メキシコを象徴する車、ビートル
メキシコの町では、カブトムシのようなポッコリとしたフォルムのフォルクスワーゲンのセダン車、ビートルを良く見かけます。メキシコシティから車で約2時間半のプエブラ州で、1967年より国内やヨーロッパ向けにビートルの生産が始まり、2003年に終了となりました。その生産総台数は2135万台にもなります。そんなことから、メキシコでは長い間、国内のタクシーの車体として使用されていました。メキシコでビートルは、VOCHO(ボチョ)という愛称で親しまれています。
メキシコシティで2007年に撮影したビートルタクシー © Miho Nagaya
現在では政府の規制により、ビートルを使ったタクシーを見ることもなくなりました。しかし、町では大切に乗り続けられているクラシックなビートルの姿をよく見かけます。
愛着を感じるフォトジェニックなビートルの数々
現役のクラシックなビートルの写真を紹介していきましょう。
先住民ウィチョール(HUICHOL)の伝統工芸である、ビーズ細工でデコレーションしたワーゲン=VOCHOL(ボチョール)。なんと、小さなビーズをひとつひとつ手で貼付けている © Miho Nagaya
ビートルが家族の一員のようなメキシコ映画、『マルタのことづけ』
愛嬌のあるビートルが象徴的に登場する映画が、メキシコ出身のクラウディア・サント=リュス監督、『マルタのことづけ』です。4人の子どもたちを育てるマルタと、孤独な若い女性クラウディアが、入院先の病室で出会い、交流を深めて行く姿と、その別れを描いた作品で、映画は監督の体験をもとに作られています。
映画『マルタのことづけ』10月18日(土)シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。
劇中で、マルタ一家の重要な足となるのが、1970年代の黄色のビートル。ビートルを選んだ理由について、監督が応えてくれました。
クラウディア・サント=リュス監督。メキシコシティの自宅にて撮影 © Miho Nagaya
「私がマルタと知り合ったときに、黄色のビートルを持っていて、その車は彼女たち一家の歴史をすべて見てきたような存在だった。それが、強く記憶に残っていて、映画『マルタのことづけ』を撮影する段になり、どうしても黄色のビートルを登場させないといけないと思った。実際の家族はビートルをだいぶ前に売ってしまったので、映画の制作費で家族が持っていたビートルと同型のものを購入した。そのマニュアルの運転が難しくて、長女を演じた女優は、危うく事故を起こすところだったけど、無事に撮影を終えることができた。あのワーゲンは、ロケ終了後に実際のマルタ一家にプレゼントしたの。今は、19歳になた末っ子が、学校へ通うために乗っている」。
一家の一員だった黄色のビートルが、長い時を経た後に再び一家のもとにやってくるなんて、素敵なエピソードですね。車でありながら、温かみを感じさせるビートルは、人に特別な思いを抱かせるのかもしれません。
『マルタのことづけ』予告編