四ツ谷にそびえる大教会「カトリック麹町聖イグナチオ教会」
JR・東京メトロの四ツ谷駅からほど近く、新宿通りの信号をまたいで、楕円形の聖堂と高くそびえる鐘楼が見えます。
こちらが、今回訪問した「カトリック麹町聖イグナチオ教会」(以下、聖イグナチオ教会と記載)。「イグナチオ」の名は、イエズス会の創立者イグナチオ・デ・ロヨラに由来。日本有数の規模を誇るカトリック教会です。
写真でも見えるようにその立地は上智大学のお隣ですが、組織としては別。教会の中を訪問し、見学することが可能なんです。
荘厳な光に満ちた「主聖堂」
美しい花弁が開く天井
正門から敷地内に入って左手が、敷地外からも見えていた「主聖堂」。楕円形は命と復活の象徴である卵の形をモチーフにしているそうです。
聖堂の中に足を踏み入れると、外から見た印象以上に広々とした空間。
頂部で15mの高さになるという天井からは陽光がさんさんと降り注ぎ、荘厳さと同時に、現代的な印象も受けます。
何より目を引くのは、曲線が重なり合うようにして蓮の花をかたどる、見事な天蓋! 聖堂全体を覆うようにして輝く様子は、祈りの空間の主役と言える圧倒的な存在感です。
この天蓋の構造を支えているのは、聖堂を囲むように配置される大きな12本の柱。これらはキリストの弟子である十二使徒を表し、柱にはそれぞれの使徒を象徴する、12種類の十字架の銅板がはめ込まれています。
また9mにもなる柱は、上部に向かって次第に細くなっていく造り。聖堂全体の縦の奥行きを演出するだけでなく、信徒が天を仰ぎ見る視線とも重なるのだとか。
祭壇と十字架を囲む構造
座席数は最大で1,100席という、非常に大きな主聖堂。
中心に向かってすり鉢状の傾斜がついており、最も低い場所に置かれる祭壇を、信徒席をはじめ、司祭席、侍者席、バルコニー席、聖歌隊席のすべてが放射状に囲みます。
こうした構造は、どこからでも典礼をよく見ることができ、「最後の晩餐」の再現であるミサでは皆が同じ食卓を囲めるように、という思いから設計されたのだそう。
そして祭壇の背後に配置されるのが、こちらの十字架。
十字架の意匠は壁のレンガと同化し、目立たない縁取りのみ。対照的にブロンズのキリスト像は金泥が施され、浮かび上がるように輝きます。
また、その態勢も磔の姿ではなく、こちらに向かって両手を広げている格好。死後復活し、昇天する場面を意図してデザインされているのだとか。
一体感を感じられる座席の配置とあいまって、教会を訪れる人々を迎えるような雰囲気をたたえていました。
日本画家が手がけたステンドグラス
ステンドグラスも柱と同じく12枚。こちらには、火や水、鳥や花、「パンと葡萄酒」に関連する小麦やブドウの木など、聖書のエピソードにちなんだ自然が描かれます。
1枚1枚の美麗さも素晴らしいですが、カラフルに色づく光が差し込み、落ち着いたグレーを基調とする主聖堂の壁面に鮮やかなアクセントになっていました。
デザインを手がけたのは、日本画家の上野泰郎氏。聖堂地下のクリプタ(地下聖堂・納骨堂)にはその原画が、日本画の要素を感じられる屏風の形で展示されていますよ。
そして上野氏も、聖イグナチオ教会にて眠っています。
まるで禅寺のような「ザビエル聖堂」
シンプルながら洗練された空間
続いて「ザビエル聖堂」へ。主聖堂の横に位置する、80席ほどの小規模な聖堂です。
藁の混ざる素朴な土壁の表情や、光量を抑えた暖色の灯り、聖堂の内外に連なる池が反射する水面の揺らぎが、落ち着いた空間を演出。
池の水は水盤から絶えず湧き出し、かすかな水音が静謐な空間に響きます。
簡素ながら洗練された日本的な精神性が感じられ、まるで禅寺のような聖堂です。
静けさに満ちた思索の場
ザビエル聖堂では、信仰の表現も日本的。
正面に掲げられる十字架は、非常にシンプルなもの。キリストの体までが枝のように細く、華美さを排した“侘び寂び”とも言うべき価値観を感じられました。
キリストの捕縛から受難を表す14の場面を描く「十字架の道行」も、ザビエル聖堂では絵画やレリーフではなく、それぞれのシーンを表す漢字1文字が刻まれた木札で示されています。
明るさと荘厳さに満ちた主聖堂とは対照的に、こちらは内的な思索の空間といった印象で、教会のイメージを覆されます。
筆者は信徒ではないのですが、自分と向き合う時間として再び訪れたいと思った、素敵な場所でした!
