
古城街道沿いのハイデルベルクは、古城と大学で知られるネッカー河畔の街。1386年創立のハイデルベルクは、ドイツ最古の大学にして、8人のノーベル賞受賞者を輩出してきた名門です。ハイデルベルクにおいて、大学はもはや観光スポット。施設の一部が「大学博物館」として公開されているほか、珍しい「学生牢」も見ることができるのです。
空気が一変する学生牢

学生牢があるのは、大学旧館の裏手。大学博物館と共通で使えるチケットは、大学グッズショップ(Uni-shop)で購入でき、ショップの奥に学生牢への入口があります。

「学生牢(Studentenkarzer)」と書かれた看板に沿って進んで行くと、空気が一変。かつてここで時間を過ごした学生たちの落書きが、壁いっぱいに広がっています。

別世界に迷い込んだような、あるいは来てはいけない場所に足を踏み入れてしまったかのような、奇妙な感覚・・・まるで、ここだけ時代の流れから隔絶されているかのようです。
牢屋暮らしはステイタス!?

階段で2階にのぼると、「投獄」された学生たちが暮らしていたいくつかの小部屋が。やはり、壁も天井も学生たちの落書きで埋め尽くされ、独特の雰囲気を醸し出しています。
しかし、決して嫌な感じがするわけではありません。「牢屋」というと、暗くジメジメした印象がつきまといますが、この学生牢はノスタルジックかつアーティスティックで、学生たちのエネルギーが感じられます。

それもそのはず。当時の学生たちにとって、学生牢に入れられることは一種の「男の勲章」で、「在学中、一度は学生牢に入りたい」と考えていた学生も少なくなかったとか。壁面には、自身の名前やシルエット、学生牢に入るにいたった罪状や滞在期間などが記されています。

数々の落書きのなかでも、特に印象的なのが、シルエット。当時流行していたという影絵風の横顔から、その時代の雰囲気がうかがえますね。もし学生牢が現代によみがえったら、落書きもずいぶんと違ったものになりそうです。
微罪を犯した学生を大学が独自に処罰

ハイデルベルク大学に学生牢が設けられたのは、1712年のこと。当時、大学生が街で問題を起こしても警察が介入できなかったため、大学が独自に取り締まりを行うようになったのです。
といっても、ここに収監された学生たちは、凶悪犯罪者だったわけではありません。酔って騒ぐ、学生同士で決闘するなど、公共の秩序を乱した学生が、2日~4週間のあいだここに拘留されました。

なかには、他人の豚小屋を勝手に開け、逃げ出した豚を追い回すという悪事に手を染めていた学生もいたそう。凶悪犯罪に比べれば、ずいぶんとかわいいものですが、豚小屋の主はたまったものではありませんね。
意外と楽しい牢獄生活

学生牢での生活は、「牢獄生活」と聞いてイメージするような過酷なものではなく、それなりに自由が担保されていたようです。最初の2日間を水とパンだけで我慢すれば、その後は外部からの差し入れが許され、ビールを飲むこともできました。

投獄中であっても授業に出ることは奨励されていて、授業が終わると管理人が学生を迎えに行き、学生牢に連れ帰っていたそうです。投獄された学生たちが、学生牢の各部屋を「パレ・ロワイヤル」「サンスーシ」などと名付けていたことからも、彼らなりに学生牢での暮らしを楽しんでいたことがうかがえます。
男子学生の「若気の至り」も、時代が変わった今では重要な文化財。もっとも、本人たちは、学生牢が博物館として大切に保存されることは予想していなかったでしょうが・・・。
昔の学生たちの息づかいが感じられる学生牢は、ハイデルベルクで最もユニークな観光スポットではないでしょうか。

