日々の疲れを癒してくれる温泉は、日本人の私たちにとって身近なものです。日本各地に存在する温泉街のどこか懐かしい雰囲気も、多くの人が旅先に温泉を選ぶ理由の一つです。そんな温泉街が 一見温泉とは不毛の地、アメリカにも存在するのです。
今回はヨーロッパ人がアメリカ大陸に足を踏み入れる以前から、ネイティブ・アメリカンの湯治場として使われてきた、アメリカの数少ない温泉街、アーカンソー州ホットスプリングス(ズバリ街の名前が“温泉”!)についてご紹介。日本の温泉とは異なるバスハウスや、温泉で栄えた街の見所を現地ルポします。
アメリカで最初に認定された国立公園がある
(c) Yoko Nixon
ヨーロッパから移民がやってくるずっと前から、ホットスプリングスは“蒸気の村”と呼ばれ、ネイティブ・アメリカンが疲れや傷を癒す水を求めて集まりました。その後1832年には、アンドリュー・ジャクソン大統領がアメリカで初めての政府認定保護地区(後の国立公園となる制度)として認定し、1921年には正式に合衆国国立公園に指定されました。
アメリカに数多くある国立公園の中でも、小さいながら長い歴史のあるのがホットスプリングス国立公園です。公園はホットスプリングスの街と共存しており、市民や観光客の憩いの場として親しまれているダウンタウンの中心に位置する公園も、国立公園の一部になっています。
アメリカのギャングにも愛された隠れ家的な街
中心街にあるアーリントンホテルは、アルカポネが滞在したホテルとしても有名
(c) Yoko Nixon
アメリカ南北戦争の後ホットスプリングスでは非合法のギャンブルビジネスが長らく栄えていました。当時のギャングスターアル・カポネやフランク・コステロ、バグズ・モーランなど、名だたるギャング達がホットスプリングスに集まり、保養地として、また隠れ家として滞在していました。ホテルルームやサロンでは必要な施設設備やアメニティが全て取り揃えてあり、ラスベガスが誕生する前から、ラスベガスのようなサービスを行なっていたそうです。
ヨーロッパ式バスハウスを今でも体験できる
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1892年から1923年の間に、ホットスプリングスの中心街には8つのバスハウスが隣接して建てられました。現在でも営業を続けているバスハウスは2軒あり、他の建物は当時の外観を残しながら博物館として改装されたり、地ビールを作るパブやバスグッズを売るお店に改装されたりしています。
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現在でも営業を続けているバスハウスでは、当時のヨーロッパ式設備とサービスを今でも体験することができます。
筆者は今回1912年の開業以来変わらず営業を続けている唯一のバスハウス、Buckstaffバスハウスでアメリカの温泉を体験してきました。
まずはロッカールームで服を脱ぎ、移動用にシーツで体をぐるりと包まれます。その後一人用バスタブに移動し、40度近い湯舟に20分ほど浸かります。
写真は博物館のものですが、実際に使用したバスタブもレトロな見た目でした
(c) Yoko Nixon
次に暖かいタオルで全身を包まれながらベッドに15分ほど横になるホットマスクセラピーをし、スチームバス、腰風呂(座るようにお湯に浸かり腰の部分のみを温める)の後、シャワーで全身の汗を洗い流し、最後に全身マッサージをしてもらうという至れり尽くせりな時間でした。
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左は座るようにして腰だけ浸かる腰風呂。右は頭だけを出して全身を覆うスチームバス。
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シャワーは上からだけでなく横から何段もシャワーヘッドがつけられており、立っているだけで全身の汗を流せる仕組みになっています。
日本のように自由に温泉に入って楽しむのではなく、決められた場所に移動して順番にサービスを受けて行くスタイルでしたが、使用している設備がどれもアンティークで時代を感じさせてくれました。
バスハウスの中には床屋やパーティ会場、ジムもあり(現在は博物館での展示のみ)訪れる人が全身で綺麗に、健康に、楽しく過ごせることを目的として営業していたことがわかります。
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床屋で当時使われていた機材もそのままの姿で残っています。
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小さい体育館のような設備も充実していました。
温泉とともに生きる街
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ホットスプリングスの中心街には無料で温泉の水を汲むことができる設備があります。飲み水としてはもちろん、生活用水として使用可能で、観光客だけでなく地元の人も大きいペットボトルを持参して温泉水を持ち帰る姿が印象的でした。
現在では観光地として栄えるホットスプリングス。かつてバスハウスが栄えた街の雰囲気を残しつつ、現代の人々の疲れを癒すアメリカの歴史ある温泉街のご紹介でした。
[Hot Springs]
[Photo by shutterstock]