イタリア、フィレンツェにあるサンタ・マリア・ノヴェッラ教会。教会が数多くあるフィレンツェの中でも大きく、美しい教会のひとつです。また、世界的に有名で、日本にも支店がある、世界最古の薬局「サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局」はこの教会の修道士たちが始めたものであることでも有名です。
さて、そんな有名な教会、その装飾美しい正面に教会にはちょっと似つかわしくない2つのものが付いているのです。美しいファサードの前で記念写真を撮ったことがある方もいるかもしれませんが、それに気づいた方は少ないかもしれません。
今回はフィレンツェから、教会の壁についている謎の物体のお話です。
サンタ・マリア・ノヴェッラ教会と世界最古の薬局
サンタ・マリア・ノヴェッラ教会は13世紀、ドミニコ会の修道院として建てられました。
ゴシック様式の美しい建築で、建物の高さと幅が等しくなるよう計算され、大きな正方形の空間となっており、中に入るとその広い空間にすっぽり包まれるような感覚になります。
この教会には、数えきれないほどの重要な美術作品が残されています。フィレンツェ大聖堂の鐘楼の設計者ジョットの十字架、マサッキオのフレスコ画「三位一体」、ボッティチェッリの師、フィリッポ・リッピの祭壇他、数多くあり、まるで美術館のようです。
そしてこちらの教会が世界的に有名な理由は、世界最古の薬局「サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局」の起源であること。
この薬局は、修道士たちが薬草を栽培し、薬剤を調合していたのが始まり。1612年に薬局として認可され、一般営業を開始。ヨーロッパ諸侯がその顧客リストに名を列ねていました。自然のものを原料とし、ナチュラルで高品質な薬や化粧品を提供するこの薬局は、今も世界中で愛されています。日本にも支店がありますので、愛用されている方もいらっしゃるかと思います。
教会の壁に掲げられた2つの不思議な物体
さてさて、このように歴史深く、また知名度も高いサンタ・マリア・ノヴェッラ教会ですが、その教会の正面に設置されている、教会らしからぬ不思議な2つの物は、教会の装飾の美しさに目を奪われて、見落とされがちです。
そのひとつはこちら。日時計です。
そしてこちらは渾天儀。なぜ、教会にこのような科学的装置が設置されているかというと、ドミニコ会修道士のひとりが天文学者であり、1512年、研究のため教会の壁にこれらを設置したのです。
教会と言えばお祈りを捧げるところといったイメージですが、中世では、文化芸術、そして科学を推進する役割も担っており、まさに人々の生活の基盤となっていたのです。
日々の生活の中にまぎれているちょっと不思議な光景、ちょっと注目してみれば、意外な物語がそこにはあるかもしれません。
[All photo by Ryoko Fujihara]