自分らしさと世界標準の間で、私たち日本人はどう在るべきか|安積陽子氏インタビュー<6>

Posted by: 米田ロコ

掲載日: Jan 3rd, 2019

洋服やその装いの原理原則を学ぶだけでは、自分の個性を伝えることはできません。ルールを堅守しながらも、自分らしさを失わない装いが必要です。連載の最終回は、自分らしさと世界標準の間で私たちはどう在るべきか、そのヒントを探っていきたいと思います。


 

海外で“笑われてしまう日本人の服装や振る舞い”を辛口で紹介した話題の本『NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草』。周囲の視線を気にする日本人が、洋服の選び方や着こなしについては、なぜか無頓着。 奥深い内面があれば、当然、それは外見にも表れているべきという国際認識がある中、今後私たちは洋服をどのように装い、周囲にどう振る舞えばよいのか? 

同書の著者で、国際ボディランゲージ協会代表理事、イメージコンサルタントとして世界標準の装いや仕草に精通する、安積陽子氏へインタビュー。

連載 第6回 テーマ:自分らしさと世界標準の間で

洋服やその装いの原理原則を学ぶだけでは、自分の個性を伝えることはできません。ルールを堅守しながらも、自分らしさを失わない装いが必要です。そのために、日本人が変わらなければならないこと、逆に失ってはならないことは何なのか?連載の最終回は、自分らしさと世界標準の間で私たちはどう在るべきか、そのヒントを探っていきたいと思います。

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  • 外国人に対応する機会が多い
  • 海外旅行が好き
  • 日本文化が好き
  • 自分に似合う装いを知りたい

-前回は装いの原理原則を知る重要性についてお話いただきました。しかし、ルールを知ってその通りに装うだけでは、ある意味、個性が没されてしまう気がするのですが、それについてはどのように思いますか?
日本人のスーツ姿はルール通りでみんな制服を着ているようだ、とそれはそれで揶揄されてしまいそうです(笑)。

「全てがセオリー 通りというのは違いますよね。セオリーに忠実でありながらも 、最後にパーソルタッチじゃないですけれども、例えば、スーツだったらフラワーホールは普段は何もつけないでおくところを、自分の趣味とか個性が伝わるものを少しプラスしてみるなどするだけでも、相手に伝わることは違うと思います。
ですが、日本のビジネスパーソンの多くは、基本がわからないままで着崩してしまっていて、これはもう、着崩しとは言えないですよね。装いの基本を知っている人から見れば、この人はちゃんとルールがわかっていての着崩しているのか、何も教養がない中で着崩しているのか、一発で見分けられてしまいます。」
 

自分らしい装いの極意

ーでは、装いの原理原則を知ることは基本として、さらに、粋に自分らしく洋服を纏うために私たちが乗り越えるべき壁とは、一体どのようなことだと思いますか?

自分を知ることですね。自分の顔、髪の色、瞳の色、肌の色。自分の生まれ持ったものが、どういう印象を与えているか、そもそも、そういうことを知らない日本人は多いと思います。同じ日本人でも、顔はもちろん、瞳や髪の色だってよく見ればみなが「黒」ではありません。十人十色です。

まずは、自分の顔を知る。私たちは顔を見てコミュニケーションをとるので、顔は最強のコミュニケーションツールなんですね。本の中でも触れていますが、ラインによっても顔の見え方って変わりますし、肌と髪とのコントラスト、目と眉とのコントラストによっても印象は変わります。 
 
そして次は、顔から下。自分の身体はどういう印象やメッセージを与えているのか、それは身体つきとか、筋肉のつき方でも違います。自分の身体が持つコントラストレベルを知るとか、そこからですね。サイズが合っているからこの服を着ようではなく、自分の生まれ持ったものを最大に活かせる装いが理想的ですよね。

「実は、伝統ある家柄のエリートや莫大な資産を持つ富裕層子女は、幼い頃から、自分の生まれ持ったものを徹底的に研究して、装いを選択します。一見、フィットして見える服でも、自分の髪が美しく見える素材か、自分の瞳の印象を際立たせてくれるかなど、細部まで吟味します。」と安積さん。

-うーん、それは鏡に映った自分と向き合ってわかるものですか?他人の力をかりないと難しいことですか?

「これにも、基本の原理原則というのが存在します。例えば、繊細な顔立ちの方は、できるだけ繊細でエレガントなトーンの色の組み合わせや、柄の濃さ、コントラストの色合いなどを意識すると、すごく個性が活きると思います。こういった原理原則は多々あるので、ここで全てをお伝えするのは難しいのですが、自分の外見が果たして本当の自分を表せているのか、自分自身に問いかけながら、バランスがどうかというのを見ていく習慣をつけるとよいと思います。

-自分を知り、洋服の原理原則に基づいて装うことについて、本のタイトルにも出てくるNYやワシントンでは、一般人も当然のように知っていることなのでしょうか?

