【ニューヨーク旅学事典12】米大富豪の財力を示す世界最大級の私立美術館「メトロポリタン美術館」

Posted by: 青山 沙羅

掲載日: Mar 29th, 2022

アメリカのニューヨーク。訪れたことがなくても、聞いたことがあるでしょう。でも、実際どこにあるの? どんなところ? 「ニューヨーク旅学事典」は、ニューヨーク市在住の筆者が名所や歴史、雑学、小話などを綴っていく連載です。今回は「メトロポリタン美術館」について。

2016年3月9日 デンドゥール神殿
2016年3月9日 デンドゥール神殿(エジプト政府から寄贈)

メトロポリタン美術館とは

メトロポリタン美術館
2016年3月9日 メトロポリタン美術館内で

米ニューヨーク市マンハッタン区にあるメトロポリタン美術館五番街本館は、世界のあらゆる地域の5千年以上にわたる文化遺産を展示。1880年にセントラルパークを拠点に開館して以来拡張を続け、現在では約185,800平方メートルを超える面積を擁しています。古代エジプトの再現から、ヨーロッパの中世美術、ゴッホやピカソなど近代美術など、時代を超えた本物のアートと出逢うことができます。

メトロポリタン美術館は、公立(国立、市立)ではなく、世界最大級の私立美術館です。200万点を超える所蔵品の多くは、大富豪の寄贈や寄付金で購入されたもの。それぞれの展示室につけられている名前は、寄贈した美術品を蒐集した大富豪の名前。彼らが自宅で愛でていたコレクションが死後に遺贈されて、美術館に場所を移したのです。石油王ロックフェラー財閥や、投資銀行リーマン・ブラザーズのリーマン家(後にリーマンショックで経営破綻)など、アメリカの大富豪の財力に驚きます。

所蔵品の一例としては、フェルメール「水差しを持つ女」、ドガ「舞台のバレエ稽古」、モネ「睡蓮」、ゴッホ「自画像」「糸杉のある麦畑」、ピカソ「役者」、アンディー・ウォーホル「マリリン・モンロー」、日本のものでは、葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」、尾形光琳「八橋図屏風」、柿右衛門深鉢(有田焼)などがあります。

メトロポリタン美術館はどこにある

2010年3月6日 ミュージアムマイル
2010年3月6日 ミュージアムマイル

五番街に面したセントラルパーク内にあり、正面玄関は82丁目にあります。高級住宅街のアッパーイースト五番街82丁目から105丁目には、グッゲンハイム美術館やフリックコレクションなど多くの美術館が点在するので、「ミュージアムマイル」と呼ばれます。

2017年8月26日 メトロポリタン美術館
2017年8月26日 メトロポリタン美術館

メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art)

住所:1000 5th Ave, New York, NY 10028
入場:大人$25 要マスク着用
開館:日〜火、木曜日 10:00〜17:00、金、土曜日 10:00〜21:00、水曜日 休館
コロナ感染予防対策のため状況が変わることがあります。公式サイトにてご確認ください。
公式サイト:https://www.metmuseum.org

メトロポリタン美術館の歴史

2016年3月9日 中世美術 Medieval Sculpture Hall2016年3月9日 メトロポリタン美術館 中世美術 Medieval Sculpture Hall

