シュークリーム
シュークリームと聞けば、誰でも絵を思い描ける定番のスイーツですが、正式名称をシュー・ア・ラ・クレーム(chou à la crème)とフランス語で言います。日本語の辞書で調べると、
<キャベツ形の薄い皮の中にクリームを詰めた洋菓子>(岩波書店「広辞苑」より引用)
と書かれています。「キャベツ形の薄い皮に」という表現、なるほどシュークリームをキャベツと描写する文才は、さすがだと思いませんか。しかし、シュークリームの「シュー(chou)」は、本当にフランス語で「キャベツ」という意味があります。
手元の「プチ・ロワイヤル仏和辞典」(旺文社)を調べると、1番目に「キャベツ」の意味が掲載されていて、2番目にお菓子の「シュー」、3番目にリボンの「ちょう結び」が紹介されています。
さらに同じつづりの「chou」では、話し言葉で名詞「かわいい人」、形容詞「すてきな、優しい」も載っています。シュークリームのシューに、このような多彩な意味があるとは、ちょっと驚きですよね。
ミルフィーユ
ミルフィーユにも意外な意味があります。ミルフィーユとはフランスのお菓子で、
<層になるように作ったパイ生地を薄く伸ばして焼き、カスタード・クリームや果物などを挟んで重ねたもの>(「広辞苑」より引用)
とあります。このミルフィーユ、つづりは「mille-feuille」で、直訳すると「千枚の葉っぱ」になるそう。確かに「mille」は、英語でも「millennium」で「千年間」などを意味します。
「feuille」については「プチ・ロワイヤル仏和辞典」を調べると、
- 葉
- 紙片
- 書類、文書
- 印刷物
- 薄板
- 耳
などの意味が紹介されています。いずれにせよ薄い何かを指す言葉のようで、1,000枚の層が重なっているという語感は、食べ物のミルフィーユを表現する言葉としてぴったりですね。
エクレア
エクレアもフランス生まれのお菓子です。エクレアとは「éclair」と書きます。辞書には、
<表面にチョコレートやチョコレート風味のフォンダンを塗った細長いシュー・クリーム>(「広辞苑」より引用)
とあります。フォンダンとは砂糖と水を煮詰めて冷ましてから、混ぜて純白に仕上げた食べ物を言います。この「éclair」(フランス語の読み方だとエクレール)という言葉、意味は何だと思いますか?「プチ・ロワイヤル仏和辞典」を調べると、
- 稲光り、稲妻、雷光
- きらめき、閃光
- ひらめき
- お菓子のエクレア
と説明があります。この言葉の意味は、稲妻なのですね。どうして稲妻という言葉が、あの食べ物に使われているのでしょうか。
この理由については、ニッポン放送のラジオ番組で放送されていたそうです。中身のクリームが飛び出さないように、一口で稲妻のように素早く食べなければいけないから、エクレアという名前が付いたのだとか。確かに素早く食べないと、エクレアは美しく食べられません。
フィナンシェ
次はフィナンシェ。男性だとフィナンシェと言われて、すぐに形が思い浮かばないかもしれません。日本語の辞書には、
<卵白・佐藤・粉末アーモンド・小麦粉・焦がしバターを混ぜ、長方形の浅い型に入れて焼いた小さな菓子>(「広辞苑」より引用)
とあります。長方形の浅い型とあるように、金の延べ棒(ゴールドバー)のような形をした焼き菓子ですね。このスイーツもフランスで生まれ、「financier」と書きます。この言葉を「プチ・ロワイヤル仏和辞典」で調べると、
- 財界人、金融資本家、金持ち
- 財務専門家、財政家
という全くイメージの異なる言葉が出てきます。お菓子の意味は、ありません。言われてみると、英語で「財政、資金、家計」などを意味する「finance」とも似ています。どうしてこの言葉が、お菓子の名前になったのでしょうか。
その理由は、先ほど「金の延べ棒」と何気なく書きましたが、まさにそのゴールドバーに似た長方形の型で焼くために、「フィナンシェ」と呼ばれるようになったと、「フードアナリスト検定教本4級」(学研教育出版)に書かれています。とてもユニークな語源ですよね。
シフォンケーキ
最後はシフォンケーキのシフォン。シフォンの意味は、何でしょうか? そもそもシフォンケーキとは、
<スポンジ・ケーキの一種。バターを使わず、シフォンのようにきめが細かい食感があるもの>(「広辞苑」より引用)
とあります。「シフォンのようにきめが細かい」と当たり前に説明があります。「シフォン」をあらためて調べると、
<絹モスリンに同じ>(同上)
とあります。絹モスリンとは、何なのでしょうか。あらためて調べると、
<きわめて地を薄く平織りにした絹織物>(同上)
と書かれています。
先ほど調べた「フードアナリスト検定教本4級」には、「シフォン」の意味が「絹で織られた軽くて薄い布地」と書かれています。この絹で織られた軽くて薄い布地のようなケーキを、シフォンケーキと呼ぶのですね。つづりは「chiffon」です。
ただ、意外にも「プチ・ロワイヤル仏和辞典」で「chiffon」を調べると、
- ぼろ切れ、雑巾
- 紙屑
- 女性のおしゃれ用品、装身具
と書かれています。このちょっとネガティブな印象のあるぼろ切れが語源になっているという情報も一部にありました。しかし、定説としては、絹で織られた軽くて薄い布地が語源だと考えられているみたいですね。
以上、フランスで生まれたスイーツの意外な言葉の意味を紹介しました。この手の意味を踏まえてスイーツを眺めてみると、ちょっと見え方も違ってきます。味わいまで、変わってくるかもしれませんよ。
【参考】
※ エクレアはフランス語の“稲妻”が由来~なぜなのか? – ニッポン放送
※ 『フードアナリスト検定教本4級』(学研教育出版)
※ 『プチ・ロワイヤル仏和辞典』(旺文社)
[All photos by Shutterstock.com]