
サクヤンはただのタトゥーではない

サクヤンは見た目こそタトゥーですが、本質はまったく異なります。重要なのはデザインではなく、「誰が、どのような意図で施すか」です。
本来のサクヤンは、護符として扱われる宗教的な刺青です。ただし「入れれば幸運が得られる」「神の力で守られる」といった単純なものではありません。
サクヤンにおいては、体に痛みを刻む行為そのものが、自身の生き方や信念と向き合う意味を持つと考えられています。つまり、外から与えられる力に頼るものではなく、自らの覚悟を刻む行為です。
この点において、サクヤンは装飾のみを目的としたファッションタトゥーとは本質的に異なります。
施術では、僧侶やアチャーンのみが唱える「カタ」と呼ばれる祈りが伴います。この工程を含めて初めてサクヤンは成立します。そのため、デザインのみを模した観光向けのスタジオとは、本来の意味において明確に異なるのです。

道具はメタルロッドと呼ばれる針を用いた手彫りが一般的です。近年はタトゥーマシンを選ぶケースもありますが、工程自体が通常のタトゥーとは異なります。施術時間はデザインやサイズによりますが、およそ1〜2時間が目安です。

入れる前に知っておきたい10の真実
1、タイでも一様に受け入れられているわけではない
サクヤンはタイに広く伝わる文化であり、スポーツ選手や芸能人などが入れていることから、肯定的に受け止められている印象もあります。
しかし実際には、タイであってもタトゥーそのものに対して慎重な見方をする人も一定数存在します。宗教的な意味を持つサクヤンであっても、その認識は一様ではありません。
また、入れる場所によっては現実的な制約もあります。サービス業などでは、見える位置にタトゥーがあることで不利になるケースもあります。
こうした背景を踏まえると、サクヤンは文化として存在しながらも、自由に扱ってよいものではないという側面も持っています。

2、デザインは自分で選ばない
サクヤンは、一般的なタトゥーのように自分でデザインを選ぶものではありません。
施術前に僧侶やマスターと話をし、人生の悩みや目標、覚悟などを伝えます。その内容をもとに、相手がデザインを決めます。

サクヤンのデザインにはそれぞれ意味があり、見た目の好みで選ぶものではありません。現在の状況に合ったものを提案されるという考え方です。
この点は、装飾を目的としたタトゥーとの大きな違いです。
3、彫るだけでは成立しない
サクヤンは、デザインを彫るだけで完成するものではありません。施術のあとに、僧侶やアチャーンが「カタ」と呼ばれるパーリ語の経文を唱え、祈りを吹き込みます。
この工程を経て初めてサクヤンは成立します。彫るだけで完結する一般的なタトゥーとは、この点が大きく異なります。

一方で、観光地にあるサクヤン風のスタジオでは、このような儀式は行われません。見た目が同じであっても、過程が異なれば意味や受け止められ方は変わります。
4、施術を受けられる条件がある
サクヤンは、誰でも自由に受けられるものではありません。
サクヤンの祈りである「カタ」を受け取るためには、仏教の基本的な戒律を守ることが前提とされます。代表的なものとして、五戒が挙げられます。
- 五戒
- 生き物を殺さない
- 嘘をつかない
- 不道徳な性行為を行わない
- 盗みをしない
- 過度の飲酒や薬物を避ける
こうした戒律を守る意思がない場合、施術を断られることもあります。
また、サクヤンへの理解が浅く、単なるファッション目的と判断された場合も、僧侶やマスターの判断で施術を行わないケースがあります。
5、腰から下には入れられない
タイの仏教では、腰から下は不浄な部位とされ、仏陀に対して不敬にあたると考えられています。
そのため、仏教的な意味を持つデザインのサクヤンを腰から下に入れることはできません。部位にも明確な制約がある点は、一般的なタトゥーとの大きな違いです。
6、見えないサクヤンという選択肢もある
サクヤンには、透明のオイルを用いて目立たない形で施術する方法もあります。見た目にはほとんど分からないため、仕事や生活への影響を避けたい人に選ばれるケースもあります。
施術で使用される透明オイル
施術直後は赤みや腫れが出ますが、2〜3日で落ち着き、外見上はほとんど確認できなくなります。
ただし、見えないからといって意味が変わるわけではありません。サクヤンとして扱われる以上、他のサクヤンと同様に考える必要があります。
7、衛生管理と感染リスクは必ず確認する