1870年4月 メトロポリタン美術館が設立
1872年2月 一般公開 当時の住所はDodworth Building at 681 Fifth Avenue between 53rd and 54th Streets
1880年3月 現在の場所に移転 Fifth Avenue and 82nd Street
1874年〜76年 青銅器時代からローマ時代の終わりまでのキプロス美術を購入
1872年 米風景画家ジョン・フレデリック・ケンセット(メトロポリタン美術館の創設者でもある)没後、38枚の絵画を取得
1889年 エドゥアール・マネの2つの作品を取得
1902年12月 米建築家リチャード・モリス・ハント(メトロポリタン美術館の創設者でもある)によるボザール様式の5番街のファサードと大広間が一般公開
1907年 オーギュスト・ルノワールの作品を取得
1910年 アンリ・マティスの作品を取得
1917年 現在の非公式マスコットでもある、エジプトの青いかば(通称ウィリアム)を取得
1978年 デンドゥール神殿を収容するサックラー・ウィング(製薬大手パーデュー・ファーマ創業者、財閥サックラー家の名は2021年12月削除)が完成
1980年 アメリカ芸術作品を集めたアメリカン・ウィングが完成
1982年 アフリカ、オセアニア、アメリカ原住民(インディアン)の芸術を展示するマイケル・C.ロックフェラー(ロックフェラー家の一員で文化人類学者、パプアニューギニアで消息不明に)・ウィングが完成
1987年 近現代美術のライラ・アチェソン・ウォレス・ウィングが完成
1991年 20世紀初頭までのヨーロッパの彫刻や装飾芸術作品を集めたヘンリー・R・クラビス・ウィングが完成
1998年 韓国美術ギャラリーが一般公開
2011年11月 アラブ民族、トルコ、イラン、中央アジア、その後南アジアの芸術のギャラリーが一般公開

メトロポリタン美術館のトリビア

2016年3月9日 ヨーロッパ彫刻 European Sculpture Court2016年3月9日 メトロポリタン美術館 ヨーロッパ彫刻 European Sculpture Court

人気のセクションは

2016年3月9日 デンドゥール神殿
2016年3月9日 デンドゥール神殿

メトロポリタン美術館の一番人気は、古代エジプトの寺院「デンドゥール神殿 The Temple of Dendur」。メトロポリタン美術館の象徴的で、もっとも愛されている芸術作品の1つ。この神殿はホワイトハウスから寄贈されたものです。

2016年3月9日 デンドゥール神殿内
2016年3月9日 デンドゥール神殿

デンドゥール神殿は、アメリカ政府がヌビアの遺跡保護を支援した感謝の印として、1965年エジプト政府からアメリカに贈られました。2,000年前の神殿は、解体されなければダム建設のためナイル川に水没する運命にあったのです。1967年リンドンB.ジョンソン米国大統領がメトロポリタン美術館に授与し、1978年エジプト美術コレクションとして現在の場所に設置されました。

2016年3月9日 デンドゥール神殿があるエジプトコレクション
2016年3月9日 デンドゥール神殿で寛ぐ

エジプト美術について造詣が深くなくても、セントラルパークと隣接した陽光が降り注ぐ空間で、ローマ時代と時間を共有しながら、のんびり寛ぐのも贅沢な時間の過ごし方。筆者も一番好きなエリアです。

館内では模写が許されている

2016年3月9日 模写をする学生
2016年3月9日 メトロポリタン美術館 「マダムXの肖像」を模写をする学生

日本では考えられませんが、米メトロポリタン美術館では模写が可能。一流のアートを模写することは、学ぶことが多いからです。

スケッチと模写

スケッチは鉛筆をご使用の場合のみ常設展示室で許可されています。また企画展示室内でも殆どの場合許可されています。現行の企画展やそれに伴うスケッチのガイドラインについては、グレートホールのインフォメーションデスクでお問い合わせ下さい。

クレヨン、パステル、木炭は当館係員引率のツアーにおいて許可された場合のみご使用いただけます。

スケッチをする場合は、他のお客様のご迷惑にならないようご配慮ください。
館内混雑時には、スケッチを制限させていただく場合があります。

ご利用案内 メトロポリタン美術館 The Met Fifth Avenue

期間限定の秘密スポットがある

2017年8月26日 屋上2017年8月26日 メトロポリタン美術館屋上

メトロポリタン美術館には、期間限定(春〜秋)で解放される屋上庭園があり、摩天楼やセントラルパークの景色とともにアートと遊べますよ。

2017年8月26日 メトロポリタン美術館屋上
2017年8月26日 メトロポリタン美術館屋上

夏にはバーもオープンし、マンハッタンの景色とともにカクテルが楽しめます(着席できるテーブルはありません)。

屋上庭園 The Iris and B. Gerald Cantor Roof Garden 
コロナ感染予防対策のため状況が変わることがあります。公式サイトにてご確認ください。

