【たばこと塩の博物館「新収蔵ミニチュア展」】名人・小林礫斎を支えた「二人の中田」に焦点をあてたコレクション

Posted by: 下村祥子

掲載日: Oct 11th, 2026

東京・墨田区にある「たばこと塩の博物館」では、2026年9月26日(土)〜12月20日(日)の期間に「新収蔵ミニチュア展 名人小林礫斎を支えた二人の中田」を開催中です。新たに加わった中田藤之助のコレクションを中心に、約300点のミニチュアと関連資料を一堂に展示。もう一人の中田こと、中田實のコレクションとの関係も交えて紹介しています。ミニチュアの魅力と、ミニチュアの収集にかけた「二人の中田」の熱意を感じてみませんか?

「机硯箱揃」作:小林礫斎 蒔絵:今泉成之

稀代の名人・小林礫斎と、二人の中田のコレクション

木工や牙彫(げぼり)を得意とする職人であった「小林礫斎(れきさい)(1884-1959)」は、たばこ盆などの指物(さしもの)や、和装の装身具の袋物の部材作りを生業としていました。時代が和装から洋装へと移り変わり、日本人の生活が変化していく中、本来の仕事が減っていった礫斎は、持ち前の技術をミニチュア制作に転用し、稀代の名人となりました。

「長板揃物 長板」(4.64×9.84×0.27cm) 屏風や柄杓、茶筅などは礫斎作

彼の多くの顧客の中には、古美術商の「中田藤之助」と、茶人の家に生まれ切手収集でも名を馳せた「中田實」の二人の中田がいました。

「中田藤之助」は、箱根の富士屋ホテル近くで古美術商を営んでいましたが、昭和の初めに閉店し、ミニチュアの収集に乗り出しました。その作品群は既存の骨董品に加え、礫斎ら一流の職人への新たな依頼品からなり、極小の茶道具や印籠、人形など逸品ばかり。今回、その一部である、およそ300点が「たばこと塩の博物館」の収蔵品に加わりました。

礫斎の良き理解者だった“もう一人の中田”こと「中田實」も、礫斎にさまざまなミニチュア制作を依頼し「中田實コレクション」を築きました。このコレクションを寄贈された「たばこと塩の博物館」では、これまで度々展覧会を開催しました。

「新収蔵ミニチュア展」展示内容

今回の「新収蔵ミニチュア展」は4章で構成され、約300点のミニチュアと共に関連資料を一堂に展示しています。新たに加わった藤之助によるコレクションを中心に、實のコレクションとの関係も交えて紹介。ミニチュアの魅力と、収集にかけた「二人の中田」の熱意を伝えます。

I.箱根の中田

明治19年(1886)、中田藤之助は兄の松五郎と、箱根の富士屋ホテル前に古美術の店舗を構えました。松五郎が代表を務めて「中田兄弟商会」と称した同店は、古美術および陶磁器の名店として知られました。その後、藤之助が代表を継ぎましたが、昭和3年(1928)には閉店することに。所蔵品の売立を行った時の売立目録には、仏像や甲冑、葵紋のある調度品から、印籠のような小型のものまで全960点が掲載されており、扱っていた品数の多彩さが伝わります。

「中田兄弟商会」店舗外観

1章では、「中田兄弟商会」の店舗写真や売立目録などを通して、中田藤之助の商いの様子を紹介。売立目録に掲載されている、現在は当館収蔵のたばこ盆なども展示します。

「葵散し螺鈿蒔絵たばこ盆」(16.9×31.5×25.6cm)
売立目録には「一七一 紫檀葵蒔繪莨盆 銀牡丹彫煙管付」として掲載。昭和初期に大蔵省専売局により収集され、現在は「たばこと塩の博物館」の収蔵品となっている

II.中松庵藤翁コレクション

昭和3年(1928)に、中田藤之助は古美術商の引退後、ミニチュアの「蒐集(しゅうしゅう)」と「作製」を思い立ちました。コレクションの一部にある昭和8年や9年の表記が、職人たちに制作を依頼した時期を知る数少ない手がかりとなっています。

藤之助の収集品「中松庵藤翁コレクション」は、小林礫斎を中心とする一流の職人たちへの依頼品や、藤之助が集めた小さな骨董品に、新たに専用の箱を誂えたものなどからなります。

「机硯箱揃」(机:1.72×3.61×1.28cm 硯箱:1.36×0.86×0.32cm) 作:小林礫斎 蒔絵:今泉成之

「掛花生 銘 空蝉」(本体:φ1.03×2.25cm)

「植木棚」(3.88×11.48×13.3cm) 紀州徳川家伝来

「唐木提箪笥」(1.37×1.5×1.27cm) 作:矩曲 金具:村上定吉

「小倉山蒔絵硯箱」(5.3×4.2×1.33cm) 蒔絵:今泉成之 水滴:村上定吉 彫金:小林盛良

それらの収集品の展観を考えていた藤之助ですが、叶うことなく昭和12年に他界。コレクションの全貌は、昭和15年に跡継ぎの中田恭義がまとめた「中松庵藤翁蒐集竝鑑製 繊巧美術品目録」によって世に知られることとなりました。今回、新たに収蔵されたコレクションは、同目録に収められたものの一部です。

