「日本人の美意識」連載記事一覧
自然を愛でる「伝統的な感性」
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四季のある国に生まれた日本人は、季節の移ろいに敏感で、自然に対する感受性が強いと言われています。また、自然との調和を好み、人間は自然の一部であると捉える感性を持ち合わせる傾向があります。
風景の美しさについて記された古来の書物や、「借景」と呼ばれる技法が取り入れられた庭園、花や盆栽を愛でる姿が描写された浮世絵からも、昔から自然を大切に思ってきたことが伝えられています。
季節を表現する言葉「季語」
日本人が四季を楽しむ様子は、言葉にも現れています。古くから俳句などに使われている季節を表す言葉「季語」を見てみましょう。
たとえば有名な松尾芭蕉の俳句『閑さや 岩にしみ入る 蝉の声』では「蝉」が季語にあたります。五・七・五、たった十七音のなかに、草花や動物、天気、行事などの季節感のある言葉を入れることで完成する俳句は、庶民のなかでもブームとなり、かつて広く親しまれた文化です。
手紙に登場する「時候の挨拶」
季節の言葉を使う文化が現在も色濃く残っているのが「手紙」です。「新緑が目にしみる季節となりました」「落ち葉が風に舞う頃となりました」など、書き出しには四季の移ろいを感じられる一文を添えますよね。
また、少しかしこまった相手に対しては、メールやメッセージアプリのテキストでさえ「寒い日が続きますが、お元気ですか?」「日差しの強い季節ですが、夏バテなどされていませんか?」のように簡単な時候の挨拶を記す人も多いのではないでしょうか。
さらに、年賀状、寒中見舞い、暑中見舞い、残暑見舞いなど、季節ごとに手紙を送る文化が今も残っており、これらを通じて四季を実感する人も少なくないはずです。
エモーショナルな感情を表現する「四季の歌」
現代の日本のポップソングにも、四季を表現した多数の曲が見られます。桜、蝉、もみじ、雪など、各季節ならではの自然のモチーフをつかった歌はもちろん、海、空、さらには「息の色」や「風の匂い」のような、四季によって捉え方が変わるものまで「季語」として登場する曲は数知れず。
季語を使った歌詞は、季節ごとに感じる独特の空気感や情景まで人々に想像させることができます。また、四季を持つ日本で季節は移りゆくものだからこそ、よりエモーショナルな気持ちを呼び起こし、強く心に響かせられるのかもしれません。昔の人が自然を眺めて「いとをかし」と表現した感情は、現代の人が「エモい」と言い表す感情に近いものがあるのでしょう。
毎年待ち侘びる「季節のイベント」
日本には、お正月、節分、ひな祭り、こどもの日、七夕、お月見など、一年を通して季節を感じられる行事がたくさんあります。
なかでも四季のある国ならではのイベントといえば、お花見と紅葉狩りでしょう。多くの人が桜の開花や紅葉の見頃の予想をチェックし、まだかまだかと頭上を眺めるのです。その時期にしか楽しめない一瞬の美しい景色を見るために、わざわざ時間やお金をかけて遠くへ出かけることも珍しくありません。
自然を愛でることで喜びや癒やしを覚える感性は、現代の日本人にもしっかりと受け継がれているようです。
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