TABIZINE編集長の山口彩です。夏休みの自由研究のように、心惹かれることについて、じっくり調べてみる。考えて、試行錯誤し、また考えて、まとめて、発表する。TABIZINEにもそんな場がほしいと思い【TABIZINE自由研究部】を発足しました。部員ライターそれぞれが興味あるテーマについて自由に不定期連載します。
筆者の連載では、常々不思議に感じていた、そして実は根拠のない自信にもつながっていると思われる「日本人の情緒」について考えていきたいと思います。
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はじめに
小さな頃から月を眺めるのが好きでした。大学の卒業論文のテーマは「月の引力を利用した効果的な広告」。
匂いを嗅ぐのも好きでした。足かけ8年ほど調香教室に通ったことがあります。
日本語を読んだり書いたりすることも好きでした。気づけば編集、執筆を仕事として20年近くが経ちました。
一見ばらばらに見えるこれらの心惹かれるモノやコト。それらをつなぐキーワードが「日本人の情緒」ではないかと思い始めたのは最近のことです。そしてこの「情緒」こそが、私たち日本人の根っこを支えていて、ときに自信となり、ときに海外からは不思議に思われ、そして失われることを危惧されている大切なものではないかと。
情緒を強く意識した思い出について
本題に入る前に、思い出話をひとつお伝えしたいと思います。
学生の頃の話です。ロンドンを2週間ほど旅していたとき、現地で手に入れたラベンダーオイルを愛用していました。そしてそのオイルを手荷物に入れたまま帰国したのです。日本に戻り、空港でカバンを開けた瞬間。浦島太郎の玉手箱のようにラベンダーの香りがワーッとカバンからたちのぼり、むせ返るように、あたりいっぱいに広がりました。ロンドンでは感じられなかった強い香りです。
そのとき改めて気づいたのです。日本の空気の色気に。湿気のせいでしょうか、日本ではロンドンとは比べものにならないほど、綿密に、甘やかに匂いが漂う。それは日本人の五感と情緒について考える上で、忘れられない体験となりました。
そしてそれは2月の出来事。空気が乾燥している2月でさえも、日本の空気はしっとりと情緒的だったのです。海外のものすべてがおしゃれで刺激的に感じていた若い頃の筆者にとって、何かがひっくり返った瞬間でした。
「情緒」という言葉
翻訳サイトで「情緒」を変換してみると、英語では「Emotion」、フランス語では「Émotion」。しかし、それらはどちらかというと「感情」に近いものです。日本人の感覚で言う「情緒」には、しみじみとした趣きや、そうした感情を起こさせる雰囲気なども含まれます。厳密に情緒を表す英語やフランス語、というとやはり難しいようです。だからこそ海外から、日本人のそうした感覚は不思議がられるのだと思います。
TABIZINEでも、『海外で不思議がられる日本人の夏8選〜魚を見て涼しさを感じるって!?〜』や『海外で不思議がられる、日本人の「お花見事情」5選』など、日本独特の感覚を不思議に思う外国人についての記事は人気のシリーズです。自分たちの感覚が外国人から不思議に思われているということを、私たち日本人も気にしているわけです。
この連載では、その「日本人の情緒」が改めてどういうものなのか、どうして外国人から不思議に思われるのか、いろいろな角度から考え、研究していきたいと思います。筆者には大きすぎるテーマなのは重々承知です。それでもやはり、目下一番興味のあることなのです。情緒の赴くまま、真摯に向き合っていきたいと思います。
次回は、日本人の情緒について考えるうえではずせない人物、日本が世界に誇る天才数学者・岡潔氏の言葉をご紹介しながら、さらに考えを深めていきたいと思います。