「中松庵藤翁蒐集竝鑑製 繊巧美術品目録」
藤之助の跡継ぎである中田恭義が昭和15年(1940)に刊行。作品目録と写真ページからなり、モノクロを中心に一部はカラーで掲載した豪華な一冊。関係職人の一覧も掲載されており、礫斎は象牙小細工師として載っている

2章では、藤之助が収集した骨董品と、当時の一流職人たちに制作を依頼したミニチュアを紹介します。

「人形」(後列右端の人形:5.7×5.74cm) 藤之助のコレクションは三折れ人形などの骨董の人形も多い

「交り金阿古陀(あこだ)香炉」(φ2.3×1.77cm) 作:村上定吉 彫:小林盛良

「印籠」(左端の印籠:2.52×2.16cm) 左端は森田藻己作

「切子揃」(箱:17.8×34.7cm) 紀州徳川家伝来

III.もう一人の中田 中田實とその周辺

「中田實(1877-1946)」は、礫斎の良き理解者であり、藤之助とともに主要な依頼主でありました。彼の父は、裏千家の高名な茶人・二代中田宗閑で、藤之助とは血縁はないものの系図上では従兄弟にあたります。

「山内容堂画 閑翁図」個人蔵
閑翁とは、實の祖父で茶人の初代中田宗閑(1793-1871)のこと。土佐藩主の山内容堂(1827-1872)は閑翁の門弟として知られています

小学生の頃から切手収集を趣味としていた實は、その大家として知られていました。昭和初期からミニチュアを集めはじめ、次第に自作したり、礫斎ら一流の職人たちに制作を依頼したりするように。藤之助と實は同時期に礫斎のミニチュアに熱中しますが、その収集方針は異なっていました。藤之助は工芸品に重きを置き、一方の實は「最小」を求めました。

「象牙箪笥」(左の箪笥:0.84×0.55×0.75cm) 作:小林礫斎 彫刻:浅野墨谷
左の箪笥の引出しには折本、右の箪笥の引出しには独楽などが入っている

「嵯峨人形」(ケース:1.83×2.43×2.93cm)
實自慢の嵯峨人形。ケースは礫斎に依頼して専用にあつらえたもの

「集第三号」(箱:2.57× 3.37 cm) 象牙三折人形、三味線駒、印籠、独楽 作:小林礫斎 巾着は實作

平成2年(1990)に「たばこと塩の博物館」では中田實コレクションを借用し、「小林礫斎とその世界 ~mm単位の繊巧美術〜」展を開催しています。その後、ご遺族のご厚意によってこのコレクションが寄贈され、展覧会を重ねてきました。

3章では、絵画や写真などの記録から、實の家族や職人たちとの交流、藤之助コレクションとの関係などの周辺事情を中心に紹介。合わせて中田實コレクションの一部を展示します。

「實の目録」
實はコレクションを小箱に分け、箱ごとに目録を編んでいた。しかし、コレクション自体が膨大な上に、實の几帳面さを反映して目録も細かく、未完のままとなった

IV.ミニチュアが呼んだミニチュア

平成2年(1990)以来、「たばこと塩の博物館」では過去5回にわたってミニチュア関連の展覧会を開催。そのたびに寄せられる関連情報によって、同館のミニチュアコレクションはさらに充実したものとなっています。

4章では、ごく一部ながら、近年になってさまざまな方から寄贈されたものや、紹介によって当館収蔵品となったミニチュアを紹介します。

「籠売り」(高さ(大)5.5cm 高さ(小)5.4cm)
無銘ながら、手の込んだ丁寧な作り。目の粗いものから詰まったものまで、多様な籠などを編み上げ、さらに竹製の軸に取り付けています

「銀更紗たばこ入れ」(袋:2.76×4.54 ×1.76cm) 筒:胡麻竹 緒締:珊瑚 前金具:硯に墨
実用のたばこ入れでも希少とされた銀更紗ですが、ミニチュアであるこの作品にはちょうどよい大きさの柄の生地が選ばれ、緒締や金具も適したサイズの一級品であつらえています

※資料のサイズは、縦×横×高さ(厚み)の順で記載

新収蔵ミニチュア展 名人小林礫斎を支えた二人の中田
会期:2026年9月26日(土)~12月20日(日)
会場:たばこと塩の博物館 2階特別展示室
所在地:東京都墨田区横川 1-16-3(とうきょうスカイツリー駅から徒歩約10分)
電話:03-3622-8801
「たばこと塩の博物館」公式サイト:https://www.tabashio.jp
入館料:大人・大学生 300円 / 小・中・高校生、満65歳以上の方 100円
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(ただし、10月12日、11月23日は開館)、10月13日(火)、11月24日(火)
※やむをえず開館時間や休館日を変更する場合があります
※最新の開館情報は、公式Xか電話でご確認ください
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PROFILE

下村祥子

SACHIKO SHIMOMURA ライター

旅行ガイドブックの編集者を経て、洋楽&邦楽のライブレポやインタビューを中心に手がけるフリーライターに。再び旅情報のメディアに戻ってきました。趣味は、都道府県のアンテナショップ巡り。川崎生まれ川崎育ちのフロンターレサポ。

旅行ガイドブックの編集者を経て、洋楽&邦楽のライブレポやインタビューを中心に手がけるフリーライターに。再び旅情報のメディアに戻ってきました。趣味は、都道府県のアンテナショップ巡り。川崎生まれ川崎育ちのフロンターレサポ。

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