サクヤンの施術では、皮膚に針を入れる以上、感染リスクが伴います。多くのスタジオでは使い捨ての針や機器を使用し、医療関連の証明書を掲示している場合もあります。
一方で、タイのタトゥースタジオは場所によって衛生管理に差があるのも事実です。見た目だけでは判断できないため、事前の確認が欠かせません。
具体的には、使い捨ての針を使用しているか、施術前に開封しているか、手袋の着用や器具の管理が適切かなどをチェックする必要があります。
8、旅行中は行動に制限が出る
サクヤンの施術後は、一定期間のケアが必要です。一般的に2〜3週間ほどは、プールや海での遊泳、サウナ、強い日差し、飲酒などが制限されます。
この間はかゆみや違和感が出ることもあり、普段どおりに過ごすのが難しくなります。旅行中に施術を受けると、行動に影響が出る点はあらかじめ理解しておくべきでしょう。
また、インクが肌に定着するまでには1〜2か月ほど必要です。帰国後の生活にも影響する可能性があるため、タイミングは慎重に判断するべきです。
9、サクヤンは後から消してもよいのか
一般的なタトゥーと同様に、サクヤンも後から消すこと自体は技術的には可能です。ただし、宗教的な意味を持つ行為であるため、その扱いに戸惑う人も少なくありません。
この点について、取材したサクヤンマスターは「問題ありません。本人にサクヤンに対する意思がなくなった時点で、サクヤンは意味を持たなくなります」と話します。

サクヤンは外から力を与えられるものではなく、あくまで本人の意思や向き合い方によって成り立つことが本質とされています。そのため、信仰や考え方が変われば、意味も変わるという考え方です。
10、入れてからが本当のサクヤン

サクヤンは、入れた時点で完結するものではありません。
サクヤンは本人の意思や向き合い方と結びついた行為とされており、その後の生き方が重要だと考えられています。入れたからといって自動的に何かが変わるものではなく、日々の行動や選択とともに意味づけられていくものです。
このため、サクヤンは「入れて終わり」ではなく、「入れてからどう生きるか」が問われるものとされています。
今回取材したサクヤンスタジオ「Ajahn Neng Sak Yant Tattoo」
今回取材を行ったのは、バンコクにあるサクヤンスタジオ「Ajahn Neng Sak Yant Tattoo」です。2002年に設立され、アチャーン・ネンを中心に、複数のサクヤンマスターが在籍しています。
アチャーン・ネンは約20年にわたりサクヤンマスターとして活動し、これまでに約10万人への施術を行ってきました。タイ国内だけでなく、海外からも多くの人が訪れるスタジオの一つです。
もともとは別の仕事に就いていましたが、自身がサクヤンを受けた経験をきっかけに、その背景にある文化や思想に関心を持つようになります。その後、タイ各地やラオスなど周辺国を巡り、サクヤンの技術やマントラを学びました。
こうした修行は7年以上に及び、その過程で知識と技術を身につけ、現在の活動に至っています。
※本記事は取材内容および情報提供を目的としたものであり、サクヤンの施術を推奨・保証するものではありません。施術を検討する場合は、内容やリスクを十分に理解したうえで、自己判断で行ってください。
Ajahn Neng Sak Yant Tattoo
・住所:31 On Nut, Soi 30, Suan Luang District, Bangkok 10260
・電話番号:+66 63 351 0859
・公式WEBサイト:www.thaisakyant.com
・SNS:Instagram / Facebook


