今まで日本人でノーベル賞を受賞した人は24人。そのうち5人が何らかの形で、ある国道沿いにゆかりがあるとご存じでしょうか?
通称、ノーベル街道と呼ばれている国道41号線。そこで今回は北陸に在住する筆者が、富山~飛騨と続くノーベル街道を巡る旅を紹介したいと思います。
ノーベル街道とは
そもそもノーベル街道と呼ばれる国道41号線は、日本海側の富山県と太平洋側の愛知県を南北に縦断する国道で、日本海側から見ると、富山、飛騨高山、下呂温泉、美濃加茂、そして名古屋へと通じています。
その沿道の一部にはノーベル化学賞の田中耕一さん、ノーベル医学・生理学賞の利根川進さん、ノーベル物理学賞の梶田隆章さん、ノーベル物理学賞の小柴昌俊さん、ノーベル化学賞の白川秀樹さんが生まれたり、暮らしたり、研究に従事したりと、何らかの形で縁を持った土地が連なっています。
そうした歴史をふまえて国道41号線の一部は、「ノーベル街道」と呼ばれるようになったのですね。
スタートは富山市から
ノーベル街道を巡る旅をするなら、スタートは富山市から。富山駅の近くでレンタカーを借りて、富山県民会館の目の前にあるモニュメントから旅をスタートしてみてください。
富山市は新薬の開発に革命を起こし、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんが生まれ、高校生までの時期を過ごした町。
街道に入って南下すると、ほどなく富山市科学博物館があります。その中に田中耕一さんが特集されたコーナーもありますので、ちょっと立ち寄ってみてくださいね。
富山市郊外の大沢野へ
国道41号線を南下し、北陸自動車道、富山きときと空港とつながる交差点を越えると、大沢野と呼ばれるエリアに入ります。
大沢野は遺伝学、免疫学に貢献し、1987年にノーベル医学・生理学賞を受賞した利根川進さんが小学校1年から中学校1年まで過ごした場所。こちらには利根川さんが筆をとった「創造」の碑も置かれています。
観光で言えば、大沢野はグルメがおいしいエリア。例えばリバーリトリート雅樂倶 という宿泊施設の中にあるフレンチレストラン『L’évo 』は、このお店の料理を食べるためだけに全国から人が足を運ぶほどの名店。完全予約制ですが、ランチもありますので、旅のプログラムに入れてみてもいいかも。
また大沢野周辺で富山平野が終わり、一気に山深いエリアへと突入していきます。その入り口には神通峡と呼ばれ、約15kmの峡谷が続きます。山に入る前に少し道をそれると、越中おわら風の盆で有名な坂の町・八尾もすぐそば。季節に応じて、そうした脇道にそれてみてもいいかもしれませんね。
大沢野から飛騨へ
大沢野から国道41号線を南下して岐阜県との県境を越えると、飛騨市(旧神岡町)に入ります。高原川沿いに道を進むと、カミオカンデのある池ノ山のふもとを横切る形になります。
道路からは何も見えませんが、この地の地下に巨大な実験室があります。その実験室で超新星爆発からのニュートリノを検出し、最新の天文学の進歩に大きく貢献した物理学者が、2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんになります。
そもそもニュートリノとは何かと調べてみたのですが、頭の中は「?」だらけ。いまいち理解が深まりませんでしたが、何であれ宇宙に最も豊富に存在する小さな素粒子らしく、私たちの身の回りにも大量に飛び交い、人体を1秒間に1兆個も突き抜けているのだとか。
人間どころか地球すら簡単に突き抜けてしまうそうですが、そんなニュートリノでも、
<宇宙からは大量のニュートリノが降り注いでいるため、まれに物質と反応する>(スーパーカミオカンデのホームページより引用)
そう。その特質を生かし、スーパーカミオカンデでは大きな水槽を作って、ニュートリノをキャッチして研究しているのだとか。
水槽と言っても5万トンの超純水をためた巨大な円柱形のタンクで、その大きさは直径39.3m、高さ41.4m。高さ40mと言えば、ウルトラマンと同じですね。ビルで言えば10階程度。
その壁面には写真のような光センサーが11,146本も設置されています。水槽自体も神岡鉱山にある茂住坑(もずみこう)の地下約1,000mに作られており、その規模は世界最大なのだとか。
そのスーパーカミオカンデで研究に従事し、宇宙の起源の謎に迫って、2015年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章さんもゆかりの人物の1人。
近くの道の駅・宙(すかい)ドーム神岡には、カミオカンデに関する展示物が並んでおり、身近に研究を感じられるようになっています。
神岡の周辺は白樺が美しい数河高原が広がり、軽快なドライブコースが続いています。街道沿いには割石温泉という名湯も。春は新緑が美しく、秋は紅葉が奇麗なエリアで、夏はアウトドア、冬はスノースポーツが楽しめます。大いに英気を養ってください。
飛騨から高山へ
国道41号を進み、宮川との合流点で大きく曲がると、飛騨高山の人気の観光地、飛騨古川と飛騨高山に到着します。ノーベル街道は今のところ、岐阜県の高山市が終点。同地は電気を通すプラスチックを開発したノーベル化学賞の受賞者、白川英樹さんが小学校3年~高校3年までを過ごした場所になります。
飛騨高山は飛騨の小京都と呼ばれ、外国人観光客に大人気の場所。上三之町の古い町並みは、世界中から来た外国人を喜ばせています。
飛騨・世界生活センターには白川英樹さんの功績を特集したコーナーも。飛騨観光とともに、ぜひとも立ち寄ってみてくださいね。
以上、富山から高山へと続くノーベル街道の旅路について紹介しましたが、いかがでしたか?
国道41号線はさらに南下して下呂、美濃加茂、名古屋まで続くと述べました。この先、この街道沿いでノーベル賞受賞者が生まれるかもしれません。そうなると、ノーベル街道はこれからも延伸していく可能性がありますよね。
富山、飛騨高山に旅行をする予定がある人は、ノーベル賞という視点で同地を周ってみても面白いですよ。
[ノーベル街道 – 富山県観光・地域振興局 観光課 ] [スーパーマップル北陸道路地図 – 昭文社]
[Photos by Masayoshi Sakamoto and from shutterstock ]
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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