【日本三大奇書】夢野久作『ドグラ・マグラ』・小栗虫太郎『黒死館殺人事件』あと1冊は?

Posted by: あやみ

掲載日: Aug 3rd, 2023

「奇書」とは珍しい書物や珍書を表す言葉です。なかには読むと精神に異常をきたすといわれている奇書もあり、読むときの精神状態に注意を払う必要があります。そこで今回は、日本三大奇書それぞれが、なぜ奇書と呼ばれるようになったのかをご紹介。いずれも難解ですが、読み応え十分で、何度も読み返したくなりそうです。

大きな本をのぞき込む人
 


 

読むと精神に異常をきたすといわれる問題作『ドグラ・マグラ』/夢野久作(角川文庫)

暗闇で本を読むイメージ
夢野久作氏が構想・執筆に10年の歳月をかけて書き下ろし、推敲を重ね、1935年に自費出版した小説『ドグラ・マグラ』は、時代を超えて多くのファンから愛されています。

同小説の発売当時、帯には以下のようなキャッチコピーが書かれていました。

『ドグラ・マグラ』は、天下の奇書です。これを読了した者は、数時間以内に、一度は精神に異常を来たす、と言われます。読者にいかなる事態が起こっても、それは、本書の幻魔怪奇の内容によるもので、責任は負いかねますので、あらかじめ御了承ください。

この小説が奇書といわれるのは、『瓶詰の地獄』や『少女地獄』といった作品にも登場する夢野久作独特の手法「書簡体形式(資料をそのまま地の文として配置すること)」が全体の半分以上に使われていて、一度読んだだけでは内容をすべて把握できないことが大きな理由のようです。それだけ複雑怪奇な内容となっています。

『ドグラ・マグラ』の簡単なあらすじ

記憶喪失の主人公が精神病棟のなかで自分が何者であるかを必死になって模索していき、やがて『ドグラ・マグラ』という表題の原稿を見つけます。それを読み進めていくと、自分が母親やいいなずけを殺した狂人であることに加え、自分を殺人狂にしたのは精神病理学の正木教授の非人道的な実験材料にされた結果であることを知り……。

ちなみに『ドグラ・マグラ』とは、かつてキリスト教宣教師が使った幻魔術のことで、その後、単に手品やトリックを意味するようになった長崎地方の方言だそうです。

まさにこの小説のタイトルにふさわしいと感じました。気になる方は、精神状態が良いとき(!?)に、読んでみてくださいね。また、映画やマンガであれば、比較的、内容を理解しやすいと思います。

【青空文庫】ドグラ・マグラ

江戸川乱歩も絶賛したとされるミステリー『黒死館殺人事件』/小栗虫太郎(河出文庫)

怪しい雰囲気の中で本を広げる人
小栗虫太郎『黒死館殺人事件』は、読んですぐに挫折するといわれている長編推理小説で、1934年、雑誌『新青年』の4月号~12月号に連載されました。

この小説の最大の特徴はストーリーとほとんど関係のない膨大なうんちく。衒学趣味(ペダントリー)に埋め尽くされていて、読み進めていくと、どのような場面なのか、具体的に何が言いたいのかわからなくなり、混乱してきます。

以下、冒頭はそれほどではないかもしれませんが、ここで挫折する人が出るのも納得です。

聖セントアレキセイ寺院の殺人事件に法水(のりみず)が解決を公表しなかったので、そろそろ迷宮入りの噂(うわさ)が立ちはじめた十日目のこと、その日から捜査関係の主脳部は、ラザレフ殺害者の追求を放棄しなければならなくなった。と云うのは、四百年の昔から纏綿(てんめん)としていて、臼杵耶蘇会神学林(うすきジェスイットセミナリオ)以来の神聖家族と云われる降矢木(ふりやぎ)の館に、突如真黒い風みたいな毒殺者の彷徨(ほうこう)が始まったからであった。 

青空文庫より引用

宗教学や占星術などの専門用語を多用していたり、読みづらい漢字にいちいちルビがふられているのも読みにくい原因になっています。

このように難解な推理小説であることから、日本三大奇書のひとつとされているのです。

『黒死館殺人事件』の簡単なあらすじ

神奈川県にある明治以来の建造物「黒死館」。そこで発生した連続殺人事件を刑事弁護士の法水麟太郎(のりみずりんたろう)が捜査していきます。建造者の降矢木博士は実験遺伝学の論争以後沈黙し変死を遂げたあと、遺子と、博士が海外から乳児のうちに連れてきた、40年間門外不出の神秘楽人4人がいました。博士の予言した殺人方法に従って、楽人が相次いで殺されていき……。

この小説にハマる人は、とことんハマりそうです。時間があるときに読んでみるのもいいかもしれませんね。マンガもありますよ。

【青空文庫】黒死館殺人事件

結末に驚愕! アンチミステリーと称される『虚無への供物』/中井英夫(講談社)

薔薇の花
塔晶夫の筆名で書かれた、中井英夫の長編小説『虚無への供物』。1962年、前半部分を第8回江戸川乱歩賞に応募したところ、最終候補作のひとつになりました。このとき、審査員のひとりだった江戸川乱歩は、実在する小説などを参照し、推理を繰り広げる本作を「冗談小説」と評したとか。

その後、後半部分を書いて、1964年に刊行。1969年に『中井英夫作品集』に収録されて以降、中井英夫名義に統一されています。

この小説は、連続密室殺人事件が発生し、それを関係者たちがそれぞれ4つの解釈を施し、8種類のトリックを推理するという構成になっています。

とはいえ、日本三大奇書のなかでは、読みやすく面白い作品だといえるでしょう。結末まで読めば、この小説がアンチ・ミステリーと称される意味もわかると思います。ミステリー好きの人は「な〜んだ」と思うかもしれませんが…。

『虚無への供物』の簡単なあらすじ

昭和29年、洞爺丸沈没事故で両親を失った蒼司(そうじ)・紅司(こうじ)兄弟、従弟の藍司(あいじ)らのいる氷沼(ひぬま)家に、さらなる不幸が襲います。密室状態の風呂場で紅司が死んだのです。そして、叔父の橙二郎(とうじろう)もガスで絶命。殺人なのか? 事故なのか? 駆け出し歌手・奈々村久生(ななむらひさお)らの推理合戦が始まります。

奇書に興味があるけど、まだ一冊も読んだことがないという方は、この作品から読むと良さそうです。マンガやドラマ版もあります。

[All photos by Shutterstock.com]

PROFILE

あやみ

Ayami ライター

フリーライター。劇団員、OL、WEB編集ライターを経て、フリーランスになる。辛い食べ物、東南アジアが大好き。旅するように生きるのが人生の目標。

フリーライター。劇団員、OL、WEB編集ライターを経て、フリーランスになる。辛い食べ物、東南アジアが大好き。旅するように生きるのが人生の目標。

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