長崎からLGBT支援を発信
正福寺は織田信長が活躍した安土桃山時代に開かれた、浄土真宗本願寺派の寺院です。400年余りもの間、御門徒や地域の方々によって、念仏の場として大切に受け継がれてきました。そのような歴史ある正福寺ですが、数年前、地元の婚礼衣装会社とタッグを組んで、同性婚の仏前結婚式も行っていることを全国に向けて発信するようになりました。
――最近では全国的に少しずつ同性婚を取り扱う式場が増え、社会の意識の変化を感じます。正福寺では、どのような思いでLGBTの方への支援を行っているのでしょうか。
清原さん:「生」にはいろんな生きづらさ、悩み、苦しみがあります。それにもがいている人たちは、心の拠り所となる場所を求めています。
正福寺は、親鸞聖人によって開かれた浄土真宗本願寺派のお寺です。「何人も平等に」という親鸞聖人の教えに基づき、浄土真宗では性的マイノリティだけではなく、貧困、福祉、ⅮVなど、社会のさまざまな問題に焦点を当て支援をしております。
もしかすると、仏教に伝統的なイメージや堅苦しいイメージを持たれている人もいるかもしれません。しかし、実際はとても柔軟です。すべての人の、すべての悩みを、決して否定することなく、話に耳を傾け、認め、一緒に模索していくのがお寺の役割です。
答えはひとつではありません。その人が生きてきた過程があって、課題や問題を抱えているのですから、さまざまな角度から物事を捉え、寄り添うことができたらと思っております。
「知らない」が偏見や差別を生みだす
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――都市部と地方では環境も大きく異なると思います。この土地ならではの課題は、どのようなところにあるのでしょうか。
清原さん:社会の中でのある場面や、人と人との関係性において、時に、属性によって受け入れる・受け入れないの取捨選択が行われることがあります。これを「偏見」や「差別」と呼びますね。偏見や差別は意識的に行われるというよりも、「相手のことをよく知らない」という無知から発生します。
地方は都会に比べて共同体意識が強く、人間関係が濃厚です。人と人との絆が深く、互いに気を遣い合い、協調しながらやってきたというのが、地域の良さや魅力にもなっています。しかし一方で、それが悪いほうに働いてしまう面もあります。「個」よりも「家」が尊重されたり、和を乱さないように互いに監視しあったり。
「普通に」「無難に」「女性らしく」「男性らしく」という言葉を子どもの頃から聞かされて育ち、それを当たり前と考える大人になっていく。そして、そんな考え方を「常識」と思い込み、一個人をその枠の中だけで評価しようとする。でも、人はそんな簡単なものではありませんよね。人それぞれ生き方も違えば、考え方も違うのですから。
例えば、都市部では地元で育った人間だけでなく、あちこちからいろんな人がやってきて入り混じり、社会を形成しています。LGBTへの認知も理解も広がりやすく、情報の伝達も早いでしょう。
一方、地方では、外から新しい人がやってくることも珍しいですし、流動性が少なく、変化が起きにくい。新しい文化や考え方が広がっていくのは、都会に比べると難しい面があります。尚且つ、協調性が重視され、目に見えない常識で「こうあるべき」と暗黙の了解が成立し、個人ががんじがらめになっている部分があります。
誰もが自分の「生」を思いのまま生きるために
清原さん:そういう意味でいうと、地方はマイノリティにとって、非常に声をあげにくい環境です。だからこそ、ここから私たちが発信することに意味があると考えます。
お寺はすべての人にとって開かれた場です。「同性婚の仏前結婚式も取り扱っている」と情報発信することで、たとえ当事者が行動を起こすことができない状況にいても、自分を受け入れてもらえる場所があるということを知ることができます。
支援を必要とする人が自分のタイミングでアクションを起こせるように、こちらはいつでも万全の用意をしている。そんな思いを広く伝えていきたいです。
童謡「チューリップ」の歌詞に「さいた さいた あかしろきいろ どのはなみても きれいだな」とあるように、違いはあって当たり前のことです。この歌のように、浄土真宗のお経の中には「青色青光(しょうしきしょうこう)。黄色黄光(おうしきおうこう)。赤色赤光(しゃくしきしゃっこう)。白色白光(びゃくしきびゃっこう)。」という言葉があります。
生まれや境遇、顔かたち、性格、才能はみんな違う。いろんな人がいてお互いを認め合うことで世の中が成り立つと思うのです。
みんなが自分だけの色を輝かせ、自分の花を咲かせて生きることができたら。そして、誰もが自分の「生」を思うとき、「自分が自分であって良かった」と感じ、いのちを輝かせて生きることができたら。そのことをお伝えするのが、私たち僧侶の役割と感じています。
住所:長崎県北松浦郡佐々町口石免396-6
電話:0956-62-2063
[Photos by Chie Uchino]