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ヨーロッパなのに日本的な一面も!ポルトガル政府観光局職員が語る同国の魅力

Posted by: 坂本正敬
掲載日: Feb 21st, 2022. 更新日: Feb 23rd, 2022

各国・地域の観光局に勤務する日本人スタッフを通じて見える「その国の魅力」を紹介する当不定期連載。今回は、ポルトガル政府観光局の高岡千津さんにお話を伺いました。ポルトガルというと、種子島(鹿児島県)に鉄砲を伝えた歴史や、サッカー選手のクリスティアーノ・ロナウド選手のイメージが先行しがちですが、日本人にとっては、最高の旅先になってくれる可能性も高そうですよ。ぜひ最後まで読んでみてくださいね。

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ポルト ドン・ルイス一世橋とポルト歴史地区 ©VisitPortugal


 


京都市の地名「先斗(ぽんと)」はポルトガル語が語源説も


ポルト アズレージョ(絵タイル)が美しいカルモ教会 ©ChizuTakaoka

ポルトガルと言われると何を連想しますか? 冒頭でも書いたとおり、鉄砲伝来の歴史や世界的に有名なサッカー選手の名前など、いくつかの断片的なイメージしか持たない日本人がほとんどかもしれません。そんな「縁遠い」国の政府系機関であるポルトガル政府観光局に勤務する高岡千津さんは一体何者なのでしょうか?

取材にあたっては、高岡さんとポルトガルとの接点をまず聞きました。すると「私は京都府生まれです」との返答が真っ先にありました。

一瞬頭が「?」になりました。京都府とポルトガルの接点は何も思い浮かびません。しかし、高岡さんによると、ポルトガルとの関係が地下水脈のように京都には存在していて、京都市にある「先斗(ぽんと)町」の地名も、ポルトガル語の「Ponto(先端)」を語源にしているのだとか。


リスボンの世界遺産 大航海時代象徴するジェロニモス修道院 ©VisitPortugal

さらに、高岡さんのご家族は敬虔(けいけん)なカトリック信者です。キリスト教を日本に持ち込んだイエズス会の宣教師たちもカトリックの改革派で、ポルトガル王に派遣されています。

京都府に生まれ、カトリック信者として洗礼を受け、知らずのうちにポルトガルに興味を抱き始めた高岡さんは、東京の上智大学に進んでポルトガル語を専攻し、ポルトガル人の先生に勧められて在学中にリスボン大学へ留学しました。

日本企業の駐在員であった現在のご主人との出会いがその留学先のリスボンであり、卒業後すぐに結婚。ポルトガルでの暮らしが卒業後も続き、学生時代と合わせて6年間のポルトガル生活となったそうです。

ポルトガルのブーム


フォトスポットとして一躍有名になった中部地方アゲダ ©ChizuTakaoka

ポルトガルでの勤務をご主人が終えると、一緒に日本に戻った高岡さんは職探しを始めます。ある人の紹介で就職した先が、ポルトガル大使館内の政府機関であるポルトガル投資・観光・貿易振興庁(当時)でした。

その機関から独立する形で観光部門のポルトガル政府観光局が立ち上がると、観光業界でのキャリアが今度はスタートします。

ポルトガルを経済危機が襲った2011年、ポルトガル政府観光局日本事務所は休館となり、高岡さんは貿易や投資促進の業務に再び戻りました。

しかし、ヨーロッパ各地で続発したテロの関係で、安全な国ポルトガルへ世界の人が観光で集まるようになり、日本からの訪問者数も前年比をほぼ倍増する勢いで伸び続けると、ポルトガル政府観光局日本事務所の再開をポルトガルが2019年に決定します。

ポルトガル政府観光局に再び身を置こうと決意した高岡さん。その後は、旅行会社やメディア関係者にポルトガルの情報を発信する仕事を一貫して続けているようですね。

ヨーロッパで最も米の消費量が多い国


日本人の郷愁をそそるイワシの炭火焼き ©VisitPortugal

「半分はポルトガル人みたいなもの」と高岡さんはご自身を形容します。そんな高岡さんの口から繰り返し出てくるポルトガル人の特徴は、意外にも日本人と類似していました。

ポルトガルと日本はかなり遠いです。地球儀が手元にあれば、北海道のちょっと東、千島列島の上を走る東経150度の縦線を北極に向かってなぞり、地球の反対側へ出てみてください。グリーンランド上空を通り過ぎて南へ向かうと、北大西洋上にアソーレス諸島が浮かんでいるとわかります。

モロッコの西側には、大西洋の真珠と称されるポルトガル領マデイラ諸島もあります。あの世界的に有名なサッカー選手クリスティアーノ・ロナルド選手の生まれた島ですね。世界三大酒精強化ワインの一つマデイラワインの産地でもあります。


ポルトガルで一番美しいと言われるマデイラ島ラブラドーレス市場 ©VisitPortugal

そのマデイラ諸島からさらに東へ行くと、イベリア半島の西端にポルトガルの本土があります。要するに、日本から見ると北半球の「正反対」にあると言っても過言ではありません。そんなポルトガルと日本の共通点を、高岡さんは繰り返し教えてくれるのです。

例えば食の好み。高岡さんによると、ヨーロッパ諸国の中で米の消費量が最も多い国はポルトガルなのだとか。肉よりも魚を好み、炭火焼きの魚にあら塩を振って食べたりするスタイルは、日本の沿岸部の暮らしとほぼ変わりがありません。

