【軽井沢】文人も愛した名門旅館を改修!古本屋やギャラリーも入居するカフェ

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Sep 29th, 2017

最近は、いろいろな場所にユニークなカフェを見かけます。長野県軽井沢町の追分(おいわけ)、しなの鉄道の信濃追分駅の近くにも、地域のランドマーク的な名門旅館を改修して再オープンしたユニークな喫茶店があります。その名も『油や』の一角に設けられた追分喫茶店(CROSSROAD cafe)。

【軽井沢】文人も愛した名門旅館を大改修!古本屋やギャラリーも入居するカフェが楽しい

そこで今回は軽井沢に在住経験もある筆者が、旧中山道沿いにある追分喫茶店に行ってきましたので、その様子をレポートしたいと思います。

 

そもそも追分ってどこ?

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そもそも長野県軽井沢町の追分とはどこでしょうか? もともと追分は宿場町で、中山道と北国街道の分岐点として栄えた町になります。

宿場のあった旧中山道は現在、電線や各種の配管が地中に埋められ、石畳が奇麗に整備された美しい観光地になっています。沿道には古本屋やカフェ、昔ながらの駄菓子屋、たい焼き屋、社寺仏閣などが点在し、とてもいい雰囲気。

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道路沿いの一角には、かつて追分宿の脇本陣(殿様の家来が泊まる宿)であった旧油屋があり、昭和13年に現在の位置に移転してから、地域ではランドマーク的な存在として親しまれてきたそう。昭和の時代には、堀辰雄、加藤周一などが執筆に利用した定宿でもあったのだとか。

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そうした歴史を持つ油屋の建物を保全しつつ、さらに有効活用していこうという機運が高まり、平成24年に大幅リニューアルが行われます。

2階に旅館機能を残し、1階には古本屋や陶器作家のギャラリー、レコード屋などが入所。かつて応接間だった玄関近くのスペースも喫茶店として生まれ変わりました。今では文化事業の拠点として、地元の人はもちろん、旅行者にも無料開放されているのですね。

 

舞台は旅館。館内には靴を脱いで上がる

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喫茶店は入り口から見て左手。基本的に「旅館」ですから、靴を脱いで館内に入ります。板間に応接用の椅子と机がセットされ、小上がりの座敷にも席が幾つか用意されています。板間と座敷の間には、欄間のような彫刻も見られました。

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注文は前払い制で、入り口から見て右手にある帳場のようなカウンターで支払います。メニュー表を見ていると、遅れて外から女性の店員さんが数名駆け込んできます。親しげな挨拶とともに、「おすすめはコーヒー牛乳と手作りあんドーナツ」と教えてくれました。瓶入りの懐かしい牛乳やコーヒー牛乳と、近所で手作りした袋入りのあんドーナツですね。

コーヒー牛乳も捨てがたかったのですが、筆者が頼んだメニューは、ホットのドリップコーヒーとあんドーナツのセットで500円。コーヒーが入るまで少し時間が掛かると言われたので、リノベーションされたユニークな館内を歩いて回ろうと思いました。

迷路のような館内には、本屋やレコード店、作家のギャラリーなどがぎっしり

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「ぐるーと回ってきてください」と店員さんの1人が声を掛けてくれたので館内の地図を見ると、なるほど長方形の本館は回廊のように細い廊下が外に面して続いていて、一周できるようになっています。

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一方の本館に隣接した新館は、直角に2回折れ曲がる廊下が館内を貫いています。その通路沿いには個室が連なっていて、古本や雑貨、文具、インスタレーションなどが所狭しと並んでいました。

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古本をざっと眺めてみると、ジャン・ジャック・ルソーの『民約論』から私鉄の時刻表に至るまで、ラインアップの幅の広さに驚かされます。ただその雑多な書籍のタイトルが、館内の混然一体としたエネルギーとマッチしていて、とても居心地のいい場所に感じられました。

 

ハリオ式のおいしいコーヒー

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喫茶店に戻ってみると、まだコーヒーは準備中。不思議に思って、帳場のようなキッチンカウンターの中をのぞくと、コーヒー専用の細口ケトルから細いお湯をコーノ式のドリッパーに注いで、丁寧に1杯1杯、コーヒーを入れていると分かりました。

コーノ式は日本発のドリッパーで、ハリオ式やカリタ式と違い、底に大きな穴が1つ開いているドリッパーですね。円すい状のドリッパーの壁面には、スパイラル状にリブ(溝)があるため、注ぎ方によってはかなりゆっくり、じっくりとコーヒーを抽出できるようになっています。

「コーノ式を使っているのですね」と問いかけると、「コーノさんのご親族かどなたかですか?」と聞かれました。コーノ式とは、河野さんが作ったドリッパーですから、河野さんの親族か何かと思われたのですね。

「そうだと話はさらに弾んだのですが、残念ながら違います。坂本と申します」と回答すると、「ユニークな人」と女性のスタッフさんはつぶやいて、ほほ笑みながら手元のケトルに視線を戻しました。

【軽井沢】文人も愛した名門旅館を大改修!古本屋やギャラリーも入居するカフェが楽しいコーヒーはコーノ式でじっくりと入れただけあって、濃厚な味わいが感じられます。ミルクが欲しいと言うと、ほどなく「入れすぎた」と言いながら、コップ一杯くらいのミルクを出してくれました。

さすがに使いきれず、帰り際に返却すると、「あれ、せっかくサービスでたくさん入れたのに、全部飲まなかったの?」と笑顔でからかってくれました。

館内では靴を脱いで、過ごしているせいもあるかもしれません。コーヒーを待つ時間にギャラリーを見て歩き、スタッフと気さくに会話をしているうちに、旅の疲れを完全に忘れている自分に気が付きます。

次の機会には、家族を連れて2階の宿泊スペースに泊ってみたいなと、立ち去る際に名残惜しさまで感じさせてくれる居心地の良さがありました。

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以上が信濃追分にある追分喫茶店のレポートになります。追分は軽井沢駅から国道18号を小諸方面に向かってすぐ。文化的な香りのする旧街道の魅力的な町並みが続いています。軽井沢観光の際には、ぜひとも立ち寄ってみてください。

ちなみに喫茶店のある『油や』の宿泊料は、素泊まりのみで1人4,000~6,000円と、とてもリーズナブルです。軽井沢観光の拠点として泊ってみても面白いかもしれませんね。

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[油や]

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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