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「私たち誰もが彼のためにお洒落したの」とヴォーグ編集長に言わせた、ファッション・フォトグラファー

Posted by: 青山 沙羅
掲載日: Jul 7th, 2016. 更新日: Jan 18th, 2017
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ニューヨークのファッション界で知らない人はいないファッション・フォトグラファー、ビル・カニンガム。自分の信念を通し、生涯現役を通したニューヨーカーでした。

2016年6月25日彼の訃報が流れ、ニューヨーク中が悲しみました。

「私たち誰もが彼のためにお洒落したの」とヴォーグ編集長に言わせた、ファッション・フォトグラファー
(C) Hideyuki Tatebayashi


NYタイムスで40年間働く

「私たち誰もが彼のためにお洒落したの」とヴォーグ編集長に言わせた、ファッション・フォトグラファー
(C) Hideyuki Tatebayashi

NYタイムスの“On the street”のストリート・スナップを40年間撮り続けました。ストリートで彼がカメラを構える姿は、ニューヨークの風物詩だったと言えるかもしれません。実際に、ニューヨークのLiving Landmarks (生きるランドマーク)を2009年に受賞しています。

ビル・カニンガムのファッション

「私たち誰もが彼のためにお洒落したの」とヴォーグ編集長に言わせた、ファッション・フォトグラファー
(C) Hideyuki Tatebayashi

彼をストリートで見つけるのは、なんとも簡単でした。何故ならば、通年ブルーのジャケットを着用、30年以上乗っている自転車がトレードマークだったからです。
筆者と同居人ストリート・スナップ撮影時、鮮やかなブルーのジャケットをストリートで見かけると、「あ、ビルが来た」と嬉しかったものです。

金なんか微々たることさ。自由と権利こそが価値あるものだ

「私たち誰もが彼のためにお洒落したの」とヴォーグ編集長に言わせた、ファッション・フォトグラファー
(C) Hideyuki Tatebayashi

生涯独身、ミッドタウン カーネギーホール上にあるキッチン、トイレなしの狭いスタジオ(アパート)に長年住んでいたそうです。アパートを埋め尽くすのは、ネガフィルムが詰まったキャビネット。あとは、寝るための簡単なベッドがあるだけ。今まで撮影したネガフィルムが彼の財産でした。

「カメラで擦れても平気な、丈夫なもの」という理由で選んだブルーのジャケットは、パリの清掃員の着る作業着だそうです。

「金なんか微々たることさ。自由と権利こそが価値あるものだ。」ビル・カニンガム(青山沙羅 意訳) 
“Money’s the cheapest thing. Liberty and freedom is the most expensive.”

ニューヨークのファッション・ウィークの顔

「私たち誰もが彼のためにお洒落したの」とヴォーグ編集長に言わせた、ファッション・フォトグラファー
女優のヴィクトリア・ジャスティス(Victoria Justice)と 
(C) Hideyuki Tatebayashi

年に2回行われるニューヨーク・コレクションのファッション・ウィークでは彼の姿を毎回見かけました。長年ストリート・スナップを撮り続ける彼がカメラを向けると、セレブやファッション関係者は立ち止まってポーズします。自分のファッションが彼の目にとまることは、最高のステータスなのです。

【You Tube】New York Fashion Week 2015 Bill Cunningham The New York Times

私たちは皆、彼のためにお洒落したのよ

「私たち誰もが彼のためにお洒落したの」とヴォーグ編集長に言わせた、ファッション・フォトグラファー
2015年9月オスカー・デ・ラ・レンタのコレクションに登場したアナ・ウィンター
(C)Hideyuki Tatebayashi

映画「プラダの悪魔」のモデルとされる、アメリカン・ヴォーグの編集長アナ・ウィンター。泣く子も黙る、アメリカのファッション界の大御所です。他のセレブと違って、メディアのために、立ち止まったり、微笑んだりすることはありません。シャネルのサングラスで武装し、足早に歩み去っていきます。

「私たち誰もが彼のためにお洒落したの」とヴォーグ編集長に言わせた、ファッション・フォトグラファー
(C)Hideyuki Tatebayashi

そのアナ・ウィンターに、「私たちは皆、ビルのためにドレスアップしたの」と言わせています。「ビルは、気に入らないドレスだと無視するのよ」。彼女は、彼のためにだけ立ち止まり、微笑むのです。

ニューヨークタイムスによると、ヴォーグから拠出される彼女の年間服飾費は200,000ドル(約20,503,600円)と言われます。

ファッション・フォトグラファーの憧れの存在

「私たち誰もが彼のためにお洒落したの」とヴォーグ編集長に言わせた、ファッション・フォトグラファー
ビルと英国ファッション・フォトグラファー (C)Hideyuki Tatebayashi

ニューヨークのファッション・ウィークには、全米はもちろん世界中からファッション・フォトグラファーが集まります。ストリート・スナップの草分けである彼は、ファッション・フォトグラファーの憧れの存在であり目標。「Hi、ビル」と皆が声をかけ、敬意を表していました。

ファッションはストリートにある

「私たち誰もが彼のためにお洒落したの」とヴォーグ編集長に言わせた、ファッション・フォトグラファー
(C)Hideyuki Tatebayashi

【You Tube】BILL CUNNINGHAM NEW YORK official US trailer

ドキュメンタリー映画 Bill Cunningham New York (2010)
制作期間10年のうち、8年間は彼を説得するのにかかった期間だそうです。

生涯現役でニューヨークのファッションを50年間撮り続けたフォトグラファーは、87歳脳卒中で逝去。内輪だけで行われたお葬式には、アナ・ウィンターも出席しました。

ストリートでは、バーグドーフ(超高級デパート Bergdorf Goodman)に近い交差点あたりが彼のお気に入り。その付近で撮影していると、彼によく出会ったものです。「Hi、ビル」「私たちは、あなたを尊敬しているわ」と声をかけると、手を上げて応えてくれました。でも、カメラを向けると「俺は撮る立場で、撮られる立場じゃないんだよ」とでもいうように背中を向けたものです(苦笑)。頑固で、いつもひとりで、変わり者のニューヨーカー。自転車に乗って現れる、時代を切り取ったアーティストでした。

ニューヨークのストリートで、ファッション・ウィークで、きっとブルーのジャケットを着た彼の姿を探してしまうでしょう。そして彼のいないことに改めて気づき、淋しく思うことでしょう。写真に、ファッションに、ストイックに人生を捧げた彼の情熱が、ニューヨークの街から消えてしまったことを。

Bill, All of us really miss you.

[Bill Cunningham, Legendary Times Fashion Photographer, Dies at 87NY Times]
[Fashion & Style|NY Times]
[On the street|NY Times]
[Bill Cunningham New York (2010)]

[All photo by Hideyuki Tatebayashi]

※無断で画像を転載・使用することを固くお断りします。Do not use images without permission.

青山 沙羅

sara-aoyama ライター
はじめて訪れた瞬間から、NYに一目惚れ。恋い焦がれた末、幾年月を経て、ついには上陸。旅の重要ポイントは、その土地の安くて美味しいものを食すこと。特技は、早寝早起き早メシ。人生のモットーは、『やられたら、やり返せ』。プロ・フォトグラファーの夫とNY在住。


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