この音が止まったのか。『音止の滝』の伝説。
富士宮市駅からバスで街を走り、山に向かって約30分。到着したら地図を確認して『白糸ノ滝』を目指します。その手前で洗礼を受けました。『音止の滝』です。
高さ25mから滝壺へ向かって落ちてゆく水。その水しぶきの豪快さ。それは「轟く」という言葉がぴったりなほどに、息を飲む。滝の上を流れる水は、落ちゆく一瞬、生き物のように空を目指して滝壺へ向かう。滝壺に落ちた水は集まって深い碧色となり、何事もなかったかのようにまた流れていきました。
『音止の滝』には、日本三大仇討ちのひとつ〈曾我兄弟の伝説〉も。1193年、曾我兄弟が父の仇の工藤祐径(くどうすけつね)を打つために相談をしていたところ、滝の音に声がさえぎられた。そこで神に念じたところ、一瞬滝が止まった。それがこの滝の名前の由来となったという伝説です。やはりこの滝は生き物であったか・・・そう納得してしまう伝説です。
滝の上には、天照大御神と磐長愛尊(いわながひめみこと)をお祀りしている「厳磐叢神社〈ゆついわむらじんじゃ〉」があり、縁結びの神社だそうです。
虹の中へ、向こう側には白い糸。
昭和11年、国の名勝及び天然記念物に指定され、昭和25年、観光百選滝の部で1位になり、平成2年、日本の滝百選に選定された『白糸ノ滝』。戦国時代末から江戸時代初期にかけて富士山信仰〈富士講〉の開祖・長谷川角行の修行の地ともされ、人々の修行の場となっています。
年間通じて水温12℃、高さ20m、幅150m、毎秒1.5tもの富士山の雪解け水がその絶壁から流れ落ちています。大小数百もの滝が壁を伝い流れる姿は優美。その名の通りの白い糸。浄化の力を持つ富士山の霊水は、離れていてもその力が十分に届く瑞々しさです。
晴れていたら滝の下には大きな虹が架かっていて、所々に小さな虹も。滝の下の柵まで惹き込まれ進むと、その虹の中へ吸い込まれてしまいそうです。
降り注ぐのは富士山の湧き水のミスト。点のように細かな粒子が飛んできて体に染み渡り、呼吸をし体へ取り込み、自分の中の悪いものを吸収し浄化してくれるかのようです。
時間は止まって、体は浮いているような。
自然は脈打ち生きていた。
滝の下から上の方へ階段を昇ると、雲がない日には富士山を拝むこともできます。この日は右上に大きな雲が出ていて、富士山はかくれんぼしていました。
近くには、角行が水行をしたという霊跡であり、源頼朝がその水面を鏡に髪の乱れを直したという由来の「御鬢水(おびんみず)」があります。透明度が高く、エメラルドの輝き。
滝、虹、空、富士山のパワーは、雨でも晴れでも関係なく溢れ、自然というものの鼓動を感じる場所でした。目の前の現象をどう受け止めるかは自分次第。七色の光の中に入って非日常な体験を、そして、雨の季節と富士山の湧水で自分に恵みの水を降らせてみるのはいかがでしょう。
『白糸ノ滝』『音止の滝』
住所:〒418-0103 静岡県富士宮市上井出
交通:JR「富士宮駅」バスで約30分「白糸の滝」下車
参考ホームページ〈富士宮市観光協会〉
https://fujinomiya.gr.jp/guide/170/
[All photos by kurisencho]
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