「世界トレンド観光地」に選ばれたケムニッツとは!?Booking.comが旧東ドイツの工業都市を推す理由

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Nov 13th, 2024

宿泊予約サイト「Booking.com(ブッキングドットコム)」が選ぶ2024年のトレンド観光地として、大分県別府市、アメリカ・ポートランド、オーストラリア・ケアンズなどと並んでドイツのケムニッツという都市が挙げられていました。なぜケムニッツがいま注目されているのでしょうか? 多くの日本人には、どんなところかイメージさえ湧かないかもしれません。2024年11月1~4日に都立青山公園で行われた「ドイツフェスティバル2024」にて、ケムニッツの広報官に突撃インタビューしてみました。

欧州文化首都ケムニッツ2025の広報官であるFrizzi Seltmann(フリッツィ・ゼルトマン)さん ©︎渡辺昌彦

関連:マルクスの巨大な顔面がエモすぎる。ある意味の「映え」が知的興味をそそるドイツの工業都市を発見

ケムニッツがブッキングドットコムでトレンド入りした理由

「ドイツフェスティバル2024」の会場に掲示されたドイツの地図

「ドイツフェスティバル2024」の会場に掲示されたドイツの地図 ©TABIZINE編集部

そもそも、ケムニッツとは、ドイツ東部のザクセン州にある先進工業都市です。

世界地図で言えば、ベルリンがドイツの北東にあって、その首都を示す大きな印から、定規で線を引くように南の方へ目を向けると、ケムニッツを示す小ぶりな蛇の目(中黒の二重丸)の丸印が見つかります。

東西ドイツの時代で言えば東ドイツ、東欧と西欧で言えば東欧に位置します。ケムニッツ南部に広がるエルツ山地は、東欧のチェコと国境を共にしていると言えば、少し雰囲気が伝わるでしょうか。

ケムニッツの中心部にあるカールマルクスの像 ©︎坂本正敬

このケムニッツは、TABIZINEでも以前に紹介しています。ドイツ観光局主催のGTM(ドイツ・トラベル・マート)が今年の4月、ケムニッツで開催され、その取材で訪れました。

人口25万人弱の中堅都市が、近隣の大都市ドレスデンなどの立候補地を押さえて、2025年の「欧州文化首都」の開催地に任命されたと、そのときに知りました。欧州文化首都は、毎年EUの異なる国で行われる大規模な文化事業プログラムで、世界各国から招聘されたアーティストが参加する世界的なアートイベント。ケムニッツでも国際的な知名度向上、都市文化の創出、観光産業の活性化を図るために、さまざまなプログラムを実施していたのです。

歴史ある建築物のレッドタワー(写真中央)と旧東ドイツのモダン建築(写真左)が共存するケムニッツの様子 ©︎坂本正敬

共同開催地である38の周辺地域とケムニッツの結び付きを、パブリックアートと彫刻の道(パープルパス)の整備を通じて強めるプロジェクトだとか、東ドイツ時代に建てられた市内3万カ所のガレージを利活用するプロジェクトだとか、ケムニッツの仕掛ける取り組みは挙げればきりがありません。

2025年に先駆け、各種のプロジェクトはすでに進行中で、ブッキングドットコムでもこの盛り上がりが、トレンド入りの要因になったと考えられます。

ケムニッツ生まれの建築家によって旧東ドイツ時代に設計されたホテルを背景にしたパブリックアート ©︎坂本正敬

ケムニッツは「最も可能性に満ちた都市」

「ドイツフェスティバル2024」にて、ペトラ・ジグムント駐日ドイツ大使、フリッツィ・ゼルトマンさん、ドイツ観光局日本支局長・西山晃氏(右から)

「ドイツフェスティバル2024」にて、(右から)ペトラ・ジグムント駐日ドイツ大使、フリッツィ・ゼルトマンさん、ドイツ観光局日本支局長・西山晃氏 ©︎渡辺昌彦

その欧州文化首都ケムニッツ2025の広報官であるFrizzi Seltmann(フリッツィ・ゼルトマン)さんが、毎年3万人のドイツファンが集まる東京の「ドイツフェスティバル2024」を訪れ、PR活動を行いました。

