時を経てもなお語り継がれる、歴史に残る女性。彼女たちはどのような思いを抱き、恋をして、どんな人生を送ったのでしょうか。今回は過去から語り継がれている女性の生きざまを紐解いて、彼女たちの足跡を辿ってみました。
恋に生きた女性たちの足跡を辿る旅に、一緒に出てみませんか。
恋の宮 京都の貴船神社
京都 貴船神社
京都の奥座敷にある、縁結びで有名な「貴船神社」。縁結びとは恋愛に限らず、人間関係・仕事・学校・機会(チャンス)に恵まれること。「良い縁」を求め、連日多くの人が参拝に訪れます。
また水の神様なので、水を使う職業(酒、醤油、染織、消防士)、料理人、水商売の人達に厚く信仰されています。水は万物の生命源であり、燃え盛る火を鎮められるのも水。神社の名前の「貴船神社」を「きふねじんじゃ」と発音するのは、清らかな水がいつまでも濁らないようにとの願いが込められています。神域に湧く美しい御神水は、貴船山の湧き水です。
参拝の順番は「本宮」→「奥宮」→「結社」の順で、3社を参拝します。
縁結びの神 結社(ゆいのやしろ)
(C)AndyLai / Shutterstock.com 貴船神社・結社
縁結びの神 結社(ゆいのやしろ)は、本宮と奥宮の間にあるため、中宮(なかみや)とも呼ばれています。平安期にはすでに縁結びの神様として、庶民から宮廷の貴族まで多くの人々が参詣しました。
「結び文」に願い事をしたため、結び処に結んで祈ると願い事が叶うと言われています。
和泉式部は復縁を願った
京都(画像はイメージです)
平安時代の歌人和泉式部が夫の心変わりに思い悩んで参詣したのも、貴船神社の結社です。蛍(ほたる)の名所(6月-7月)でもあり、蛍が舞い飛ぶのを見て和泉式部が歌を詠みました。
物おもへば 沢の蛍も我が身より あくがれいづる 魂かとぞみる
心を悩ませ、もの思いに沈んでいると、光りながら川面を飛ぶ蛍さえ、私から抜け出た魂がさまよっているように見えるものだ。
(意訳 青山沙羅)
和歌を詠んだ川は「思ひ川」と呼ばれています。ロマンティックな名前ですね。和泉式部はこの川で身を清め、「夫の心がまた私に戻ってきますように」と必死に願いました。願いが叶ったことから、縁を再び結び直す、復縁のご利益もあるとされます。
貴船神社
住所:〒601-1112 京都市左京区鞍馬貴船町180
電話:075-741-2016
URL: http://kifunejinja.jp
結社(ゆいのしろ)のご祭神
結社のご祭神は以下の通りです。
磐長姫命(いわながひめ):木花開耶姫命(このはなさくやひめ)の姉に当たる神
貴船神社結社の神様は、女性です。この女性の神様が縁結びの神様になったのには、事情がありました。
ご祭神の磐長姫とはどんな女性
天照大御神(あまてらすおおみかみ)の孫、天津日高日子番能邇邇芸命(あまつひこひこほのににぎのみこと)が下界に降りた時、笠沙の岬(鹿児島県)の浜辺を歩いている木花咲耶姫(このはなさくやひめ)を見つけ、稀に見る美しさに一目惚れしました。父神大山津見(山の神)は喜んで結婚を許し、たくさんの結納品と共に、木花咲耶姫の姉の磐長姫(いわながひめ)も一緒に差し上げました。当時は姉妹が一緒にひとりの男性に嫁ぐ、姉妹婚はよく行われていたそうです。ところが、姉の磐長姫は岩のようながっしりとした身体つきに、醜い顔をしていたので、「姉は不要」と実家に返されてしまいました。
姉の磐長姫(いわながひめ)は出戻りの我が身を恥じ、身を隠していたようですが、京都の貴船神社の中宮・結社(ゆいのやしろ)で、御祭神として祀られています。縁結びの神さまですが、貴船神社は「丑の刻参り」ゆかりの地でもあります。
『富士山と女性の深い繋がり【あなたの知らない富士山トリビア】』より
磐長姫が縁結びの神様になった事情
天照大神の孫に見初められた、美人の妹木花咲耶姫(このはなさくやひめ)。当時は姉妹が一人の男性に嫁ぐ姉妹婚が行われていた(もしもの場合のエキストラ?)ため、姉の磐長姫(いわながひめ)もセットで嫁がせられたものの、どう見ても美人とはいえず「姉は不要」と実家へ戻されてしまいました。時代の背景もあるのでしょうが、マクドナルド的に「ご一緒に、姉もどうぞ」と嫁がせるのも強引な話ですね。天照大神の孫は美人の妹に一目惚れするような面食いだったのですから、無理矢理押し付けられた姉は要らない(元々望んでない)と拒否するのは致しかたない気もします。
しかしながら、女心は傷つきますよね。姉の磐長姫(いわながひめ)は、「醜いために、実家へ戻された出戻り」になってしまったのです。磐長姫は自分を大変恥じて京都の山奥貴船に身を隠し、「吾は此処に留まって人々に良縁を授けよう」 と鎮座したと伝えられています。
縁結びの神様が、出戻りの女性の神様だったとは驚きましたね。自分が良縁に恵まれなかったので、他者の良縁を願う神様になったようです。
美人の妹の話はタブー
静岡県松崎町雲見
実は磐長姫(いわながひめ)は、静岡県松崎町にある雲見浅間神社(クモミセンゲンジンジャ)にも祀られています。妹の木花開耶姫(このはなさくやひめ)が祭神になっている富士浅間神社からさほど離れていない、静岡県松崎町。海に突き出した標高163mの烏帽子山山頂(非常に急勾配な頂の上)に、雲見浅間神社は鎮座しています。登拝の際に富士山(木花開耶姫 このはなさくやひめ)を誉め讃えると振り落とされると言われ、富士山のご祭神である妹の木花開耶姫を意味する、「冨士」という言葉そのものがタブー。美人で繁栄の徳を持つ妹に嫉妬し、妹の木花開耶姫を見たくないと間に天城山を造ったとも伝えられています。姉妹のうち、ひとり出戻りになった屈辱は忘れ難いのかもしれません。磐長姫の感情を表すのか、富士山が晴れると当地は曇り、当地が晴れると富士山が曇るとも伝えられます。
兵庫県尼崎市にも名前の付いた「磐長姫神社」があり、磐長姫はなぜか茨城県で没した後「月水石神社」で祀られています。
妹には嫉妬心を捨てられないけれど、他人の良縁は叶えてくれるようです。自分が叶えられなかった夢を、他の女性には叶えて欲しいのでしょうね。「古事記」や「日本書紀」に登場する遠い昔の女神様ですが、人間臭くて親近感を感じませんか。
参考
[貴船神社]
[烏帽子山 静岡県松崎町]
[【意外と知らない日本人の新常識】富士山を嫌う人たちが住む場所があった! デイリーニュースオンライン]
[磐長姫神社 尼崎市神社案内]
[月水石神社 つくば子宝孫宝]
[世界宗教用語大事典 いわながひめ 【磐長姫・石長比売】]