日本に生まれ育つとなかなか実感することが少ないものですが、日本は多様な自然の宝庫。日本人なら行っておきたい、日本が世界に誇る4つの世界自然遺産をご紹介します。
世界自然遺産って?
「世界自然遺産」とは世界遺産のカテゴリーの一つ。世界遺産には大きく分けて文化遺産、自然遺産、そして文化遺産と自然遺産両方の価値を認められた複合遺産の3種類があります。
自然遺産は4つの評価基準「自然美」「地形・地質」「生態系」「生物多様性」のうち少なくとも一つを満たし、顕著な普遍的価値を認められたものをいいます。2016年6月現在、日本では知床、屋久島、白神山地、小笠原諸島の4つが世界自然遺産として登録されています。
知床(北海道)
「知床」の名前の由来となったのは、アイヌ語で「地の果て」を意味する「シリエトク」。その名の通り、「日本最後の秘境」ともいわれる知床には手つかずの大自然が残されています。
北海道の北東部に位置する知床半島は、海と川と森が一体となった生命の連鎖の舞台。半島を中心にしたおよそ4万ヘクタールもの面積をもつ広大な知床国立公園には、渓流や森林、湿原、湖沼などが変化に富んだ風景を生み出しています。
原始的な自然環境をとどめる知床は貴重な動植物の宝庫で、絶滅危惧種に指定されたオオワシやシマフクロウをはじめ、エゾジカやエゾリス、ヒグマ、さらに海にはクジラやシャチ、アザラシなどが生息。知床連山では800種類以上の貴重な高山植物が確認されています。
知床五湖やオシンコシンの滝、プユニ岬といった自然の風景の数々はダイナミックかつ繊細。
冬には壮大な流氷の景色も魅力で、「知床ブルー」と呼ばれる深い青の海と流氷が織りなす風景は息を呑むほどに神秘的です。
いのちからいのちへ、生命を育みつないでゆく母なる自然の雄大さを肌で感じられるはずです。
屋久島(鹿児島県)
島のほぼ全域が山地で、1000メートルから1900メートル級の山々が連なる様子が「洋上アルプス」とも称される屋久島。島の90パーセントが森林に覆われ、約20パーセントが世界遺産に登録されています。
屋久島は、「ひと月に35日雨が降る」と言われるほど雨が多い島で、年間降水量は8000ミリを超え、全国平均の5倍近くにのぼります。そんな特異な自然環境にあるからこそ、一般的なスギの最大寿命が800年程度であるにもかかわらず、樹齢1000年を超える屋久杉をはじめとする高湿度の環境に順応した特殊な植物が生育しているのです。
特に有名なのが屋久島のシンボル的存在となっている樹齢3000年を超える縄文杉。時を超えてひっそりとたたずむ巨木を目の当たりにすると、自然の神秘とエネルギーに圧倒されます。険しい山道を数時間歩いた人だけが味わえる感動体験です。
森全体が苔で覆い尽くされた白谷雲水峡はジブリ映画「もののけ姫」の舞台としても知られており、屋久島の中でも最も表情豊かな美しい森です。深い緑の森はなんとも神々しく、人智を超えた存在さえ感じられるほど。
白神山地(青森県・秋田県)
白神山地は青森県南西部から秋田県北西部にまたがる65000ヘクタールに及ぶ広大な山岳地帯で、そのうち中心部の17000ヘクタールが世界遺産に登録されています。これまで人為的な開発が行われなかったため世界でも最大級のブナの原生林が広がっており、貴重な生態系が認められています。
白神山地は約200万年前に始まった日本海の隆起によってできたといわれており、ブナの原生林はおよそ8000年前にさかのぼるとされています。アオモリマンテマなどこの地域固有の植物をはじめとした500 種以上の植物や、イヌワシやクマゲラなどの希少な鳥類、カモシカやツキノワグマといった野生動物が生息しており山全体が森林博物館のよう。
ブナ林と並ぶ見どころが鬱蒼と茂る原生林の中に点在する30以上の湖沼群、「湖沼群十二湖」です。そのなかで特に名高いのが宝石のように青く輝く「青池」。底に沈むブナの大木が見えるほど透明度が高く、季節に応じてさまざまな表情で訪れる人を魅了しています。
小笠原諸島(東京都)
なんと東京にも世界自然遺産があります。といっても、小笠原諸島は東京から南にはるか1000キロ離れた離島群。南北約400キロに及ぶ大小30あまりの島々の総称で、父母島列島の一部と聟島(むこじま)列島をはじめ7940ヘクタールが世界遺産に登録されています。
美しい紺碧の海と切り立った断崖に囲まれた景観から「絶海の楽園」と称えられる小笠原諸島。誕生以来、一度も大陸とつながったことがない隔絶された環境で動植物が独自の進化を遂げてきたことから「東洋のガラパゴス」とも呼ばれています。
小笠原諸島に生息する生物は鳥や風に運ばれたり、海流に流されたりして偶然島にたどり着き、島の環境に適応して生き残ったものの子孫です。それらが島の環境に合わせて独自の進化を遂げた結果、小笠原諸島には「固有種」と呼ばれるこの地でしか見られない動植物が多数生息しています。
島では固有種を観察するトレッキングやザトウクジラウォッチング、ダイビング、イルカと一緒に泳ぐ「ドルフィンスイム」など、豊かな自然と触れ合うアクティビティが人気。青のグラデーションがまぶしい海、満点の星空、緑豊かな森林・・・「日本にこんな場所があったなんて!」と思うに違いない楽園のような風景が広がっています。
日本にある4つの世界自然遺産。いずれもアクセスが良いとはいえないことから、「まだどれも行ったことがない」という方も多いのではないでしょうか。あなたもまだ見ぬ日本を目指して出かけてみませんか。
[環境省 日本の世界自然遺産]
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