パリの風景に生活臭がない理由
映画や雑誌などで見るような惚れ惚れするようなパリの街並み。絵になる景色は、そこで暮らすパリの人々の日常からはかけ離れているのでは?なんて、ついつい疑問に思ってしまいますよね。なぜなら、人が暮らすということは、そこには生活感が滲み出るものだからです。
フランス、特にパリの風景からは一見すると生活臭がなく、うっとりする美しい古い街並みが連なっているような印象を受けます。そう感じられる理由の一つが、フランスでは洗濯物を干す風景が見られないことにあるのではないでしょうか。
日本であれば、どの街に行っても、人が暮らす場所では、ベランダや庭に洗濯物を干す風景が見られます。それは、人々の暮らしが感じられる景色の一つではないでしょうか。しかし、フランスでは窓辺やベランダに洗濯物を干すことをしません。なぜでしょうか。それには理由がいくつかあるのです。
外干しは美しくない・・・フランス人の美意識
フランスには古い建築物が残る景観を守る文化が根付いています。古い街並みに洗濯物が外干しされている風景は美しくない・・・、フランス人はこのように思うのだそうです。洗濯物の外干しは街の景観を壊すという観念があり、部屋干しでいくら部屋が湿ってしまったり、洗濯物の乾きが悪かったりしてしまっても、外干しをすることはないのです。さすが美の国のフランス人。驚くべき美意識です。
洗濯物を他人に晒したくない!
来日したフランス人が驚くことのひとつが、日本では下着などの洗濯物が普通にベランダに干されている景色だそうです。フランス人にとって洗濯物は他人には見てほしくないプライベートな物であり、特に下着が知らない他人の目に晒されることは我慢できないこと。そのため、洗濯物を外干しすること自体、抵抗があるのだそうです。
排気ガスなどで、外干しの洗濯物は汚れる!?
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お日様の光で乾かした洗濯物は気持ちがいいと、多くの日本人が感じるのではないでしょうか。フランスでは、外干しすると排気ガスなどで、洗濯物が汚れると考える人も少なくはありません。事実、パリは大気汚染が深刻で、年に何度か悪化するので、自動車の進入が制限されたりします。そのような環境の中で洗濯物を外干しするのは、衛生的に良くないのではないかと思うのだそうです。
南仏は実は外干しが多い
パリでは絶対に見かけませんが、コート・ダジュールなど、南仏の街を歩いていると、日本のように洗濯物を外干ししている景色が見られます。南仏では、洗濯物は太陽の光で乾かすのが一番という考え方が根付いており、これは南仏独特の習慣なのだそうです。筆者も南仏に来る度に、窓辺に外干しされた洗濯物がなびく街の景色を見ると、「南仏っぽいなぁ」と思ってしまいます。
しかし、南仏の名物である窓の洗濯物の外干しは、フランス国内では批判の対象に上がっているのです。景観破壊と不衛生という理由から、2014年度ごろ、ベジエ市の役所が取り締まっているというニュースが流れました。しかし、代々その地域に根付く習慣を変えるのは非常に困難であり、批判が起きようとも、南仏の窓辺の外干しは現在も続いています。
フランスでは乾燥機付き洗濯機が主流
それでは、フランスではどのようにして洗濯物を乾かすのでしょうか。日本のようにお風呂場に浴室乾燥機が付いていることはありませんので、部屋干しか、乾燥機を使うことが基本です。フランスでは乾燥機付き洗濯機が主流となっています。ただ、ベランダのあるアパートや庭のある家に住む人たちは、柵などがあり、道からは見えないのであれば、洗濯物を外干ししていることもあります。道路から洗濯物が見えることには反対ですが、そうでなければ洗濯物の外干しを好むフランス人も少なくはありません。
景観破壊という理由から洗濯物を外干ししない、南仏の外干しが批判の対象となるという、景観に対するフランス市民の意識の高さがうかがえます。このようなフランス人の徹底的な景観への美意識が、世界中から訪れる旅行者を魅了する理由の一つなのかもしれません。