日本からのシニア旅行者たちは、パッケージツアーでポルトガルを訪れても「日本食が恋しくならない」と口をそろえて言うそうです。

海外旅行中の日本食に対する恋しさといったら半端ないですよね。年を重ねるほどに筆者自身もその傾向が強くなっている気がします。しかし、年配の人たちがポルトガル旅行中に日本食の恋しさを覚えないとは、ちょっと驚きの情報でした。

「ヨーロッパの奥地」を開拓する楽しさ


ポルトガル人の心の歌Fado、演歌にも通じると言われます ©VisitPortugal

人柄についても、日本人との共通点を高岡さんは語ります。

同じイベリア半島の国ながらお隣のスペイン人と国民性が違うらしく、スペイン人同様にラテン系らしい明るさを持ちながらも、シャイで控えめな面があり、遠慮したり空気を読んだりする一面もあるのだとか。後半の部分は、一般的な日本人の印象と似ていますよね。ポルトガルを初めて訪れた日本人の中には「初めての気がしない」と言う人も多いそうです。

旅行者に道を聞かれれば、手を引いてその場に連れて行ってあげる、自分のお店に外国人が来れば心からの笑顔でおもてなしする。その人柄に対する評価と称賛の声は、日本のみならず各国の旅行者からも寄せられているようです。国際空港の出口調査で旅行の満足度を外国人旅行者に問うと、「ポルトガルは人が良かった」との回答が一番多かったのだとか。


巨石と共存する中部地方の村モンサントJATAヨーロッパの美しい村30選にも選ばれる ©ChizuTakaoka

その上、ポルトガルにはいい意味でマイナー感、言い換えれば穴場感もあります。

奥志賀・奥日光・奥能登などという表現方法を借りるならば「奥ヨーロッパ」といった雰囲気で、パリやロンドンなど紹介され尽くした世界的な観光地にない「ヨーロッパの奥地」を開拓する楽しさが日本人にとっては残されているのかもしれません。

SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)などを通じて、その「奥地」の魅力が近年は漏れ伝わるようになりました。コロナ禍前までは年間14万人近くの日本人観光客が、憧れと興味を胸いっぱいに抱えて、直行便もないポルトガルを訪れていたようです。

10時に予定を入れたら10時ごろに最寄り駅にいる


ポルトの伝統的なカフェで ©ChizuTakaoka

治安も日本以上に良く、類似点も多く安心して訪れられる土地らしいポルトガル。とはいえ、そこに住む人々には日本人との違いもあるはずです。

その点を高岡さんに聞くと、のんびりさやおおらかさを挙げてくれました。

ポルトガルは年間を通じて気候も抜群にいいと高岡さんは言います。そんな気候の良さもポルトガル人の人柄をつくる要因の一つになっているのかもしれません。10時にミーティングの予定があったとしても、その時刻にはようやく最寄り駅に着いたばかり……。「ちょっとの遅刻は遅刻ではない」という感覚がポルトガル人にとっては一般的なようです。

もちろん待つ側も怒らず、責めません。かといって日本人に似て律儀な性格も持ち合わせているので、遅れた側は一応申し訳なく感じて謝るそう。その際には、鉄板の言い訳のカードをそれぞれの人が懐に常備していて、相手の気を悪くさせないように場面に応じて使い分けるようです。この言い訳エピソードについては、高岡さん流のジョークもちょっとだけ含まれるみたいですが。


バイロンがエデンの園と詠んだ世界遺産の街シントラ ペナ城 ©VisitPortugal

高岡さんへのインタビュー前、筆者は、ポルトガルの魅力として世界遺産の豊富さやワインツーリズムの盛り上がり、ヨーロッパ人のバケーション先としての人気ぶりなどが、出てくるのかなと思っていました。

しかし、出てきた言葉の多くは、ポルトガル人の素晴らしさに関するコメントでした。

人生を楽しんで日々を過ごす姿勢を含めて、日本人が一度は体験しておきたいポルトガル人の良さがあるようです。その人柄に支えられる形で豊かな観光資源が国中に点在しているわけですから、旅行者の満足度が高くなるのもうなずけますよね。


温かいポルトガルの人々 ©VisitPortugal

人生初のヨーロッパ旅行にポルトガルを選ぶ人は少ないかもしれません。しかし、旅慣れた人々にとっては、コロナ明けに訪れる旅先としてポルトガルを真っ先に選んでもいいのではないでしょうか。

高岡さんによると、ポルトガルのワクチン接種率(2回目)は世界トップクラスで90%を越え、3回目接種も順調に進んでいるといいます。安心安全な旅をコロナ後も約束してくれそうです。

今回のインタビューで「話そうと思っていたワインツーリズムの魅力を一言も話せなかった!」と高岡さんは残念がっていました。高岡さんは、ワインエキスパートの資格も持つワイン好きの一面もあるのだとか。

ポルトガルのワインの魅力についてもTABIZINEで引き続き聞いてみたいと思いました。ワインについての続編を楽しみにしていてくださいね。
ポルトガル政府観光局のプロモーションマネージャー高岡千津さん

【取材協力】高岡千津さん
ポルトガル政府観光局のプロモーションマネージャー。上智大学在学中にリスボン大学へ留学。日本に帰国後は、ポルトガル投資・観光・貿易振興庁(当時)に在籍し、貿易と観光の分野で活躍する。現在は、ポルトガル投資・観光・貿易振興庁の組織再編で生まれたポルトガル政府観光局にて、主に旅行会社・メディア対応業務を行う。

[参考]

※ 英語以外の異言語に対する「日本人」の態度の社会統計的分析

鉄砲とキリスト教の伝来 – 鹿児島県

宣教師はなぜ日本に来た? – NHK

[All photos by Shutterstock.com]

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。


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