元旅館の古民家を再生した趣あるカフェ
「大原」バス停より徒歩10分ほど。三千院側の道を京都方面に歩いて行くと、趣きのある立派な古民家が見えてきます。
こちらの建物は、明治後期に旅館として建築されたそうです。当時は若き日の日本画家・土田麦僊(つちだばくせん)が書生として住み込み、俳人として知られる高浜虚子(たかはまきょし)も何度か逗留したことがあるという、辺りでは有名な宿泊施設でした。
昭和初期に旅館が廃業となり、その後しば漬けの販売や生産をする民家として再生したものの、しばらく放置され、廃屋同然になっていたそうです。現在の店主・金城さん一家により平成12年(2000年)に大改修され、平成13年(2001年)10月に現在の建物が完成しました。
その立派な古民家の前に、木々や季節の草花がダイナミックかつセンス良く活けられています。思わず引き寄せられるように店内へ。
小説好きな母と娘が編集する美しい文芸誌
店名の「APIED」とは、フランス語の“a pied”(歩いて)を縮めた造語とのこと。小説がお好きだという金城さんが文芸誌をするにあたり、「焦らず、ゆっくり、丁寧な本を作ること」を目標に誌名を決められたそうです。
店内にはその文芸誌が置いてあり、購入することができます。毎号変わる表紙のニュアンスのある色合い、銅版画、コラージュ作家・山下陽子さんの挿画が、洗練されてとても美しいのです。
世界文学の中から一人の作家や一冊の小説を特集し、多彩な執筆者たちが、テーマに関するエッセーや創作、評論、詩などを寄稿されています。これまでにカズオ・イシグロ、夏目漱石、シェイクスピアなどを取り上げ、現在で38冊目です。
比較的古い映画が好きな筆者は、映画に関する「CINEMA APIED」を購入しました。読みながらそれぞれの映画を思い出し、ひとときその世界に入り込んでしまいます。
アンティーク家具が配されたセンスあふれる空間
カフェは、金城さんと娘の京香さんお二人の世界観を反映した素敵な空間です。上質な古民家にお庭の緑がみずみずしさを添えています。
そして、その空間に配されている、曲線の脚がエレガントなテーブル、ヨーロッパの香り漂う椅子、和紙製のランプ・・・。時を経て味わいを帯びたアンティークの家具が雰囲気を作り出し、和の空間にしっくりと調和しています。
アンティークの本棚には、金城さんならではの審美眼で選ばれた興味深い書籍が並んでいます。こちらではひとときスマホを鞄にしまい、本や写真集などをめくりたいところ。この建物の持つ歴史と相まって、ゆったりとした時の流れに誘われます。
小上がりの和室もあります。レトロなテレビがインテリアとなり、昭和にタイムスリップしたような空間です。和室でのんびりとくつろぐのもいいですね。
丁寧に作られたケーキとコーヒーで至福のひと時
思わずため息をついてしまうような世界観の中、手作りケーキをいただけます。
名前に惹かれて「枯山水ケーキ」とコーヒー(セットで800円・税込)を選びました。紅茶はアールグレイをいただけるようです。
「枯山水ケーキ」は、その名の通り枯山水の庭園をイメージしています。抹茶のアーモンドスポンジ生地に、甘酸っぱいフランボワーズのソース、コクのあるゴマのバタークリームの層仕立てです。3種がうまく調和しています。ガラスの器がまた美しい。
本を読みながら、ケーキと香り高いコーヒーをいただいていると、知らず知らずのうちに日常を忘れてしまいます。
洋ナシのジュース500円(税込)です。洋ナシのジュースなんて珍しいですよね。
「キャラメルシフォンケーキ」500円(税込)は、ふわふわでほのかにキャラメルの香ばしさを感じます。添えられている生クリームも質の良さがよくわかります。
ジンジャーエール500円(税込)は自家製です。まだ暑さの残る季節に、自然な甘味のジンジャーシロップとソーダがのど越しさわやか。
ランチには「スモークサーモンとクリームチーズのベーグル」「パストラミビーフとカテージチーズのベーグル」「キッシュ」「ケイクサレのセット」をいただけます。
お庭の鮮やかなグリーンが借景に
お庭には立派な蔵があります。樹木はよく手入れされているのが感じられます。
蹲(つくばい)や灯篭のある日本庭園です。日本庭園とヨーロピアンスタイルのカフェとが見事に融合しています。今はみずみずしい青紅葉ですが、時季になれば紅葉を愛でることもできます。
春秋の週末と祝日のみ、大原散策の合間に余韻を味わいながら、ゆったりとしたひとときを過ごせる素敵なカフェです。
[All photos by Yo Rosinberg]
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ロザンベール葉
主に横浜・東京で育ち、縁あって京都に在住。美術書出版社勤務を経て、フリーランスライター歴20年余り。フランス人のパートナーと共に、フランスとイタリアを中心に気ままな旅をする。海はどこも好きだけど、「地中海」という響きに憧れる。マイペースが好き。
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