「世界で最も安全に出産できる国」は日本
自分が、あるいは家族が出産した経験を持たないと、出産現場の様子は、なかなかわかりづらいと思います。まして世界との比較となると、安全性など先進国はどこも大差ないと感じるはず。日本よりアメリカとかヨーロッパ諸国のほうが、むしろ安全な印象すらあるかもしれません。
しかしUNICEF(国連児童基金)の近年の調査によると、世界で最も安全に出産できる国は日本 なのだとか。世界の貧しい国々では1,000人の赤ちゃんのうち27人が不幸にも亡くなるといいます。
豊かな国々でも1,000人のうち3人が亡くなります。しかし日本の場合は、1,000人のうち1人どころか1人以下、1,111人に1人の割合でしか赤ちゃんが亡くならないとUNICEF(国連児童基金)が明らかにしています。その分だけ、赤ちゃんの死が日本の社会ではまれになります。わが子を失った親の悲しみは皮肉にも増すばかりです。しかし、救われる命が増える世の中は単純に喜ばしいと一般論では考えられるはずです。
赤ちゃんを亡くすケースが世界で最も多い国はパキスタン
パキスタンの風景
反対に、赤ちゃんを亡くすケースが世界で最も多い国はパキスタンだそうです。インドと国境を共にして、カシミール地方を巡る争いをインドと繰り返してきたイスラム教国。日本の外務省によると人口は2億2,090万人で、日本より1億人くらい多いです。その上、世界で最も赤ちゃんの死亡が多いと考えれば、赤ちゃんの死はパキスタンにおいて「よくある話」なのかもしれません。
赤ちゃんの死亡率が高い国は次いで、中央アフリカ(共和国)・アフガニスタン・ソマリア・レソトです。これらの地域では、経験豊富で有能な助産師が不足している、きれいな水がない、衛生環境が整っていない、出産後1時間以内に母乳を与えられない、生まれてすぐに肌の触れ合いができない、栄養が不足しているなど、さまざまな条件が重なって不幸な結果が起きているのだとか。
世界で8番目に安全な出産を実現しているノルウェーの場合、1万人の妊婦に対して218人の医療従事者が存在するといいます。しかしレソトの場合、10,000人に1人しか医療従事者がいないそうです。その数の違いを考えるだけでも、救われる命が救われずに命を落としてしまうケースが目に浮かびます。
GHQによって病院での出産がスタンダードになった
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日本の厚生労働省の資料を見ても(平成24年と古い情報ですが)、誕生前後の赤ちゃんの死亡率は、やはり日本が世界でトップの低さ だとわかります。しかし、この安全な出産環境が昔から存在するわけでは、もちろんありません。
日本看護協会の公式サイトの情報によると、明治時代の初めは一般人の暮らしがとても苦しかったため、中絶や間引き、捨て子、飢えによる死亡が後を絶たなかったのだとか。しかし「産めよ増やせよ」といった明治・大正時代の国策、第二次世界大戦後に起きたベビーブーム、その後の急激な出生率の低下など、時代の激しい移り変わりの中で、産婆(助産師)などの制度充実が図られ、医療従事者たちによる現場での懸命な努力と成長が続きました。
GHQ(連合国軍総司令部)によって敗戦後には助産婦(助産師)の免許制度が導入され、自然分娩(ぶんべん)から病院での出産へお産のスタンダードが変わっていきます 。都市部への人口集中や住宅環境の悪化、核家族化などがその流れを加速させ、いよいよ自宅で産めない人が増えました。
日本看護協会によると、第二次世界大戦の前後は自宅で赤ちゃんを産む人が9割を占めていたそう。しかし1960年(昭和35年)ごろに自宅での出産と病院での出産が同数になり、病院でのお産が以後は主流派になったよう です。
以上のような変化の中で、母親の死亡率も赤ちゃんの死亡率も劇的な右肩下がりの改善が見られました。
最近は、ある種の自然派志向や不安を軽くしたいなどの理由から、自宅での出産を求める人もわずかながら再び増えてきているようです。しかし、出産の舞台が病院に移った時代の変化によって、母親と赤ちゃんの安全が劇的に改善された事実も見逃してはいけないのですね。
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ちなみにUNICEF(国連児童基金)のレポートによると、日本に次いで出産が安全な国はアイスランド(死亡率は1,000人に1人)、シンガポール(909人に1人)、フィンランド(833人に1人)です。
国際結婚や移住をこの先考えていて、海外での出産も可能性として人生設計に含まれているのであれば、あわせて参考にしてくださいね。
[参考]
※ The world is not complying with newborns, says UNICEF – unicef
※ Japan is safest place to be born, UNICEF report says – KYODO
※ Japan the safest place to give birth: UNICEF – NIKKEI Asia
※ 周産期医療体制の現状について
※ 助産師の歴史 – 日本看護協会
※ パキスタン・イスラム共和国 – 外務省
※ 母子保健統計の動向
※ 自然分娩(しぜんぶんべん)・自宅出産(じたくしゅっさん) – 身原病院
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Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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