一枚の画像からすでに妄想が始まっていた
緊急事態宣言の発令により、旅が遠すぎる存在になってしまった2020年。調べものをしているとき、偶然とある画像が目に入りました。それは、山形県酒田市の「山居倉庫」。旧荘内藩主酒井家が、米の保存と集積のために明治26年(1893年)に建設した酒田米穀取引所の付属倉庫です。
夏の高温防止と、冬の強い季節風から建物を守るためにケヤキが植えられ、倉庫には日陰が生まれます。緑深く生い茂るケヤキと倉庫のコントラストがとても眩しく、「ここを歩いて、深く深呼吸をしたい」そんな気持ちが芽生えたのでした。筆者が酒田へ行ってみたいと思ったきっかけは、1枚の画像だったわけです。
山形県酒田市へのアクセス
行きたかった酒田市への旅が決まり、驚いたのはアクセスのよさ。鉄道や高速バスもありますが、飛行機を使えば、羽田空港から庄内空港まではなんと約1時間。空港から酒田駅まではリムジンバスで約35分と「こんなにすぐに着くの?」と衝撃を受けます。
観光を楽しみたいなら、神サービスを逃さないで!
観光するにあたり、移動はやはり車がベストではありますが、運転ができない筆者は酒田市の「観光用自転車」を利用しました。神サービスともいえる「観光自転車」は、事前に予約する必要もなく、酒田市内の10か所で、当日借りることができます。その日の貸出時間内(18:30まで)に返却すればよく、その10か所の施設どこに返却してもOK。これだけ使い勝手がよくて、なんと無料です。
自転車での移動はとてもスムーズ。というのも、街中いたるところに主要観光地への看板が出ているため、どこへ行くにも迷うことなくたどり着けました。観光にやさしい街だと感じる一瞬でした。
行きたかった場所を目指して!
自転車に乗って、最初に目指す場所はもちろん「山居倉庫」。
街中を悠々と流れる新井田川沿いに位置し、橋側から見てもなんとも情緒があります。
白壁、土蔵造りの倉庫が9棟並び、歩いているだけでタイムスリップしたかのような気分に浸ることができます。
深呼吸をしたかった場所は、この「ケヤキ並木」。まさに写真で見たとおりの景色が目の前に広がり、その美しさに思わずため息。行ったり来たりを繰り返し、何度も何度も深呼吸を楽しんでしまいました。
「山居倉庫」の敷地内には、おみやげの購入や食事ができる酒田市観光物産館「酒田夢の倶楽」、お米に関する資料や農具などが展示された「庄内米歴史資料館」を併設しています。散策あとの楽しみもたっぷりのスポットです。
「山居倉庫」は、夜になるとライトアップされ、どの時間でも美しい風景を眺めることができます。その中でも、心を掴まれてしまったのは夕暮れ時。初めて見た景色のはずなのになぜか切なく、それでいてどこかあたたかい……。帰京後も、あの景色が恋しくなる瞬間が多くあります。
「山居倉庫」を調べていくうちに、もう一か所「行ってみたい!」と強く思う場所が出てきました。それがこの「日和山公園(ひよりやまこうえん)」です。
この公園は、桜の名所でもあり市民憩いの場である一方で、日本最古級の木造六角灯台や方角石といった歴史建造物が多数あるほか、展望広場からの夕陽は「日本の夕陽百選」にも選ばれたという、見どころ満載の公園なのです!
