうか? TABIZINEの過去記事「想像以上に過酷すぎるエベレスト登山の費用や現実。登頂者の意外なエピソードも」でも触れたように、エベレストであれば最初に登頂に成功した人の名前は確定しています。しかし、北極点に関しては、判断が分かれる部分があるのだとか。
最初に北極点に到達したと言われるの1人は、クックになります。クックと言うとイギリスの探検家、ジェームズ・クック(キャプテン・クック)を思い浮かべていますが、こちらはアメリカ人のフレデリック・クック。1907~09年に北極点に到着したとされています。
他には1908~09年にロバート・ピアリーというアメリカ人の探検家が北極点に到着したとされています。しかしどちらも本人が到達したと「主張」していると判断されるそうで、確定的ではないみたいですね。
1926年には飛行船ノルゲ号が北極点上空を飛行し、1958年にはアメリカの原子力潜水艦ノーチラス号が北極点下(北極の氷の下)を通過しています。
1969年に徒歩で公式に北極点に到達したと認められている探検家は、イギリスのウォーリー・ハーバート。日本勢で言えば、1978年に日本大学山岳部が日本人で初めて北極点に到達し、その3日後に植村直己さんが世界で初めて犬ぞりを使って単独で北極点に到達しています。こうしてみると、北極点に人が公式に到達した歴史はそれほど古くはないのですね。
現在の北極点旅行はどんな感じ?
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人類が果敢にチャレンジして到達した北極点。2018年の現代で北極点に行こうと思ったら、やはり過酷な旅路が待っているのでしょうか。
結論から言えば、良くも悪くも現在は、お金を払えば誰でも北極点に気軽に行ける時代になっています。北極旅行を売りに出している旅行会社は複数存在していて、原子力砕氷船に乗り、北極点の真横までクルーズ旅行を楽しめる時代になりました。
「え、北極って分厚い氷で覆われているんじゃないの?」
と驚いてしまうかもしれませんが、北極の氷は季節によって異なるものの、暑さは3~5m。今は3m程度の氷であれば粉砕しながら突き進める74,000馬力の原子力船があるそうで、まさに北極点の真横まで船を乗りつけられる時代になっているのですね。
例えば北極点への旅行とクルーズの商品を販売するクルーズライフの公式ホームページを見ると、乗船料が1人300~500万円ほど。フィンランドのヘルシンキがベース地点になりますので、ヘルシンキからロシアのムルマンスクという港までの往復航空運賃、宿泊料などが別途で必要になると言います。
平均的な収入の日本人にはおいそれと支払える金額ではありませんから、北極点への旅は現代でもなお「容易ではない」旅路だと言えますが、富裕層からすれば気軽に冒険心を満たせる旅行先になっている様子です。
徒歩で北極点にたどり着く難しさを学ぶ
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しかし、北極の氷を原子力砕氷船で粉砕しながら突き進むという行為は、アンタッチャブルな何かに触れるようでちょっと気が引けるという人も居るはずです。そうなると独力で北極点を目指す必要が出てきますが、徒歩で、あるいは犬ぞりなどを使って北極点を目指すには、何からスタートすればいいのでしょうか?
手始めに、先人の冒険を知るところから始めるといいかもしれません。幸い日本には冒頭で触れたように植村直己さんという世界的な冒険家を輩出した歴史があり、植村さんの北極点への冒険は、さまざまな形で活字に残っています。
例えば筆者が子どものころに読んだ主婦の友社の少年少女大冒険シリーズの中にも、植村直己さんを取り上げた『北極点への挑戦』があります。植村直己さんはカナダ最北端のエルズミーア島のさらに最北端、北緯83度のコロンビア岬から北極点に犬ぞりで単独で到達した人ですが、普通の人では決して近づけない氷の世界が待ち構えていると、子どもながらに書籍を読んで怖くなった思い出があります。
北極の気温はマイナス51℃、乱氷帯が行く手を遮り、不意に足元の氷が割れる
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まず北極の厳しさは、気温にあります。植村さんが旅を始めた日は氷点下51℃。筆者は北海道に滞在しているとき、氷点下31℃を何度か経験しましたが、その程度でも頭が締め付けるように痛くなる厳しい寒さでした。
しかも、氷がスケート場のように平らに広がっていればいいのですが、北極は乱氷帯と言って海水の動きによって発生した起伏の激しい氷の障害物を延々と突破しなければならないと言います。
<北極海は、まさに生きている>(『北極点への挑戦』(主婦の友社)より引用)
とあるように、氷は絶え間なく静かに動き、無音の世界に氷の割れる不気味な音が鳴り続けます。夜寝て朝起きると、切り開いたはずの道が閉ざされているようなケースもあるそう。
地球温暖化の議論は脇に置いても、北極の海氷はどんどん小さくなり、厚みも確実に減っています。その影響もあって、氷にはところどころクラックという裂け目が発生しており、油断して移動していると新氷(しんぴょう)と言って、凍ったばかりの氷が割れ、冒険者や旅人を海に引きずり込む、ますます危険な場所がそこかしこに広がっているのだとか。
流氷が海面に浮かぶ流氷帯では、流氷に割れ目が走り、氷が不意に崩壊して、海水に落下する恐れもあると言います。夜のテント泊では、白クマの急襲にも備えてライフルを用意しておかなければなりません。
現役の冒険家で、北極点を単独で、無補給による徒歩での到達を目指している荻田泰永さんの言葉では、
<自分の足下で海氷が割れ、ブリザードにより一晩で20kmもテントごと流されるような世界>(日本極地研究振興会のホームページより引用)
が、北極であり、北極海なのだとか。正直、想像を絶する過酷な場所です。プロの冒険家ではない普通の旅行者が、おいそれと近づけるような場所ではありません。
そう考えると、北極点の訪問そのものを断念するか、あるいは少し後ろめたい気持ちがあっても、金銭的な負担を自らへの試練と考えて船や飛行機に乗り込み、裏技的に北極点を体験させてもらうしか手はないみたいですね。
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[地球が見える 2017年 – Japan Aerospace Exploration Agency]
[北極点無補給単独徒歩に挑む – 日本極地研究振興会]
[北極点への挑戦(主婦の友社) – 植村直己]
[植村直己と表現の犬アンナ(ハート出版) – 関朝之]
[北極探検の歴史 – クルーズライフ]
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