[All photos by Haruna]
Do not use images without permission

Haruna ライター
和歌山出身、上智大学外国語学部英語学科卒。2度の会社員経験を経て、現在はフリーランスのライター・コラムニスト・広報として活動中。旅をこよなく愛し、アジア・ヨーロッパを中心に渡航歴は約60ヵ国。特に「旧市街」や「歴史地区」とよばれる古い街並みに目がない。半年間のアジア横断旅行と2年半のドイツ在住経験あり。現在はドイツ人夫とともに瀬戸内の島在住。
【ドイツ現地取材特集11】ミュンヘンの再開発地区「ヴェルクスフィアテル-
Aug 11th, 2022 | minacono
ドイツ観光局が主催するプレスツアーにTABIZINEライターが参加。首都ベルリンやドレスデンを巡り、バイエルン地方の小さな村オーバーアマガウへ。その後ミュンヘンも訪れました。各地の旅体験とともに、ドイツの今をレポートします。今回は、ミュンヘンで再開発が進むエリア「ヴェルクスフィアテル-ミッテ」を紹介。今の時代ならではプロジェクトが進む、地元でも注目されている新スポットです。
【ドイツ現地取材特集10】ミュンヘン郊外のビール醸造所へ!豪快なバイエル
Aug 4th, 2022 | minacono
ドイツ観光局が主催するプレスツアーにTABIZINEライターが参加。首都ベルリンやドレスデンを巡り、バイエルン地方の小さな村オーバーアマガウへ。その後ミュンヘンも訪れました。各地の旅体験とともに、ドイツの今をレポートします。今回は、ミュンヘン郊外にあるビール醸造所アインガーの工場見学へ。豪快なバイエルン名物料理が味わえる、地元のレストランもあわせてご紹介します!
【ドイツ現地取材特集9】南ドイツのプレッツェル屋さんの工房に潜入!プチ手
Jul 20th, 2022 | minacono
ドイツ観光局が主催するプレスツアーにTABIZINEライターが参加。首都ベルリンやドレスデンを巡り、バイエルン地方の小さな村オーバーアマガウへ。その後ミュンヘンも訪れました。各地の旅体験とともに、ドイツの今をレポートします。今回は、南ドイツで特に食されている「プレッツェル」のパン屋さんに潜入。結び目が特徴的なあの形を手作業で作る工程に参加させてもらうなど、手作りプチ体験を楽しみましたよ。
【ドイツ現地取材特集7】ドイツ最高峰ツークシュピッツェ山へ~2カ所の絶景
Jun 24th, 2022 | minacono
ドイツ観光局が主催するプレスツアーにTABIZINEライターが参加。首都ベルリンやドレスデンを巡り、バイエルン地方の小さな村オーバーアマガウへ。その後ミュンヘンも訪れました。各地の旅体験とともに、ドイツの今をレポートします。今回は、ドイツ最高峰の「ツークシュピッツェ山」へ。山頂からの絶景はもちろん、氷河を間近に感じながら気軽に歩けるスポットなど、見どころが盛りだくさんでした。
【ドイツ現地取材特集6】ノイシュバンシュタイン城を望む絶景地でミュージカ
Jun 22nd, 2022 | minacono
ドイツ観光局が主催するプレスツアーにTABIZINEライターが参加。首都ベルリンやドレスデンを巡り、バイエルン地方の小さな村オーバーアマガウへ。その後ミュンヘンも訪れました。各地の旅体験とともに、ドイツの今をレポートします。今回は、人気の観光名所「ノイシュバンシュタイン城」を見晴らす地に佇むシアターをご紹介! ミュージカルを鑑賞した後は、施設内のレストランにてディナーも楽しみました。
【ドイツ現地取材特集5】南ドイツの修道院ビール!醸造所で見た歴史を紡ぐ「
Jun 15th, 2022 | minacono
ドイツ観光局が主催するプレスツアーにTABIZINEライターが参加。首都ベルリンやドレスデンを巡り、バイエルン地方の小さな村オーバーアマガウへ。その後ミュンヘンも訪れました。各地の旅体験とともに、ドイツの今をレポートします。今回は、バイエルン州の小さな村「エタール」の修道院で、古くから製造されていた地ビールの醸造所へ。歴史を学び、おいしさの秘密を教えていただきました。
【ドイツ現地取材特集4】有名なキリスト受難劇だけじゃない!「オーバーアマ
Jun 12th, 2022 | minacono
ドイツ観光局が主催するプレスツアーにTABIZINEライターが参加。首都ベルリンやドレスデンを巡り、バイエルン地方の小さな村オーバーアマガウへ。その後ミュンヘンも訪れました。各地の旅体験とともに、ドイツの今をレポートします。今回は、10年に1度開催されるキリスト受難劇『パッションプレイ』で有名な、バイエルン州の」オーバーアマガウ」の町の魅力をご紹介します。
【ドイツ現地取材特集3】チーズやパン、ハーブも~「地元食材」に触れる旅~
Jun 9th, 2022 | minacono
ドイツ観光局が主催するプレスツアーにTABIZINEライターが参加。首都ベルリンやドレスデンを巡り、バイエルン地方の小さな村オーバーアマガウへ。その後ミュンヘンも訪れました。各地の旅体験とともに、ドイツの今をレポートします。今回は、チーズやパン、ハーブなど、地域に根付く食文化をご紹介。バイエルン州の自然や伝統を大切に守っていく、地元の人々の姿に触れました。
【ドイツ現地取材特集2】バイエルンで森と水に癒されるウォーキング体験を
Jun 7th, 2022 | minacono
ドイツ観光局が主催するプレスツアーにTABIZINEライターが参加。2022年春に首都ベルリンやドレスデンを巡り、バイエルン地方の小さな村オーバーアマガウへ。その後ミュンヘンも訪れました。各地の旅体験とともに、ドイツの今をレポートします。今回は、バイエルン州のドイツ・アルプスにある「メディテーション・トレイル」をご紹介!穏やかな自然を感じながら、のんびりと歩くツアーに参加しました。
【ドイツ現地取材特集1】世界無形遺産の伝統行事!10年に1度のキリスト受
May 24th, 2022 | minacono
ドイツ観光局が主催するプレスツアーにTABIZINEライターが参加。2022年春に首都ベルリンやドレスデンを巡り、バイエルン地方の小さな村オーバーアマガウへ。その後ミュンヘンも訪れました。各地の旅体験とともに、ドイツの今をレポートします。今回は、バイエルン地方の小さな村で開催されるキリスト受難劇『パッションプレイ』をご紹介。10年に1度という機会が今年にあたり、10月まで上演されています。