「アメリカは階級社会なので、ドレスコードを知っている人もいれば、そんなことは聞いたこともない、という人たちも存在します。親自身がそういう知識を持ち合わせていない場合も多いです。こういった、できている人とできていない人の差がくっきりと分かれているのが、いわゆるNYだったりとかワシントンだったりとか、アッパー層が多い街のひとつの特徴だと思います。決して、アメリカ人全員が完璧な装いをしているわけではありません。日本人も同じですよね。日本人といっても、一口で言えないところがあると思うので、知っている人は知っているという世界だと思います。
 
 ですが、これから世界で活躍したいと考えている日本の若い方々には、できるだけ早い段階で、この世界共通のルールを学んでいただきたいですし、そのために、巷に物が溢れている日本で、まず身につけるべきは、洋服を正しく装うスキルだと思います。

日本人に課せられたメンタリティの課題

-たくさんの日本人が海外に出てチャレンジしていくなかで、装いは見直すべきことですが、その他に日本人が見直した方がよい部分はありますか?

基本ですが、レディーファーストができていない方が多いですね。ガッカリされるかもしれませんが、どれだけ身なりをカッコつけようが、きらびやかにしようが、そこが一番肝心ですね。弱きを助け強きをくじくではないですが、子どもやお年寄り、女性を助けたり優先したりするということができていないほど、恥ずかしいことはないと思います。

-レディーファーストですか!?装い以前の問題ですね。人としてどう在るかを突きつけられているような・・・。

「そうです。装いや仕草以前に、メンタリティの問題。日本人は内集団といって、自分の家族、友達、恋人、クライアント等の近しい人に対しては優しいのですが、自分が属する集団の外側の人に対してまでは気持ちの余裕が持てない、というのが現状だと思います。

例えば、日本では、お年寄りや妊婦の方が電車に乘ってきても、平気で座っている男性がいますよね。ドアも、知り合いのためや、彼女のためには開けておくけれど、面識のない人だとバンと閉めてしまう。エレベーターも我先にと自分が出て、明らかに後ろに人がいるのに(ドアをおさえるなどして)開けておかない。そういった人が、装いに気をつけて、高級そうなバックを持っていても、倫理観とかマナーに欠けているのでは、尊敬されないですよね。もちろん、すべての日本人がそういうわけではありませんが。」

-日本の男性は、レディーファーストに沿った行動をとるのが恥ずかしいという気持ちもあると思うんですよね。どうでしょうか?

きっと、恥ずかしいという気持ち、ありますよね、ただ、見方を変えれば、(レディーファーストを)やらないことの方が恥ずかしい。飛行機の中でも、明らかに、お年寄りや女性が重い荷物をあげられなくて困っているのに、知らん顔して座っている人が結構(日本の方には)いますが、こういうときに真っ先にさっと立って、知らない人だろうが離れた人だろうが手伝う。そういった、人として基本中の基本が成っていなかったら、どれだけ食事のマナーができてようが、装いが完璧だろうが、人として、ゼロ以下の評価になってしまうんです。」

日本人が失ってしまった“日本の心”とは?

-日本にはジェントルマンシップがまだまだ根付いていないんですね。

「ジェントルマンシップ」というと、崇高な精神性や、人品、教養が振る舞いに求められますので、国民の間であまねく根付くのはそう簡単なことではありません。 しかし「周りの人々を気遣う」精神性の部分でいえば、江戸しぐさとして知られる“肩引き”(道で、人と肩が当たらないように身体を斜めしてすれ違う仕草)とか、“傘かしげ”(雨の日にすれ違う者同士が、傘があたって濡れないように傘を少し傾ける仕草)とかは、ジェントルマンシップと少しは通じるところがありますよね。ですが、現代では、プラットフォームを見ていても、お互いに肩をボンボンぶつけて歩いていく。それどころか、ぶつかっても何も言わないし、それが当たり前になってきてしまっている。その振る舞いは、NYでよく日本人が非難されることの一つでもあります。」


 
「日本では、いろいろなものが麻痺していってしまって、“これくらいイイじゃん”が増えていってしまっているように思います。ですが、こうした、人として当然のことを、どんな場所で誰に対してもきちんとできているかということは、忘れてはならないことですよね。