敷地内にパワースポットがある

2008年4月19日 クレオパトラ・ニードル
2008年4月19日 クレオパトラ・ニードル

The Obelisk, nicknamed Cleopatra’s Needle クレオパトラの針

メトロポリタン美術館裏手に立っている石柱は、1880年にエジプトから贈られた古代エジプトのオベリスク「クレオパトラの針(The Obelisk, nicknamed Cleopatra’s Needle)」。NYCでもっとも古いアウトドアのモニュメントで、紀元前1450年製(今から3500年近く前)。オベリスクとは記念碑であり、時の流れを知る日時計であったようです。長さ21m、重さ220tのオベリスクの先端には、大きなパワーが集まっていると言われますから、ぜひ触ってパワーを貰いましょう。

美術館ではファッションショーやイベントが行われる

2016年5月2日 METガラ
2016年5月2日 METガラ

メトロポリタン美術館ではアートの展示だけではなく、閉館後コンサートやライブ、パーティ、結婚式、ファッションショーが開かれ、社交場として利用可能。

2016年5月2日 METガラ 米ヴォーグのアナ・ウィンター編集長が主催するイベント
2016年5月2日 METガラ 米ヴォーグのアナ・ウィンター編集長が主催するイベント

例年5月第一月曜日に開催される「METガラ」は、その年のテーマに沿ったドレスでセレブが出席するファッション・イベント。米ヴォーグのアナ・ウィンター編集長が主催し、メトロポリタン美術館で行われます。

Met Gala Red Carpet Moments 2015–2019 The Met

アナ・ウィンターと振り返る、METガラ歴代ベストドレス。| Life in Looks | VOGUE JAPAN

メトロポリタン美術館は閉館後貸切が可能

デンドゥール神殿でのパーティ
(C)The Metropolitan Museum of Art

メトロポリタン美術館は、閉館後貸切が可能です。詳細は「イベント開催 Host an Event」をご覧ください。利用目的により、上級会員資格が必要な場合もあるようです。

【非営利使用一例】デンドゥール神殿(The Temple of Dendur)を2時間借りる場合

参加者800人以上— Up to 800 guests
時間— 6:30–8:30 pm
運営費 33,000ドル(約393万4,192円 2022年3月20日現在換算)から — Operational fee from $33,000
事務手数料 参加者1人につき15ドル(約1,788円 2022年3月20日現在換算)— Administrative fee of $15 per guest
ドリンク代及び美術鑑賞費 参加者1人につき35ドル(約4,173円 2022年3月20日現在換算)— Beverage Package fee starting at $35 per guest — Includes optional gallery viewing

参加者を800人招いたとして、2時間使用料が最低でも約870万円以上掛かります。

非営利の使用料 メトロポリタン美術館

米大富豪とメトロポリタン美術館の関係の推移

●ロバート・リーマン氏(投資銀行リーマン・ブラザーズ創業者の孫)
ロバート・リーマン・コレクション The Robert Lehman Collection エルグレコやゴヤ、ボッティチェリ、ルノワール「ピアノに向かう2人の少女」、ゴッホなど2,600点、4世紀から20世紀までの700年にわたるヨーロッパ作品を遺贈(1969年)