時間の問題があり、残念ながら夕陽の撮影はできませんでしたが、それでもやはり目の前に広がる景色は壮観で、眺めているうちに呼吸が深くなっていくような不思議な感覚になりました。
自転車でフラッと出かけられる距離に、これだけ贅沢な場所があるというのはかなりポイントが高いですよね。
気になる酒田グルメ
庄内地方は、山あり海ありと自然が豊かな地域であり、庄内空港の愛称はズバリ「おいしい庄内空港」。つまり、グルメも楽しみのひとつであります。おもいっきり地元の味を楽しみたいなら、酒田港周辺へ。
「さかた海鮮市場」では、日本海で水揚げされたばかりという新鮮な魚を購入するのはもちろん、お寿司や海鮮丼を味わえる飲食店もあります。1階の「菅原鮮魚」では、庄内浜産の地魚を中心に扱っているほか、お寿司やお刺身や総菜といったテイクアウトができる商品もあります。ここで購入したお魚を、1階の飲食店「喰居来居や 和ん(クイコイヤ ワン)」で食べることもできるのだとか。2階の海鮮どんや「とびしま」では、酒田港を眺めながら食事することができます。
また、2022年にオープンしたばかりの「SAKATANTO」もあり、こちらは、地域の食と観光をテーマにした施設。築50年以上の倉庫をリノベーションしたそうで、レトロな雰囲気が漂うおしゃれな施設でした。
住所:〒998-0036 山形県酒田市船場町2丁目5−10
電話番号:0234-23-5522
営業時間:8:00~18:00
(1F 菅原鮮魚 さかた海鮮市場本舗の営業時間です)
https://www.kaisen-ichiba.net/about.htm
SAKATANTO
住所:〒998-0036 山形県酒田市船場町2丁目5‐15
施設営業時間:10:00〜17:00(金・土・祝前日は~21:00まで営業)
施設閉館日:毎週水曜日
(※各店舗の営業日時は直接お問い合わせ下さい)
HP:https://sakatanto.com/
そのすぐ近くに位置する「みなと市場」は、鮮魚店をはじめ、山形の地酒の専門店や、新鮮な野菜や果物、特産品、酒田ラーメンやマグロ専門店など、地元のおいしいものが集まる市場です。
「おいしい魚が食べたい」そんな気分になった日には、酒田港に来れば間違いないでしょう。
〒998-0036 山形県酒田市船場町2丁目5−56
営業時間:9:00~18:00(店舗により異なります)
HP:https://www.city.sakata.lg.jp/sangyo/kanko/insyoku/minatoichiba.html
海の幸をお腹いっぱいに味わったら、次に食べたくなるのは、やはりお肉。豚肉の生産販売で全国的にも有名な「平田牧場」は、酒田市に本社を置いており、飲食店も展開しています。
とんかつ豚肉料理専門店「とんや」では、最高品種である金華豚や、平田牧場の代名詞ともいえる三元豚を味わうことができます。
筆者が注文したのは、ランチ限定メニュー「三元豚ロースかつ膳 110g」。すったゴマの中にソースを入れて、カツをつけて食べるのが「とんや」流。ソースも、平田牧場オリジナルとんかつソースに、辛みそガーリックソースの2種類あります。
サクサクの衣に、ジューシーな豚肉は最強の相性。お肉がとてもやわらかく、ボリュームたっぷりにも関わらず、ペロッと食べられるから不思議です。個性的なのは付け合わせのキャベツ。千切りキャベツに糸寒天を混ぜ合わせており、消化がよくなり食物繊維もたっぷり。ドレッシングや燻製オリーブオイルといった卓上の調味料も数多く、「おいしくとんかつを食べてほしい」という気持ちを強く感じるサービスでした。
三元豚ロースかつ膳(ランチ限定)
価格:1,500円
住所:山形県酒田市みずほ2-17-8 ガーデンパレスみずほ1F
電話:0234-23-8011
営業時間 ランチ 11:00〜15:00(L.O 14:30)
ディナー 17:00~20:30 (LO 20:00)
HP:https://www.hiraboku.info/
酒田へ来たのなら、必ず食べておきたいのが「酒田ラーメン」。港町である酒田のラーメンは、トビウオや昆布、煮干しなどの魚介系ダシの効いたスープと、薄い皮のワンタン入りが特徴。また、自家製麺比率が非常に高いため、お店によって麺のバリエーションも違うのだとか! 自分の足を使って、おいしいお店を見つけ出したい……そんな好奇心がムクムクと顔を出します。
