風の強さ日本一
気象庁の観測史上における日本一の最大風速(10分間平均風速の最大値)、および最大瞬間風速(瞬間風速の最大値)が記録された観測地点はどこだと思いますか? 静岡と山梨にまたがる富士山です。
最大風速の風向きは西南西。富士山から見た西南西とは静岡県の富士宮市や愛知県の豊橋市、そちらの方面になります。
その西南西からの風が1942年(昭和17年)4月5日に風速(毎秒)72.5mの強さで吹いたと記録されています。1942年といえば第二次世界大戦の真っただ中。時期は春ですから、夏以降に連合国軍が総反攻する前のタイミングです。
例えば台風の風を表現するとき、最大風速が毎秒33m以上44m未満を「強い台風」、毎秒44m以上54m未満を「非常に強い台風」、毎秒54m以上を「猛烈な台風」と呼ぶらしいです。風の強弱の表現については、風速(10分間平均)毎秒20m以上30m未満を「非常に強い風」、毎秒30m以上または最大瞬間風速毎秒50m以上を「猛烈な風」と表現します。
富士山で観測された最大風速72.5m/sが、どれだけ強いかわかりますよね。猛烈な台風や風では樹木や電柱、街灯が倒れたり、トラックが横転したりする危険性があるといいます。
最大風速のみならず、最大瞬間風速についても富士山は過去に日本一を観測しています。1966年(昭和41年)9月25日には毎秒91mを観測しています。ここまでくると家屋の倒壊も予想されるようです。
日中の寒さも日本一
富士山は標高が高い分だけ、気温の低さでも日本一の記録を持っています。気温の低さといっても最「高」気温の低さです。ちょっとややこしい表現ですね。
最高気温とは「その日の最高気温=その日に最も温かくなった時間の気温」。一般的には日中です。最「高」気温が低いとは、1日のうちで最も気温が上がった時間帯(例えば日中)でも、すごく寒かった状態を意味します。
1936年(昭和11年)1月31日、この日の富士山の最高気温は-32.0℃までしか上がりませんでした。日付を見ると、いかにも寒そうな季節です。恐らく夜から朝方にかけてはもっと低く、日中になっても-32℃までしか上がらなかったのではないでしょうか。
筆者は北海道の士幌に暮らしている時、-32℃を何度か経験しました。牧場の住み込みで当時はアルバイトしていたので、いずれも早朝の搾乳の時間です。寝泊まりしていたプレハブから外へ出て牛舎へと30秒ほど屋外を歩くのですが、そのわずかな間に鼻の穴の中が凍りました。-30℃を下回ると、帽子をかぶっていても頭をきゅーっと締め付けられるような寒さがあって、「ずっと外にいると危険だ」と体の細胞が危険信号を出すようでした。
1936年1月31日の富士山の観測所は、1日のうちで最も温かくなった時間でも、この「危険」な寒さまでしか気温が上がらなかったのです。
富士山の観測所は北海道と並ぶ寒さ
ちなみに、この富士山、最「低」気温の観測地点ランキングでも歴代で第4位に入っています。1981年(昭和56年)2月27日に-38.0℃を記録しています。気温の低さランキングトップ20が、すべて北海道で記録されている中、住所としては静岡県にある富士山の観測所だけが第4位に食い込んでいるのです。
観測史上最も低い最「低」気温を観測した地点は旭川の-41.0℃、2位は筆者の暮らしていた士幌の近くにある帯広で-38.2℃です。いずれも観測された年は1902年(明治35年)。1902年といえば日露戦争開戦の数年前。明治維新から改革・成長してきた日本が、いよいよヨーロッパの超大国と一戦交えようと世論が高まりを見せている時です。この年のシベリア(ロシア)の南東端、沿海州(プリモルスキー)も恐らくかなり冷え込んだと思われます。
気温情報であっても、記録を100年以上のスパンで残し続けると、日本史や世界史を想像するヒントにもなります。今さらですが、記録を残すって本当に大事なのですね。
日本一の富士山が、高さ以外でも日本一の称号を得ている事例を紹介しました。猛烈な風や生命をおびやかす寒さなど、自然環境の厳しさでも、富士山は日本一だと覚えておきたいです。
【参考】
※ 歴代全国ランキング – 気象庁
※ 風 – 気象庁
※ 台風の大きさと強さ – 気象庁
※ 気温、湿度 – 気象庁
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Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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