オランダには有名な美術館がたくさんあります。ユトレヒトのセントラル・ミュージアムやデン・ハーグのマウリッツハイス美術館。
アムステルダムには国立ミュージアム、市立近代美術館などもありますが、やはり日本人の観光客に外せない美術館といえば、同じくアムステルダムのゴッホ美術館。ゴッホの人気は日本でも圧倒的ですよね?
そこで今回は大学時代に芸術を学んだ筆者が、にわか知識を頼りにゴッホ美術館の魅力、さらには効率的な周り方などを紹介したいと思います。
丸ごとゴッホの作品が展示された美術館
まずは、ゴッホ美術館のロケーションからスタートしましょう。同美術館はアムステルダムの中心部、芝生の美しいミュージアム広場に位置しています。
隣接して市立近代美術館、目と鼻の先には国立ミュージアムもあります。絵画好きにはたまらないエリアですね。その一角を占めるモダンな雰囲気の建物が、ゴッホ美術館になります。同館はゴッホの兄弟の遺族が、ゴッホの作品を一カ所にまとめて展示してほしいと希望したため、1973年に建てられたのだとか。
本館は日本流に言えば地上4階、地下1階建て。2階にはゴッホの1883年から1889年の作品、3階にはゴッホの手紙など、4階には1889年から1890年の作品と、フロアごとに整理されて展示されています。
日本から持ち込んだ手元のガイドブックによれば、本館に隣接した楕円(だえん)形の新館は、かつて都知事選にも出馬して一般的な知名度も高まった日本人建築家の故・黒川紀章さんが手がけているのだとか。その意味で新館の建築も必見ですね。
入り口では抜き打ちのセキュリティーチェックも
次は大まかな入館の手続きを紹介しましょう。
本館の外にあるチケット売り場で17ユーロを支払いチケットを購入したら、隣接した黒川紀章設計の新館に移動してください。チケットを見せて地下1階のクロークに向かいます。
ただ、「ちょっとお待ちください」と、筆者が入り口でチケットを見せて地下に下るエレベーターに乗ろうとすると、スタッフの男性に制止されました。
「ランダムに入館者をチェックしています。かばんの中を見せてください」との話。セキュリティ上の問題で、抜き打ちチェックもしているみたいですね。物腰は穏やかで言葉は丁寧でしたが、有無を言わせない迫力がありました・・・。
仕方なく筆者は一人列を離れると、荷物台にかばんを乗せ中身を開示します。特に問題ないと分かると、「失礼しました」と笑顔ですぐに解放してくれました。
荷物を整理しながら「どうして私を選んだのですか?」と試しに聞いてみると、ちょっと申し訳なさそうに「晩年のゴッホのように、どこか思いつめた顔をしていました」と言われました。時差ボケの抜けないぼんやりとした頭で歩いていたからでしょうか・・・。
「それなら、かばんだけでなく、耳も差し出しましょうか?」と、ゴッホの晩年の行動を思い出して聞いてみると、笑って肩をたたいてくれました。オランダ人は誰にでも公平でさっぱりとしていて、旅人には過ごしやすいですね。
館内はカフェ、土産物コーナーが充実し、Wi-Fiも使える
クロークで荷物を預けたら、本館の1階に向かいます。エレベーターを上がると、右手にカフェが見えてきます。正面にはフロアが広がり、パンフレットの置いてある音声ガイドの申し込みカウンターも見えます。
ゴッホに関しては大学時代の講義で学び、卒業後も趣味で絵を見てきたので音声ガイドを申し込みませんでしたが、大人1人5ユーロでスマートフォンのようなデバイスをレンタルできます。
たまたま知り合った新婚旅行中の日本人カップルがレンタルしていたので、ちょっと借りて聞かせてもらいましたが、もちろん日本語に対応していました。
ちなみに後から知ったのですが、館内では自由にWi-Fi接続ができるそうです。
まずは大まかに全体をチェックしてみる
鑑賞は音声ガイドの申し込みカウンターと同じ階にある、ゴッホの自画像からスタートします。その後は、順次階段を上がってフロアを移動していくのですが、自画像のコーナーから大混雑。
いきなり登場するゴッホの有名な自画像に皆さん、釘づけになっていたのですね。
しかし、大学時代に教わった西洋美術史の教授が語っていましたが、美術館の展示作品は最初から全力で鑑賞しない方がいいそう・・・。後半の見どころにたどり着く前に、疲れてしまうからですね。
まずはざっと見て周って、「これだ!」と思う作品があったらその場所まで後で戻り、じっくり好みの作品を鑑賞すると効率的なのだとか。
ゴッホ美術館は近くの国立ミュージアムほど広くはありませんが、それでも数百点の展示物があります。時間のない観光客こそ、最初はざっくりと館内を移動してみてください。
『馬鈴薯を食べる人々』など必見の作品は多数
同美術館で見ておきたい作品と言えば、例えば『馬鈴薯を食べる人々』が挙げられます。
オランダの取材旅行に先立って読んだ『オランダ紀行』では、司馬遼太郎も同作品を盛んに褒めていました。農婦たちが生きるために食卓を囲み、感動もなくジャガイモを手に取っている様子が暗いトーンで描かれています。
特に注目は農作業によって節くれだった、農婦たちの手先の描写。写真などでは決して伝わらない迫力と生命力が、生の絵画からは伝わってきます
他には有名な『ひまわり』、『ファン・ゴッホの寝室』、『黄色い家』なども展示されています。自画像についても「これ、どこかで見た」という作品が何点もあるはず。
※写真の作品は、近隣の国立ミュージアムの展示品です。
本館2階の一角には、ゴッホと日本の関係を特集したコーナーもあります。日本人としてはそのエリアもしっかり見ておきたいですね。
「ゴッホの作品なんてほとんど知らない」という方は、展示作品の横にヘッドホンマークのある作品を中心に眺めてみては? 音声ガイドが丁寧に紹介する作品だけあって、有名作品ぞろいですよ。
以上、ゴッホの作品を集めたゴッホ美術館の見どころや、効率的な周り方を紹介しましたが、いかがでしたか? 館内を一通り周り、自分の好きな作品に戻ってからまたじっくり鑑賞するというやり方をすれば、ざっと1時間程度で美術館を満喫できます。
ただ、近くにある国立ミュージアムと違って、ゴッホ美術館は館内の写真撮影が禁止されています。中には勝手に撮影している観光客も居ますが、ルールは守った方がいいかもしれませんね。
ちなみにチケットはオンライン購入ができます。筆者が訪れた真冬の平日、午後2時くらいはチケット売り場に5~6人程度の列しかできていませんでしたが、現地在住の日本人に聞くと、混雑するときは東京ディズニーランドの人気アトラクションの順番待ちくらいチケット購入の列ができるそう。
休日や季節のいい時期に訪れる際は、事前にオンライン購入をした方がいいようですね。
[ゴッホ美術館公式サイト]
[All photos by Masayoshi Sakamoto]