ちょっとおしゃれに過ごしたい……そんな日には、2021年にオープンしたばかりの「日和山小幡楼(ひよりやまおばたろう)」へ。明治・大正期に建てられた料亭をリノベーションしており、洋食レストラン「日和亭」と「ヒヨリベーカリーカフェ」の2店舗が隣接しています。
「ヒヨリベーカリー」は、大人気店「メゾンカイザー」で修行した職人さんが、メゾンカイザーと同じ製法を用いた焼きたてのパンを提供しています。店内には酒田港を一望できる席もあるため、ここで食事しながらボーっとしてもよし、天気がいい日には、パンをテイクアウトして日和公園でピクニックをしてもよし。東京から友達が来たらここでおしゃべりしてもよし。妄想捗る素敵なお店でした。
住所:山形県酒田市日吉町2丁目9−37
電話:0234-25-5729
HP:https://www.obatarou.jp/
【日和亭】
ランチ 11:00-15:00(L.O.14:30)
ディナー(前日までのご予約制)17:00-21:00(L.O.20:00)
【ヒヨリベーカリー&カフェ】
営業時間:9:00~18:00(L.O.17:30)
「TOCHiTO(とちと)」へ行ってみた
旅することによって酒田の魅力をたっぷりと感じましたが、重要なのはやはり住むところ。いよいよ酒田市に誕生した「TOCHiTO」へ潜入です。
「TOCHiTO」は、酒田市の移住政策の一環で、市の公募で決定した民間事業グループによって、建設・運営されています。
移住者向けの賃貸型コミュニティハウス「TOCO(とこ)」と、住居者はもちろん、地域住民も気軽に利用できる交流棟「COTO(こと)」があり、この交流棟の2階には、コワーキングスペースや9室の貸オフィスを備えています。
「TOCO」と「COTO」の間の中庭は、憩いのスペース「CHiTO(ちと)」。バーベキューなどのイベント利用ができ、現在は、入居者のための家庭菜園スペースを整備中なのだとか。
住居棟である「TOCO」は、3階建ての18戸。1Kから2LDKと、人それぞれのライフスタイルから選べます。設備もしっかり整っており、ウォークインクローゼットも広め。生活しやすそうな部屋という印象を受けました。なんといっても、お隣さんはみんな移住者。これってとっても心強いですよね。
せっかく移住したのであれば、やはり地域に溶け込みたいという思いもあるはず。交流棟である「COTO」にはコーディネイターが常駐しており、移住者のさまざまな相談に対応してくれます。その内容は多岐にわたり、セミナーやワークショップといった地域とのふれあいの場の提供にはじまり、農業を体験したい人には、援農ボランティアのあっせんや、求職活動のサポートまでも相談に乗ってくれるのだとか!
というのも「TOCHiTO」は、庄内地方の生産者と強い結びつきのある「生活クラブ」と連携しているため、その生産者さんの畑や、食品の加工工場などが職場になる可能性も。今まで食べるだけだった側から生産する側への転身というのも、おいしいものだらけの酒田移住ならではかもしれません。
https://seikatsuclub.coop/
そしてうれしいのは、部屋からの眺め。道路を挟んだ先にあるのは山居倉庫!
そして、目の前には新井田川が流れ、その奥に鳥海山が見えます。窓を開ければ広がる穏やかな風景と爽やかな風が、都会での暮らしと大きく違うことを実感させてくれるのでした。
結果として
すでに移住をスタートさせた方々からのお話を聞く機会もあり、その内容は筆者にとってちょっぴり刺激的でした。
東京との2拠点生活を始めたという方、全く知らない同士でシェアルームを始めたという方、東京の便利で忙しい生活の中で年老いていくのが嫌だと語った方、小説家・藤沢周平が好きで「ずっと庄内に恋をしていた」と語った方……。
生の声を聞いた瞬間、自分の中での「移住」の意味が少し変わった気がします。想像していたよりもはるかに自由な発想で、「自分のやりたいことをとことんやる」というような、強い決意を感じました。もちろん、知らない土地での生活は「楽しむ」だけでは済まないと思いますが、移住するためのさまざまな環境が整っていることに加え、人も街も穏やかでホッとできる場所が多いこの地なら、乗り越えられそうな気がしたのでした。
[All Photos by koume]