海外旅行に出かけたら、現地の公共交通を何らかの形で利用すると思います。タクシー、バス、電車、国によってはトラム、リキシャ―などさまざまですが、公共交通を利用する際にもいろいろなお願いが必要になるはずです。
そこで今回は連載第5回目、公共交通で使いたいお願い表現をまとめてみました。掲載している英文は全てネイティブスピーカーのチェックを受けています。状況が合えばそのまま使える表現ばかりですよ。
タクシーで「自分のホテルまで行って欲しい」とお願いする場合は何て言う?
最初はタクシーから。トラムや電車などと違って、目的地を言えばその場に連れていってくれますから、安心で便利な交通手段ですよね。
過去の連載で繰り返し紹介してきたように、お願い表現を考えるためには、相手と自分の関係、相手が自分のお願いを聞き入れる義務の有無を考え、その上で相手の負担を考慮して表現を調整してください。必要に応じて、前後で前置きや説明、謝罪などの言葉を尽くし、相手の心を動かしていくと紹介しました。詳細は連載の初回をチェックしてみてください。
タクシーで行先を伝えて、連れて行ってほしいとお願いする場合は、どういった関係になるのでしょうか。
相手は初対面になります。しかし、こちらのお願いに相手は答える義務がありますから、Dになります。さらに、こちらのお願いは、タクシードライバーに特に負担をかけるわけではありません。むしろ仕事の機会を提供している形になりますから、同じDでも丁寧度が少し下がるD-になるはずです。すると、「丁寧にお願い」するのではなく、「普通にお願い」しても特に問題はないと考えられます。
また、特にお願いの前後で説明や謝罪などの言葉を尽くして相手の気持ちを動かす必要もありませんから、
「Hello.」
と呼びかけをする程度にとどめて、
「Hilton Hotel, please.」(ヒルトン・ホテルに行ってください)
と、シンプルに伝えても、相手には特に失礼に響かないと考えられます。過去の連載でも触れたように、英語に本来ある主語や動詞をすっ飛ばしてシンプルに伝えると、言葉はカジュアルになっていきます。少しカジュアルすぎると感じる場合は、
「I like to go to the Hilton Hotel, please.」(ヒルトン・ホテルに行きたいのですが、よろしいですか?)
とお願いしてみてください。タクシーだけでなく、インドなどで見かけるリキシャ―でも同じですね。
「How much will it cost?」(どのくらい料金がかかりますか?)
と、少し不安な場合は、行先を告げた後に料金を聞いてもいいかもしれませんね。
ちなみになんで「I want to go to…」じゃないのと感じるかもしれません。「want」という言葉は極端に言えば、「ほしい、したい」という気持ちが露骨で直接的な雰囲気があるため、気の置けない会話の中でなら全く問題ないですが、初対面の人に何かの希望を伝える際には、「I like to…」と少し取りすました感じで伝えた方が、適切だと感じる人が多いようです。
「○○駅まで行くにはどうしたらいいか教えてほしい」と一般の乗客に聞く場合は?
東京メトロの神保町駅にある切符売り場で、フランスから遊びに来たカップルに「浅草に行きたいのですが」と質問された経験があります。料金表を見上げると、東京の地下鉄は迷路のようになっているとあらためて感じました。不慣れな外国人にとっては、攻略の容易ではないダンジョンといった感じですよね。
日本人が海外旅行に出かけると、同じような気持ちになると思います。現地の人からすれば見慣れた路線図も、旅行者からすれば土地勘がないため、目的地がマップのどのあたりにあるか分かりません。上述の浅草を探していたフランス人も、浅草が東京のどのあたりにあるか土地勘がないため、マップのどのあたりに浅草の駅を探せばいいのか分からず、困っていたのですね。
海外の電車やトラムで何線に乗ればいいのか分からない場合は、どう言って教えてもらえばいいのでしょうか。しかも駅員が見つからないため、すぐ近くに居る一般の乗客に聞きたいと思います。
この場合、相手は初対面、しかも相手にはこちらの質問に回答する義務はありませんから、関係はBになります。ただ、お願いが与える相手の負担を考えると、必ずしも大きいとは言えません。地元の人からすれば、気軽な人助けのはず。同じBでもB-で、少し丁寧度を落とし、「丁寧にお願い」しても失礼にはあたらないと予測されます。
ただ、この場合は見知らぬ人に丁寧なお願いをするため、前後に呼びかけや説明などの言葉を入れたいです。
「Excuse me.」
と、呼びかけ、
「Can you please tell me how to get to Amsterdam Station?」(アムステルダム駅にどうやって行けばいいか、教えてくれますか?)
