あなたが思う幸せとは何でしょうか?
いい仕事に就くこと? お金をいっぱい持っていること? 欲しいものを何でも手に入れること? 俗に言う人生の勝ち組になること?
この回では、筆者がメキシコで実際に体験した旅先での忘れられない一言を紹介します。
筆者が初めて訪れたメキシコを旅する中で目にしたのは、南米らしい雑多な空気の中で目にするカラフルな建物、陽気な音楽に合わせて踊る人々、屈託のない笑顔で笑う現地の人たち。
しかし明るい街の雰囲気と反対に私の印象に残ったのは、いわゆる観光地と呼ばれる場所でたくさん見かけたホームレスの人たちでした。物乞いをする人たちの中には、泥だらけの服を着た小さな子連れのお母さんや、杖一本で体を支える手足のない人たちもいました。
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ある雨の日、世界遺産の街グアナフアトのマーケットを歩いていると、マーケットの片隅でずぶ濡れになりながら物乞いをする、両足と片手のないおばあさんがいました。着ているものも布切れ一枚で、マーケットを横切る観光客に必死で物乞いをしているのでした。
その姿を見て、私は思わず持っていたカメラを隠しました。写真を撮ってはいけない光景だと思ったからかもしれません。もしくは反射的に自分の持ち物を守ろうとしたのかもしれません。
その時ふと、お金を払って旅行に来て、カメラを片手にお土産を探すためにマーケットを散策している自分と同じマーケットの中で、今日生きられるかもわからない生と死の境目を漂うおばあさんがいることに気づきました 。この差は一体なんなのだろうと考えたとき、胸の奥がぐっと締め付けられるような思いをしました。
その時の私は、「日本はなんて恵まれた国なのだろう。メキシコと比べると治安もいいし、環境も整っているし、日本で食べるものにも、着るものにも、住むところにも困らずに、欲しいものをいつでも買うことができるって、とても幸せなことなんだな」と感じました。
しかしその後、現地のメキシコ人は私にこう言ったのです。「僕たちの国は決して裕福ではないけど、皆笑うことだけは忘れずに毎日生きているんだよ。笑っているだけで幸せになれるからね」
そのとき私はハッと何かに気付かされたような気がしました。それまで自分が思っていた幸せというのは、何不自由なく生きていけること、そのために快適な衣食住があり、身の回りの生活が欲しいモノで満たされていることだと信じていたからです。
しかしメキシコ人の彼にとっての幸せというのは、毎日笑って過ごせること、たったそれだけだったのです。どれだけモノやお金があるかどうかではなく、毎日を心から楽しく過ごせているかどうかという、とてもシンプルなことだったのです。
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彼のその一言を聞き、私は身の周りのモノにこだわり過ぎていた自分が恥ずかしくなりました。自分でも気づかないうちに、人生の成功、そして幸せを、どれだけ良いモノに囲まれているかという視点で考えてしまっていたからです。それと同時に、どれだけ良いモノに囲まれていても、そのときの自分は「今幸せだ」と心から笑えていなかったということに気づいたのです。
彼の一言で、人生の幸せとは何かを今一度考えるようになりました。そしてそれまで自分でも意識しないうちに、物質主義的な考え方をしていた自分を見つめ直すきっかけが生まれたのでした。
心の底から笑い、毎日を楽しく過ごす。とてもシンプルなことですが、良いモノに囲まれすぎている日本人の多くが忘れてしまっていることなのかもしれません。
あなたは今日という日を、幸せに生きていますか?
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