教会の歴史と特徴を解説
長い歴史を伝えるステンドグラス
この聖イグナチオ教会の前身「幼いイエズスの聖テレジア教会」が設立されたのは1936年。
しかし1945年の空襲の被害に遭い、全焼。戦後ほどなくして、現在の場所に聖イグナチオ教会の建設が計画され、1949年に竣工、献堂式が挙行されました。
木造の聖堂は大きな船に例えられ、教会のシンボルである聖イグナチオを描いた大きなステンドグラスが正面を飾っていたのだそう。
そこからさらに半世紀が経過した1999年、聖堂の老朽化と信徒の急激な増加に伴って、3つの聖堂を擁する現在の教会が竣工しています。
旧聖堂を彩っていた聖イグナチオのステンドグラスは、正門から右手、建物の2階にある「マリア聖堂」に移設。
ほかにも、クリプタに降りる階段のステンドグラスや、地下聖堂のイエス像・聖母子像なども移設されたもので、教会の歴史を今に伝えます。
開かれた教会を象徴するマリア像
国際色豊かな開かれた教会であることも、聖イグナチオ教会の特徴の1つ。
日曜のミサは日本語のほかに英語、ポルトガル語、スペイン語、ベトナム語、インドネシア語、ポーランド語でも執り行われ、さまざまな国の人たちが集う場になっています。
多くを受け入れる教会を象徴するのが、2つのマリア像。
こちらは、クリプタの入り口にあるマリア像。足元には多様な国・人種の子どもたちが集います。
旧聖堂から移設されたものであり、戦後まもなくの設立時から、広く開かれていた教会の姿を伝えます。
一方こちらは、主聖堂にあるマリア像。優しい表情や佇まいが特徴的ですが、その顔や合わせた両手は黒ずんでいます。その理由は、訪れる方に触れられることですり減ったから。
元の白さと比べてわかる色の変化は、数多くの信徒を受け入れる、教会の規模の大きさを物語っています。
訪問時の注意をチェック・見学ツアーの実施も!
聖イグナチオ教会は、ミサの時間以外なら、信徒でなくても訪問・見学することが可能です。
なお、主聖堂は朝7時前から開いているとのこと。ミサの時間のスケジュールは、公式サイトに記載されています。
大切な祈りの場ですので、基本的なマナーを確認のうえ、祭壇前には入らず写真撮影はお控えください。
教会内の各所にはQRコードで読み込める見学者向けの音声ガイドが設置されているほか、詳しく見て回りたい方に向けには、毎月第2日曜日に見学ツアーも実施されています!
ツアーという形ですが事前申し込みは不要で、当日、主聖堂横のツアーデスクで受付とのことです。
また、正門入ってすぐの右手には、教会案内所がありました。こちらではキリスト教関連の書籍などを取り扱うお店も兼ねていますよ。
都会の喧騒を逃れて
教会の外に出ると、電車や車の音が絶えない都会の喧騒が戻ってきます。
東京都心の四ツ谷駅すぐに位置するとは思えない、静けさに満ちたカトリック麹町聖イグナチオ教会。堅苦しさを感じさせない美しい建築の中で、心洗われるひとときを過ごすことができますよ。
[Photos by ぶんめい]
※スケジュールについては最新情報をご確認ください。