「Can you please tell me what number tram goes to Amsterdam Station?」(アムステルダム駅に何番のトラムが行くのか教えてくれますか?)
と、お願いします。丁寧なお願いの定番表現として中学校の教科書にも出ている「Can」を使いました。「Can」と「May」の違いは、今までも繰り返し触れてきましたが、この場合は詳しそうな人を選んで聞くものの、相手が教えられるかどうか分からないで聞くのですから、canが適していると考えられます。
「駅に着いたら教えてくれませんか」と英語でどうやってお願いする?
最後は、ちょっと難易度の高いお願い。海外旅行中は行先の正しいバスや電車に乗っても、目的の駅やバス停で降りられるか不安ですよね。正しい駅に着いたら、誰かに「ここだよ」と教えてもらえると、とてもありがたいです。
旅先ではときどき、「駅に着いたら教えてあげるよ」という親切な人に巡り会いますが、逆に自分から身の回りの見知らぬ乗客にお願いする場合は、どうすればいいのでしょうか?
この場合、初対面の相手に、相手が応じる義務のないお願いをするわけですから、Bに該当します。しかも、「駅に着いたら教えてほしい」と、車中でお願いするわけです。お願いされる側は、ちょっと面倒ですよね。負担は大きいとは言えませんが、小さいとも言えません。よって格下げも格上げもなく、そのままのBで、「かなり丁寧にお願い」する必要があると言えそうです。
もちろん、お願いの前後で言葉を尽くす必要もあるはずです。
「Excuse me.」
と呼びかけ、
「I’m wondering if I could ask for such a request, but could you please tell me when we arrive at xx station?」(このようなお願いをしていいものか迷いますが、xx駅に到着したときに教えていただくことは可能でしょうか?)
と、お願いを切り出したいです。もっと間接的に、
「Would it be possible for you to tell me when we arrive at xx station?」
と聞く方法もあります。さらに、
「I am flying home today, but if I miss the station, I may be late for my return flight.」(今から帰国するのですが、もし駅を乗り過ごしてしまったら、帰国便に乗り遅れてしまうかもしれないのです)
と理由も付け加えたいです。お願いの表現に、こうした前後の補足の言葉をどれくらい加えるかで、相手の心の動きは大きく変わります。もちろん、これだけ英語がスラスラと話せれば、駅のアナウンスくらいは余裕で聞き取れるはずですが……。
ちなみに、表現にはcouldだとかwouldだとか、助動詞の過去形が使われています。この違いは過去の連載でも触れましたが、例えば身に余る贈り物を相手が差し出してきたとき、「いやいやいや」と贈り物を遠ざけたり、自分が遠ざかったりすると思います。同じように何かに恐縮する、何かに遠慮する気持ちを、文章の時制を過去に「遠ざけ」て表現するからだとも言われています。結果として仮定法になり、「あくまでも仮の話ですが・・・」といった控えめな感じが出て、丁寧度が増した表現になるのですね。
以上、公共交通で何かをお願いしたいときに使う英語表現について紹介しましたが、いかがでしたか? たくさんの英会話表現を覚える作業も大切ですが、相手と自分の関係、相手の義務の有無を考え、必要に応じて前後で言葉を尽くして、相手の心を動かしていくという練習も繰り返したいです。
基本的なスタンスが当たっていれば、ちょっとくらい英語が変でも、単語が間違っていても、失礼には聞こえません。言葉をかける前に、あれこれ考えを巡らせたいですね。
[All photos in shutterstock.com]