ラテンアメリカを代表するメキシコの芸術家、活動家でもあったダビッド・アルファロ・シケイロスが1974年1月6日に亡くなってから今年で40周年を迎えました。
シケイロスは、ディエゴ・リベラ、ホセ・クレメンテ・オロスコと並ぶ、メキシコ3大壁画家のひとりであり、1910年のメキシコ革命後、1920〜40年代に起こったメキシコ壁画運動の中心人物。
壁画運動は、従来のヨーロッパ主義的な芸術ではなく、メキシコの先住民族や民衆に向けて、ルーツ回帰や歴史、人びとの結束を訴えるものでした。言葉が読めない人にも、壁画を見ただけでメッセージが伝わるように、公共の場に描かれることを基本としているのが特徴です。
あの岡本太郎(1911〜1996)も、1960年代後半にメキシコに滞在していた頃、壁画運動に大きな影響を受けたとされています。とくに、政治色の強いメッセージと、力強い線が特徴的なシケイロスの作品には、岡本太郎の作品と通じるものを感じるのです。
そんなシケイロスの壁画が観られる場所が、メキシコシティには10箇所以上ありますが、なかでも見ごたえがある壁画スポットを紹介しましょう。
メキシコ国立自治大学の中央キャンバス
Universidad Nacional Autonoma de Mexico,UNAM
世界文化遺産に登録されるキャンバス内の、La Torre de Rectoría(学長棟)といわれる建物にシケイロスによる3つの壁画があります。
タイル壁画「民衆から大学へ 大学から民衆へ(El pueblo a la Universidad y la Universidad al pueblo)」© Miho Nagaya
「民衆から大学へ 大学から民衆へ」のある建物の北側に設置された壁画。「文化の権利(
El derecho a la cultura )」。左に描かれた年号は、メキシコの歴史において重要な年号が記されている © Miho Nagaya
同建物に設置された鷲とコンドルが描かれ、ラテンアメリカの結束を訴える壁画「大学の新しいシンボル(Nuevo símbolo universitario)」© Miho Nagaya
チャプルテペック城歴史博物館
Museo Nacional de Historia, Castillo de Chapultepec
独裁政権者ポリフィリオ・ディアスの邸宅であったチャプルテペック城が、現在は歴史博物館となっているのですが、そこにはシケイロスのダイナミックな壁画が描かれています。平等な社会のために闘う民衆の姿が描かれ、感動的です。
「Del Porfiriato a la Revolución(ポリフィリオ時代から革命へ)」1966年に完成した、民衆の力を感じる絵 © Miho Nagaya
「Del Porfiriato a la Revolución(ポリフィリオ時代から革命へ)」大きな部屋全体が壁画になっています © Miho Nagaya
「Del Porfiriato a la Revolución(ポリフィリオ時代から革命へ)」民衆たちが権力者に克つ瞬間を捕らえています © Miho Nagaya
メキシコ文部省
Secretaria de educacion publica,SEP
ディエゴ・リベラの壁画があることでも有名な建物ですが、シケイロスの壁画
「Patricios y patricidas(貴族と売国奴たち)」(1966年)もはずせません。
階段の踊場に描かれた迫力満点の壁画。
壁画「Patricios y patricidas」階段の踊場の造形を利用した壁画 © Miho Nagaya
壁画「Patricios y patricidas」力強いライン © Miho Nagaya
シケイロスの家
Sala de Arte Público Siqueiros
シケイロスの元自宅兼スタジオ、そして1969年に公共のためのアートスペースとして開放した建物が、現在はシケイロス博物館となり、常設、企画展や資料室として機能しています。シケイロスの壁画がポイントで使われている、ポストモダンのカッコいい建築を楽しみましょう。
シケイロスの資料図書のなかに、1972年の美術手帖がありました。シケイロスはこれを読んでいたのでしょうか? © Miho Nagaya
ポリフォルム・シケイロス
シケイロスの作品のなかでも、最大の壁画がある1971年に完成した劇場。12枚の壁画で形成された外観のインパクトもすごいですが、劇場内を覆う『La marcha de la humanidad(人類の行進)』と名付けられた 巨大な壁画に圧倒されます。人類が未来へ向かうためのメッセージを込めた壁画です。
ポリフォルム・シケイロスの外観。奥に見える建物がワールド・トレード・センター © Miho Nagaya
このポリフォルム・シケイロス奇しくも現在、マークシティ内の京王井の頭線渋谷駅とJR渋谷駅を結ぶ通路を彩る、岡本太郎の壁画『明日の神話』(1969年作)が設置される予定だった、元ホテル・メヒコ(現ワールド・トレード・センター)のオフィスビルの目の前にあります。
中庭にはリベラやオロスコ、メキシコが誇る版画家、ポサダの顔が描かれた壁画がある © Miho Nagaya
この劇場は、演劇やコンサートなどのイベントはもちろん、個人のパーティにも貸し出しています。
巨大壁画をさらに楽しむには、毎週土曜と日曜の12時と14時に開催されている光と音のショー『
ESPECTACULO DE LUZ Y SONIDO』がおすすめです。
妖しいライトアップと、シケイロス自身の声によるナレーションや前衛音楽が挿入されます。強烈な70年代感は否めませんが、それも味として楽しめますよ。