近年、魅力的な観光国として注目を集めているアイスランド。ヨーロッパの北端にあることから日本からの距離は遠いものの、島国でシーフード大好き国民、温泉が豊富に湧くなど、日本との共通点も沢山あるんです。
ですが、この人口約33万人の小国は、日本人から見ると「えっ!?」と驚くような物事が法律で禁じられています。既に解禁されているものも合わせて、7つの禁忌をご紹介したいと思います。
犬を飼ってはいけない
なんと、アイスランドの首都レイキャビク市では犬の飼育が違法な時代がありました。
これはエキノコックス症という、犬から人間に感染する寄生虫の蔓延を防ぐための措置だったそうです。1880年代のアイスランドは、感染者の失明や重篤な合併症を引き起こす可能性があると検死から結論を出し、1924年についに犬のペット化を禁止したのだとか。このエキノコックス症は、現代でも治療が難しく、死亡率は最大75パーセントにもなるという恐ろしい病気です。愛犬家にとっては非常に厳しい措置ですが、当時は他に方法がなかったのかもしれませんね。
現代では犬のペット化は違法ではありませんが、病気の再流行を防ぐため、飼い主には高額な登録料やワクチン接種、マイクロチップに駆虫剤服用など高いハードルが設定されているそうです。そんな煩雑な手続きのせいか、生活に犬の不在が長かったせいか、今もレイキャビク市では猫がペットとして大人気! 10軒に1軒は猫を飼っていると言われていて、レイキャビクの可愛い猫の画像を掲載するfacebookのページまで作られています。レイキャビク市は、犬よりも猫にとって居心地のよさそうな街ですね。
ヘビ、トカゲ、カメのペット化禁止
アイスランドで肩身が狭いのは、犬だけではありません。なんと、ヘビやトカゲ、そしてカメは今でも国としてペット化を禁止しています。
何故禁止されているのかという理由は明確ではないようですが、1990年代にカメから飼い主にサルモネラ菌が感染したことに端を発していると言われています。爬虫類と両生類がこの小さな島にとって脅威になるのではという意見を重く見た国の判断で禁止になったようです。そして今も病気の爬虫類や両生類がアイスランドに入国することはないので、禁止措置は機能していると多くの国民は見ているのだとか。
これまた愛好家にはキツイ措置ですが、気候の厳しいアイスランドにもともと存在しなかった生物たちなので、やはり仕方ないのかもしれませんね。
ビールが飲めない!?
ビール大好き国民の日本人には信じられないかもしれませんが、1915年から1989年までの間、ビールはアイスランドで禁止されていました。
1915年に全てのアルコールを禁止する禁酒法が施行されたのですが、それが1933年に「禁ビール法」に移行していったのです。つまり、アルコール度数が高いお酒は飲んでいいのに、度数が低くて飲みやすいビールだけが禁止されたということ。何故そんな不思議な法律ができたかというと、政治的な情勢に原因がありました。
かつてアイスランドはデンマークの統治下にあり、当時はデンマークからの精神的・物理的な独立を得るのにアイスランドは苦心していたそう。ビールはデンマークの国民的飲料で、アイスランド国民にとってはデンマークそのものの象徴だったのです。つまり当時、ビールを飲むことは違法であるだけでなく、非国民的行為だったのだとか。悲しい歴史ですね・・・。
しかし、「必要は発明の母」といわれるように、当時のアイスランドの飲ん兵衛たちは「Bjórlíki」(Black Death=ペスト)と呼ばれる新しいビール風カクテルを思い付きました。ウォッカのような蒸留酒のショットとノンアルコールビールのミックスカクテルだそうです。名前が凄いですが、健康にはどうなのでしょうね?
そしてそんな涙ぐましい努力の歴史を経て、ビールは1989年3月1日に合法化されました。3月1日は「ビールの日」とされ、毎年アイスランド中でビールが生活に戻ってきた日を忘れないように飲み明かすのだとか。
やっと取り戻したビールですが、飲みすぎたらまた禁止にされそうで怖いですね。節度をもって楽しんでほしいものです(笑)。
テレビが見られない
1966年当時、アイスランドにテレビ局は国営放送しかありませんでした。政府は国民に家でテレビを眺めるよりもっと外へ出て社交や消費をしてほしかったようで、なんと毎週木曜日はテレビ放送を取りやめてしまったのです! 更に7月は、アイスランドにとって休暇の時期だったため、まるまる1か月間、テレビは放送されないことに。確かにテレビ局の職員にも休暇は必要かもしれませんが、なんとも大胆な措置ですね!