-色々とお話をお伺いしてきましたが、装いを学ぶというのは、自分の内面と向き合うことなのだと感じます。だからこそ、装いを見直すことって勇気がいるなあと思うんです。特に他人から装いを否定されると、自分のすべてを否定されたような気持ちになってしまいそうで・・・。

「確かに、装いを見直すことって勇気がいりますよね。人って、自分の耳障りの悪いことは聞きたくないんですよね。女性だけでなく、男性でも繊細な方は多くいらっしゃいますし。それについては、どんな立場の方も例外はありません。

例えば、政治家の方々とお仕事をさせていただく際、スーツの肩にフケが目立つ方が結構いらっしゃるんですね。以前、お仕事として依頼されている私が言わなければと思い、ある大物政治家の方に、オブラートに包みながら、それとなくフケのことをお伝えしたんですね。そうしたら、『これは、(国民のために頑張っているという)自己演出なんだ!とるなーっ!』と言われてしまったことがあります(笑)。でも、他者目線で言えば、どれだけご本人が頑張っているつもりでも、フケというものに抵抗感を抱く方も少なくありませんし、今は(テレビも)ハイビジョンなので、そういった細かなところまで映ってしまいます。

このように、ご自身が見直したいと考えていても、実際に自分の間違いを受けいれるというのは、非常に難しいところではありますよね。」

―なるほど。装いを見直す上では、自分を変える勇気も必要ですね。知るは一時の恥 知らぬは一生の恥、と先人の言葉にもありますしね。
 最後に、安積さんの今後の展望をお聞かせいただけますか?

「これは、ライフワークで考えているんですけど、将来的には子どもたちの服育ラボみたいなものを作りたいなと思っています。

まず、子どもたちがそれぞれ好きな柄、色、形とか、好きなだけ好きなように着させてあげる。なぜなら、子どもの服って、最終的には親が選んで買っているわけですよ。親が選んでしまうので、“本当に自分は何が好きか”を知ることもなければ、感性が育つこともないまま、制服の学校生活に突入して、社会人になったらスーツを着ろと言われ、スーツを制服と変わらない感覚で着ている。一度も装いから本当の自分を知ることもなく、感性を磨こうとしないまま、大人になってしまっている人が多いんですね。
ですので、子どもたちが『本当にいい素材ってなんなの?』とか『きれいな色味に寄せるってどういうことなの?』とか、洋服や装いに関して、実験しながら学べるサロンのような場を作りたいなと思っています。


いかがでしたか?装いにまつわる間違いは、ルールから外れているとかいないという問題だけではなく、深いところでは、日本人の価値観や感性に突きつけられた問いかけでもあるようです。 
世界標準を乗り越え、自身と向き合うことが、自分らしい装いに近づける道なのかもしれません。さあ、装いの哲学を探求すべく、人生の航海を続けましょう!
  
安積陽子氏インタビュー連載
<1>海外で笑われないための装い、洋服選び
<2>日本人は着物と一緒に「装いの哲学」も脱ぎ捨ててしまった?
<3>日本の常識は世界の非常識?日本人を残念に見せる仕草とは
<4>無知なジェスチャーが、旅先でもあなたを危険にさらしている
<5>日本のビジネスパーソンの装いの8割は、何らかのミスを犯している
もぜひチェックしてくださいね。

安積陽子 ASAKA YOKO

●国際ボディランゲージ協会代表理事
●IRC JAPAN代表

アメリカ合衆国シカゴに生まれる。ニューヨーク州立大学イメージコンサルティング学科を卒業後、アメリカの政治・経済・外交の中枢機能が集中するワシントンD.C.で、大統領補佐らを同窓に非言語コミュニケーションを学ぶ。そこで、世界のエリートたちが政治、経済、ビジネスのあらゆる場面で非言語コミュニケーションを駆使している事実に遭遇。2005年からニューヨークのImage Resource Center of New York 社で、エグゼクティブや政治家、女優、モデル、起業家を対象に自己演出術のトレーニングを開始。2009年に帰国し、Image Resource Center of New Yorkの日本校代表に就任。2016年、一般社団法人国際ボディランゲージ協会を設立。理念は「表情や姿勢、仕草から相手の心理を正しく理解し、人種、性別、性格を問わず、誰とでも魅力的なコミュニケーションがとれる人材の育成」。非言語コミュニケーションのセミナー、研修、コンサルティング等を行う。

《著書》「NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草

 
[Interview photo by MASASHI YONEDA]
Do not use images without permission.

PROFILE

米田ロコ

LOCO Yoneda ライター・編集者。

自由と自然を愛し、Vanlifeにて日本を旅する。

自由と自然を愛し、Vanlifeにて日本を旅する。

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