9年連続顧客満足度No.1の帝国ホテル。何がすごいか業界人に聞いてみた

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Jan 19th, 2018

一流ホテルと言われたら、どこを思い浮かべますか? 人によって出てくる名前はもちろん異なるはずですが、「帝国ホテル」を挙げる人も少なくないはず。

日本生産性本部サービス産業生産性協議会が毎年発表しているJCSI(日本版顧客満足度指数:Japanese Customer Satisfaction Index)では、調査開始以来9年連続顧客満足度1位。世界的な市場調査会社であるJ.D.パワーの日本法人が発表したホテルの顧客満足度調査でも、帝国ホテルがザ・リッツ・カールトンを抑えて2年連続でNo.1に選ばれています。

9年連続顧客満足度No.1!「帝国ホテルって何がすごいの?」と同業者たちに聞いてみた

現在、帝国ホテルは東京、大阪、上高地で営業していますが、一体何がすごいのでしょうか? そこで今回は匿名を条件に、同じホテル業界で働くホテル関係者数名に、外から見た帝国ホテルのすごみを聞いてみました。

 

帝国ホテルは「帝国ホテルだからすごい」

9年連続顧客満足度No.1!「帝国ホテルって何がすごいの?」と同業者たちに聞いてみた

今回、話を聞いたホテル関係者たちは、帝国ホテルの直接的なライバルになるようなラグジュアリーのホテルの関係者から、ミドル、エコノミーのホテルで働く人たちまで数人。数こそ少ないですが、「帝国ホテルとは何がすごいの?」と教えてもらいました。

当初は細かなサービス内容がいろいろ上がってくると予想していたのですが、意外にも答えは似通っていて、「帝国ホテルだから」というシンプルな答えがほとんど。

世の中には帝国ホテルの流儀だとか、帝国のホテルのサービスだとか、テクニカルな部分を紹介する情報がたくさんあると思います。ただ、そうした面はあくまでも表面的な話」(国内ラグジュアリーホテルのバー勤務)

帝国ホテルは他のホテルからも研修を受け入れてくれていて、さまざまなノウハウを惜しみなく提供してくれている。そういう意味では、他のホテルでもやっていることは、それほど変わらない」(ミドルクラスの国内系ホテルのフロント勤務)

結局、帝国ホテルは日本で最初の迎賓館であり、日本で最初のグランドホテルだからすごいのだと思います。帝国ホテルの名前を背負って働くのとそうでないのでは、従業員のモチベーションも緊張感も変わると思います。そのモチベーションや緊張感がいざというとき、誰も見ていない一人のときに、ちょっとした違いを生み、その違いの積み重ねが結局、ホテル全体で大きな違いになって出てくるのだと思います」(鉄道会社系ホテル勤務)

といった言葉でした。

 

帝国ホテルは日本のグランドホテル

9年連続顧客満足度No.1!「帝国ホテルって何がすごいの?」と同業者たちに聞いてみた

筆者の手元には『帝国ホテル百年史』(帝国ホテル)という1,012ページの社史があります。その中には取材者のコメントにもあった「グランドホテル」という言葉についての紹介があります。

<19世紀中ごろ以降、特権的富裕階級を主な利用者とする豪華な本格近代ホテル、いわゆる“グランドホテル”が出現する>(『帝国ホテル百年史』から引用)

世界の例で言えば、パリのグランドホテルやホテルリッツ、ウィーンのホテルインペリアル、ロンドンのザ・サヴォイ、ニューヨークのウォルドルフ=アストリアホテルなどが挙げられるそう。日本のグランドホテルはまさに帝国ホテルで、世界でもThe Imperial Hotelの名前は日本のグランドホテルとして認知されているようですね。

9年連続顧客満足度No.1!「帝国ホテルって何がすごいの?」と同業者たちに聞いてみた

ホテル・リッツ・パリ

帝国ホテルの創業は明治23年(1890年)、江戸時代の末期に起きた黒船来航から37年後の年で、江戸が東京に変わってから22年、世界中から国賓級の来客が訪れるようになっても、そのころの東京には外国の賓客を迎え入れて宿泊させる迎賓館が存在しなかったのだとか。

幕末の開国を受けて、横浜や長崎などの港町にある外国人居留地には外国人経営の外国人向けのホテルが誕生していたと言いますが、あくまでも急造で盛衰が激しく、外国の要人が泊まるような場所ではなかったのだとか。要人は結局旧幕府の施設や大きな寺院、旧本陣(江戸時代に大名や公家が泊まった宿場町の宿泊施設)に宿泊したと言います。

そうした時代背景の中で、明治23年に本格洋風の帝国ホテルが日本の迎賓館として、あるいはナショナルホテルとして出現したのですね。以来120年以上にわたって世界中の賓客を迎え入れ続けています。

帝国ホテルで働く従業員は、「民間の外務省」として国際交流の舞台を運営する一員になります。明治以来の伝統と、日本を代表しているという誇り、さらには世界中から集まる賓客の存在が、従業員の行動を律し、促し、高めているのですね。

 

帝国ホテルを実際に使った人は何を評価している?