ちなみに7月の放送休止は1983年まで、木曜日の休みは1987年まで継続していました。
そのせいかはどうか分かりませんが、アイスランドは読書大好き国として知られています。2013年のビフロスト大学(Bifröst University)の調査に対し、国民の半数が年間8冊以上本を読むと答えたそうです。そしてクリスマスイヴには本を送りあい、読書をしながら静かに過ごすJolabokaflod(クリスマスの本の波)という伝統があるのだとか。テレビがなかったから読書家になったのか、読書家だったからテレビが必要なかったのか?どちらにしても、これまた多チャンネル国家の日本では考えられない現象ですね。
バスク人は即○○して良い!
5つ目の禁止事項は「バスク人」です。ちなみにバスク人とはバスク地方(フランスとスペインの両国にまたがった土地)に住み、バスク語を話す独特の文化圏に生きている人々のことを指します。ここまでの項目とは打って変わって、「人」が禁止されていたとは一体どういうことでしょう?
この法律ができたのは、悪天候によりアイスランド沖で三隻のバスクの捕鯨船が沈没した1615年にさかのぼります。食べるものもなくアイスランド西部に流れ着いた80人の生存者は、地元の農民たちに強盗を働くようになりました。
二つの民族の間で高まった緊張感を受け、当時の保安官は「バスク人を見かけたら、すぐ殺害するように」という驚きの決まりを作ったのです! そしてその当時30件以上の殺人事件が発生してしまったのだとか。
更に驚いたことに、この法律は2015年の4月まで有効だったそう。けれど1615年以降はバスク人殺害もなく、四世紀もの間忘れられた法律になっていました。この事件から400周年だった2015年、この悲しい歴史を忘れないよう、そして亡くなった人々の魂を称えるためにアイスランド西部に記念碑が建てられたそうです。悲しい歴史を消すことはできませんが、この記念碑が二つの民族の友好の象徴になればいいですね。
ボクシング禁止
世界的に人気の格闘技であるボクシングですが、アイスランドでは今でも禁止されています。
かつて1930年代から40年代にかけては、アイスランドでも人気スポーツだったボクシング。でもボクシング人気の上昇と暴力的な犯罪の増加が比例したことを受け、ついに1956年に全面的に禁止されることに。
けれど皮肉なことに、ボクシングの禁止を受け、アイスランド国内では柔道や空手、テコンドー、MMA(総合格闘技)のような格闘技が人気になったそうです。ちなみに、MMAで有名なグンナー・ネルソン(Gunnar Nelson)選手はレイキャビク出身なのだとか。
ボクシング・ファンには申し訳ないですが、代わりに日本発祥の柔道などが人気になったと聞くと何だか嬉しくなりますね! 遠いアイスランドがぐっと身近に感じられます。
アイスランド文化に基づかない名前はつけてはダメ
日本でも夫婦別姓が話題になっていますが、アイスランド人の苗字は家族全体で同じではありません。親の名前(ファーストネーム)に「~の娘(~sdóttir)」や「~の息子(~sson)」という注釈をつけたものがその子どもの苗字になります。
つまり、Ingunnさんの娘はIngunnsdóttirという苗字、息子だったらIngunnssonという苗字になります。兄弟姉妹で苗字が変わるんですね!
そういう仕組みなので、その苗字の法則が上手く機能しなくなる、アイスランド文化に基づかない名前を子どもにつけることは1925年から認められなくなりました。政府が公式に承認している3565の名前のリスト(女性名1853個、男性名1712個)から名前を選ぶ必要があり、このリストに名前を増やすためには「命名委員会」によって承認をもらわなくてはいけません。この命名法を廃止する法案が2015年に議論されたそうですが、最終的な決定はなされませんでした。
そしてそういう独自の苗字の仕組みがあるため、アイスランドの電話帳は「ファーストネームと職業」が表記されているのだとか。日本人で例えるなら、「太郎 高校教師」という感覚でしょうか。斬新ですね!
日本人が当たり前に日常生活でふれているものが、他国では禁止されていた時代があるなんて不思議ですね。もしかしたら外国の方も、「日本ではこんな決まりがあったんだって!」なんて話しているかもしれませんね。
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[Illegal in Iceland: Quirky Bans From the Land of Fire and Ice]