2008年9月 アメリカの有力投資銀行「リーマン・ブラザーズ」は、米国史上最大負債総額約6,000億ドル(当時約64兆円)経営破綻。世界的な経営悪化を招く。

●サックラー家(製薬会社パーデュー・ファーマ社の創業一族)
デンドゥール神殿があるエリアは、「サックラー・ウィング」と名付けられていた。

依存性が極めて高いオピオイド系鎮痛剤「オキシコンチン」は、過剰摂取により過去20年間に全米で50万人以上の死者を出したと言われている。メトロポリタン美術館は「オキシコンチン」で財をなしたサックラー家から過去50年間受け取っていた大口寄付金を2019年5月以降拒否、「サックラー・ウィング」の名前は2021年12月削除。サックラー家は、美術館や大学などへ多額の寄付を行う慈善事業でも知られており、世界各地に「サックラー」の名を冠した文化・教育施設が存在したが、それぞれ関係を解消し、建物やコレクションからサックラーの名前を削除している。

●ジェイコブ・S ・ロジャース氏(父親が創業した蒸気機関車製造業で財を成した米実業家)
1901年に亡くなった際に、遺産からメトロポリタン美術館史上最大級の500万ドルを越える大金を寄付。莫大な寄付金の利子は、ハトシェプスト女王の像やイスラム戦士のヘルメットなど、メットの重要な作品購入の資金源に。

1905年 蒸気機関車の衰退によりを製造会社を廃業

潤沢な資産で、芸術に投資した大富豪の栄耀栄華もいつまでも続くものではないようです。

メトロポリタン美術館 15年前へタイムスリップ

2007年4月3日 メトロポリタン美術館正面入り口
2007年4月3日 メトロポリタン美術館正面入り口

2007年4月3日 メトロポリタン美術館正面入り口2
2007年4月3日 メトロポリタン美術館正面入り口

リーマン・ショック前の2007年。この頃は任意だった入場料も、2022年3月22日現在は大人25ドルの入場料に変更(ニューヨーク州民は、身分証明書を提示により引き続き任意入場料)。新型コロナウイルスの影響で、メトロポリタン美術館は1億5000万ドル(約181億1,594万円 2022年3月22日換算)の資金不足に直面し、Artnet News(2021年9月17日)によると、美術品オークションハウスのクリスティーズでパブロ・ピカソ、フランク・ステラ、ロイ・リキテンスタインを含む219枚の版画と写真(複製)を販売したようです。

ニューヨーク市の景色は進化し続けています。次回のニューヨーク旅学事典は「リバーサイド・パーク」を予定。続けて読んでいただくとうれしいです。

[All Photos by Hideyuki Tatebayashi ] Do not use images without permission.

参照
メトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art) 公式サイト
History of the Museum The Metropolitan Museum of Art
世界最大の私立美術館「メトロポリタン美術館」を作り上げた、大富豪たちの『寄付』の全貌 Pen online
米メトロポリタン美術館、製薬創業家の寄付拒絶 オピオイド中毒問題めぐり 日本経済新聞 2019年5月16日
オピオイド依存症の深刻な社会問題を引き起こした、サックラー一族の壮大な物語 Newsweek Japan 2021年07月20日(火)
メトロポリタン美術館がコレクション売却を検討。コロナによる財政難のため 美術手帖 2021年2月10日
The Met Museum Is Deaccessioning $1 Million Worth of Photos and Prints to Fill a Revenue Shortfall Caused by the Pandemic  Artnet News September 17, 2021

PROFILE

青山 沙羅

sara-aoyama ライター

はじめて訪れた瞬間から、NYに一目惚れ。恋い焦がれた末、幾年月を経て、ついには上陸。旅の重要ポイントは、その土地の安くて美味しいものを食すこと。特技は、早寝早起き早メシ。人生のモットーは、『やられたら、やり返せ』。プロ・フォトグラファーの夫とNY在住。

はじめて訪れた瞬間から、NYに一目惚れ。恋い焦がれた末、幾年月を経て、ついには上陸。旅の重要ポイントは、その土地の安くて美味しいものを食すこと。特技は、早寝早起き早メシ。人生のモットーは、『やられたら、やり返せ』。プロ・フォトグラファーの夫とNY在住。

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