なぜここをバケットリストに入れたのか?
「世界の七不思議」を筆頭に、この世には謎に満ちあふれたスポットがいくつもあります。南米に高峰を繋ぐアンデス山脈の麓の大地に描かれる、ナスカの地上絵も神秘のベールに包まれているようです。描き方、描いた目的などは、研究者にロマンを感じさせていることでしょう。古代ナスカの人々によって地表に描かれたと推定されるアートは、地上よりも上空から見下ろす方がより鮮明となるようです。ナスカではセスナ機による遊覧フライトが運航されています。古代に刻まれた地上絵を鳥瞰すれば、かけがえのない経験となることでしょう。
地表の黒ずんだ石を取り除くことによって輪郭線を描くナスカの地上絵
ナスカの地上絵は、ペルーの南部を流れるナスカ川とインヘニオ川に囲まれる、平坦な地表面に描かれています。大地にはパン・アメリカン・ハイウェイが突っ切っていますが、集落などを見ることはできません。熱帯の厳しい陽射しが、人を寄せつけないのでしょう。
太陽の光は地表に転がる石を酸化することによって、暗赤褐色に変色させます。この表面の黒ずんだ石を取り除くと、明るい白色の石が露出してきます。黒地の地肌に白色の輪郭線が描けるというわけです。大地に絵画を描く最良の方法と言えるかもしれません。
上空から鳥に変身したような気分で眺める地表のアート
ラインは表面から深さ数十センチ程度の凹凸で引かれているので、間近にいると見落としてしまいそうです。ところが上空から眺めると、くっきりとした図形が確認できることもナスカの地上絵の不思議に加えることができるかもしれません。
ナスカの空港からセスナ機に乗れば、鳥に変身したような気分で、地表のアートを眺めることができます。
スリル満点のセスナ機
ナスカの地上絵の上空には、パイロットを含め12人乗りの中型機と4人乗りの小型機が舞います。
小型機の客席からは操縦桿に手が届きそうです。パイロット体験に挑戦したくなるかもしれませんが、遊覧フライトは独特の飛行をします。地上絵の端に来ると先ず右側客席の人が地上を見やすくするために、機体を90度近く傾け右翼を下に向けた状態で10秒前後、水平飛行します。数十メートルの絵を飛び終えると、今度は機体を180度近く回転させながらフライト方向を逆方向に向けるのです。
そして左翼を下に向け水平飛行します。機先と翼を同時に旋回するタイミングはスリリングです。方向感覚も水平感覚も完全に失われてしまいます。お尻の先で青空が回転する光景などなかなか見られるものではないでしょう。セスナ機に搭乗する前に、怖さや乗り物酔いの不安で足がすくませるかもしれませんが、急旋回しはじめると、恐怖や酔いを感じるゆとりなど皆無となるようです。手すりを握りしめ、足を踏ん張ることだけに神経を集中させなければなりません。
13の地上絵の上空を飛ぶ遊覧フライト
大半の遊覧フライトは13の地上絵の上空を飛びます。クジラ、三角形、フクロウ人間、サル、キツネ、海鳥、クモ、ハチドリ、サギ、トンボ、手、海草、トカゲの順に、地表に描かれた古代のアートを観賞することができます。従って13回の急旋回を体験することとなります。最初はあたふたしてしまいますが、回を重ねるに従って慣れてくることでしょう。
最初に目に飛び込んでくるのはクジラの地上絵です。切れ目のない輪郭線が一筆書きで描かれています。最後部の大きく開いた2枚の尾ビレは、クジラが巨体を海面の上に跳ね上げるブリーチングの瞬間を描いているのでしょうか。
フクロウ人間の地上絵は、ガチャピンのようにユーモラスです。思わず地上絵に向かって手を振ってしまうかもしれません。
サルの地上絵は、前屈みの姿勢をとりながら、前足で小さな輪を作り、尻尾は螺旋状に描かれています。スリムな体型は、木と木の間を飛び回るサルの身軽さが表現されているかのようです。
海鳥の地上絵は、クチバシ、翼、脚、尾羽などの各部が、近くの中心点から放射状に広げているようです。生物を幾何学的に描写する古代ナスカのアーティストの得意とする構図のように見えます。
クモの地上絵ではシンメトリックに描かれた8本の足が、2本セットで独特のカーブをもって描かれています。前足に前に進むためのエネルギー、後足に体を安定させるためのエネルギーを蓄えているかのようです。口の鋏角や、糸を出す腹部などもくっきりと鮮明なラインでリアルに表現されていることに驚かされることでしょう。
ハチドリの地上絵は、胴体から嘴、翼、足、尾羽が放射状に延び極めて印象的。ナスカの地上絵がガイドブックなどで紹介されるとき、最も頻繁に登場するのがハチドリの絵でしょう。ハチドリは、アメリカ合衆国の南西部からアルゼンチンの北部に生息する体調10cm前後の鳥です。空中で静止するホバリング飛翔を得意としています。花に寄り添うように羽ばたきながら花の蜜を吸うときに、歌うような音を出すことからハミング・バードと呼ばれているようです。
トンボの地上絵は、長方形で左右に伸びる翅の前方の頭には、まんまるの眼が特徴的に描かれています。シンプルな幾何学的な図形がバランスよく組合わされているようです。トンボの地上絵の上を飛んだセスナ機は、手、海草、トカゲの地上絵の上空をかすめ、空港に戻ります。
ミラドールから高度やアングルを変えて眺める地上絵
手、海草の地上絵の近くのパン・アメリカン・ハイウェイ沿いには、展望台のミラドールが設置されています。
ミラドールからはセスナ機とは異なる高度やアングルで、地上絵を間近から観察することができます。
手の地上絵は、見る角度によって、万歳をしているようにも、何かを掴みとろうとしているようにも見えます。静止した図形でありながらアクティヴな動きを感じることもできるようです。
海草の地上絵は、緩やかなカーブで描かれ、海の波に身をまかせて海面や海中をしなやかにたゆたっているようです。
ミラドールの下の小さな土産物ショップでは、ナスカの地上絵が刻まれた小さな石が販売されています。
搭乗するセスナ機を選んで楽しむナスカの地上絵
ナスカの地上絵は、1994年に「ナスカとフマナ平原の地上絵」としてユネスコの世界文化遺産に登録されました。広大な大地に描かれているので、セスナ機に乗らなければ全てを目に収めることはできないでしょう。空港からは、アエロディアーナ社、アエロパラカス社などの遊覧フライトの運航会社があります。機体を選んでナスカの大地の空を舞えば、古代ナスカの人々のアート・センスばかりでなく、ダイナミック・フライトを楽しむことができることでしょう。
アエロディアーナ社:https://aerodiana.com.pe/en/welcome/
アエロパラカス社:https://aeroparacas.com.pe/
[参考]
Web「TABIZINE」記事:https://tabizine.jp/2019/05/14/259446/
「山形大学ナスカ研究所」公式ホームページ:https://www.yamagata-u.ac.jp/nasca/
アンソニー・F・アヴェニ『ナスカ地上絵の謎』(創元社)
シモーヌ・ワイスバード『ナスカの地上絵』(大陸書房)
飯尾響子『ナスカの壺』(JTB)
ダイヤモンド社『ナスカの地上絵』
地球の歩き方『ペルー・ボリビア・エクアドル・コロンビア』