イタリア、トスカーナの美しい大地に忘れられた修道院の廃墟があります。屋根は落ち、窓ガラスは全て割れてしまっていますが、美しいゴシック様式の柱や壁はまだしっかりと残っています。
諸行無常の儚さ故の美しさ、廃墟となった修道院サン・ガルガーノをご紹介します。
時代の流れに飲み込まれていった教会
サン・ガルガーノ修道院は、イタリアの中部、トスカーナ州シエナ県にあります。13世紀、病院なども含む大規模な教会として建設が進められ、その当時トスカーナ最大のシトー派の修道院でした。
しかし、14世紀、飢饉や伝染病ペストの流行によって、苦しい時代になると、修道院の運営もままならなくなっていきました。そこへ、この教会のあるシエナと対立していたフィレンツェなど近隣国からの侵攻にもあい、ここに留まる修道士も数人になってしまいました。
後に再建も検討されましたが、大規模な教会を修復する資金が得られず、ついにそのまま朽ち果てていったのです。
しかし、ゴシック様式の尖塔アーチ、柱、壁は、未だにしっかり残り、その美しさを留めています。
廃墟といえば、物悲しい雰囲気を想像しますがここはそうではありません。まるで、今日も人々の平和を祈るような穏やかな空気に包まれています。
朽ち果ててしまった屋根の代わりに広がる青空は美しく、
抜け落ちた窓の向こうには、穏やかな自然の風景、草原を渡る風、鳥の声、夏草の香り・・・
人々は去っていってしまいましたが、ここを包む自然は穏やかで、変わることなく美しくあります。
この教会の内部にはもう神様の絵も十字架もありませんが、穏やかで、豊かな自然に満ちています。それこそが、私たちが敬うべきものなのかもしれません。
栄枯盛衰、朽ち果て行くものは時に、ものの理を示してくれたりします。朽ち果ててなお美しく立つ教会の姿は、人の心に深く刻まれる風景です。
[Photos by Ryoko Fujihara]