©︎渡辺昌彦

フリッツィさんは、欧州文化首都ケムニッツ2025の広報官として、実際にブッキングドットコムの語る「トレンド」の熱を感じた1年になったのでしょうか。

その問いを投げるとフリッツィさんは笑って、やや自虐的に、次のように英語で答えてくれました。

「People in Chemnitz are very surprised and skeptical.」

日本語にすると、ブッキングドットコムのトレンド入りをケムニッツの人々はとても驚いているし、本当に「トレンディー」な観光都市なのか懐疑的だという意味です。

近隣の大都市ドレスデンのように、美しい街並みが広がる「完璧な」観光都市ではないケムニッツが「トレンディー」と言われても、自分たちでもちょっと驚いてしまうといった補足もありました。

ケムニッツの側は、ブッキングドットコムに何も働きかけたわけではないので、なおさら意外なのだとか。ただ、

「Chemnitz is the most potential city.」(ケムニッツは、最も可能性に満ちた都市)

とフリッツィさんが言うように、ケムニッツは今年、観光客が2020年との比較で20%以上増えているそう。週間訪問者数も平均で4万人に達し、TABIZINEが現に取り上げたように、ケムニッツのメディア露出は今年、爆発的に増えているのだとか。

©︎渡辺昌彦

さらに、上述したとおり、欧州文化首都に向けて150のプロジェクト、1,000を超えるイベントが進められています

その意味では、2023年末の段階で「トレンディーな観光都市になる」とケムニッツを紹介したブッキングドットコムの見解は、的を射ていると言えそうです。

ケムニッツ周辺のクリスマスと世界遺産も見逃せない

都立青山公園で行われた「ドイツフェスティバル2024」の様子

都立青山公園で行われた「ドイツフェスティバル2024」の様子 ©︎渡辺昌彦

このケムニッツと周辺地域が日本人にとって見逃せない理由としては他にも、日本人の大好きなコンテンツの存在が挙げられます。ズバリ、クリスマスと世界遺産です。

「クリスマスのゆりかご(cradle of Christmas)」とブッキングドットコムが表現するように、ケムニッツ南部のエルツ山地(エルツは「鉱石」の意味)には、くるみ割り人形や煙出し人形、鉱夫人形、天使の楽団、クリスマスピラミッド、キャンドル置きといったクリスマスオーナメントの生産拠点が点在します。

「The ore mountains are the very cradle of Chiristmas.」(その鉱山地帯がまさに、クリスマスのゆりかご)

とのフリッツィさんの言葉どおり、エルツ山地では、鉱山の作業従事者たちの副業として家内工業的な木工品や木製おもちゃづくりが盛んです。暗い鉱山内に持っていく明かりをモチーフにしたキャンドルアーチなど、土地の歴史に根差したオーナメントはやがて、ドイツ全土にも広まりました。

他の都市と同じく、エルツ山地の各市町村では当然、地方色豊かなクリスマスマーケットが開催されていて、鉱山の作業従事者たちがクリスマス前に盛装して行うパレードは、ドイツの無形文化遺産に登録されています。

さらには、エルツ山地鉱業地域の特異な文化景観そのものが世界遺産に登録され、それらの地域を巡る際の拠点にケムニッツが適しているのです。

「ドイツフェスティバル2024」の特別ステージに出演したケムニッツ出身の人気急上昇中のバンドBlondの演奏の様子

「ドイツフェスティバル2024」の特別ステージに出演したケムニッツ出身の人気急上昇中のバンドBlondの演奏の様子 ©︎渡辺昌彦

もちろん、ケムニッツでも市庁舎の周辺で毎年、クリスマスマーケットが行われ、エルツ山地の木工品を購入できます。

ケムニッツは鉄道を使えば、東京との友好都市提携30周年を迎えた首都ベルリンから片道2時間半ほどで行けます。直線距離では約190km。

ドイツ旅行の際にはサイドトリップ先として「トレンディー」なケムニッツを2025年こそ選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。

ケムニッツ出身の人気急上昇中のバンドBlondの2人と欧州文化首都ケムニッツ2025広報官Frizzi Seltmannさん(中央) ©︎渡辺昌彦

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欧州文化首都ケムニッツ2025公益有限会社
Kulturhauptstadt Europas Chemnitz 2025 gGmbH
Fabrikstraße 11
09111 Chemnitz
presse@chemnitz2025.de
www.chemnitz2025.de

Chemnitz 2025: European Capital of Culture Logo

ドイツ観光局ロゴ

協賛:ドイツ観光局

[参考]
Top 10 trending travel destinations for 2024 – Booking.com
Miners’ Parades and Processions in Saxony – German Commission for UNESCO
Erzgebirge/Krušnohoří Mining Region – UNESCO
Chemnitz Christmas market – Chemnitz

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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