9年連続顧客満足度No.1!「帝国ホテルって何がすごいの?」と同業者たちに聞いてみた

(写真はイメージです)

実際に帝国ホテルを利用した人は、どういった評価を与えているのでしょうか。上述のJ.D.パワーの日本法人が発表したホテルの顧客満足度調査では、「予約」「チェックインとチェックアウト」「客室」「F&B(料飲)」「ホテルサービス」「ホテル施設」「料金」の7つの項目が評価対象となっています。

同調査で帝国ホテルがザ・リッツ・カールトンを抑えて最も評価されたポイントは3つ。

・チェックインとチェックアウト
・F&B
・料金

帝国ホテルのチェックインとチェックアウトのすごみが分かる情報源としては、宇井洋著『帝国ホテル感動のサービス』(ダイヤモンド社)など、幾つもの好例が挙げられます。詳細は割愛しますが、フロントのアイコンタクト1つを取っても、さまざまな意図がある様子。

F&Bに関しては帝国ホテルの場合、トマト1個であっても顧客の舌に運ばれるまでに、購買担当者、検品係、シェフの3人の品質チェックを受けると、同社が昭和62年に出した雑誌広告に書かれています。

料金についてはJ.D.パワーの調査でも1泊35,000円以上のラグジュアリー部門に入るなど、決して安くはない価格設定のはず。しかし料金に満足を感じるゲストが多いとはつまり、お値段以上のサービスをホテルの側が随所に提供している証拠にもなりますよね。

9年連続顧客満足度No.1!「帝国ホテルって何がすごいの?」と同業者たちに聞いてみた

(写真はイメージです)

例えば帝国ホテルではランドリー業務を自社クリーニングにこだわり、顧客からお願いされていなくても、点検の段階で衣類から取れそうなボタンがあれば付け直し、取れて紛失している場合は類似のボタンを探して新たに付けてから返却すると知られています。

この話だけを聞くと、「さすが帝国ホテルだな~」と素人の筆者は感心してしまうのですが、意外にも同業者たちに伝えると、クールな答えが返ってきます。

昔は確かに帝国ホテルだけがやっていたサービスなのかもしれない。でも例えばボタンの話は、うちの場合グループ会社への外注だけど、善意でボタンをつけるようなサービスはやってもらっている」(国内ラグジュアリーホテルのバー勤務)

などなど。今では業界で情報の共有が進み、インターネットの発達なども手伝って、それぞれのホテルが帝国ホテルや外資系ホテルを含む他社の優れたサービスを積極的にリアルタイムで取り入れているそう。その意味で「感動のサービス」とメディアで紹介されるような業務は、どこかで紹介されている時点で既に帝国ホテルだけのサービスではなくなっていると考えた方がいいのですね。

やはり帝国ホテルで働いているというプライドが、各従業員にマニュアルにない仕事をさせて、結果として一歩先の他にない感動のサービスを生んでいるのだと思います」(鉄道会社系ホテル勤務)

といった見解がありました。帝国ホテルがナンバーワンであり続ける理由は、やはり「われわれは帝国ホテルである」という揺るぎのない事実が大きく関係しているのですね。

9年連続顧客満足度No.1!「帝国ホテルって何がすごいの?」と同業者たちに聞いてみた

以上、帝国ホテルがホテル業界の頂点に君臨し続ける理由を探ってみましたが、いかがでしたか? 『帝国ホテル百年史』によれば、「世界各国に恥ずかしくない迎賓館を」という意味で明治時代に生まれた帝国ホテルに、今では逆に欧米各国からも視察が絶えないと言います。

単に一企業としてホテルを経営しているのではなく、日本という国を背負い、日本を代表する気概で存在しているホテルだからこそ、世界各国から賓客や視察が訪れ、働く従業員の誇りと意識も変わり、唯一無二の存在であり続けられるのかもしれません。東京、大阪、あるいは上高地で宿泊予定の場合は、もちろんお財布と相談しつつ、思い切って帝国ホテルを選択肢に入れてみたいですね。
 

[~2017年度JCSI(日本版顧客満足度指数)第1回調査結果発表~]
[各部門の第1位は帝国ホテル(2年連続)、ロイヤルパーク、JR九州ホテル、スーパーホテル(4年連続) – J.D.パワー]
[Photos by Masayoshi Sakamoto and shutterstock.com]

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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