ヨーロッパを旅するとき、しばしば耳にする「シェンゲン協定」。
「加盟国間の移動は入国審査がない」ということはよく知られている一方で、EUと混同されることも多く、滞在ルールにも誤解が多いのが実情です。
「そもそもシェンゲン協定ってなに?」という基本から、日本人がシェンゲン圏に滞在するときのルールまで、ヨーロッパ旅行の前に知っておきたい知識を伝授します。
シェンゲン協定とは?
シェンゲン協定とは、1985年にルクセンブルクのシェンゲンで調印された協定のことで、国境検査なしで加盟国間を行き来することを許可する枠組み。
2018年9月現在、ヨーロッパの26ヵ国がシェンゲン協定に加盟しており、将来的に加盟を予定している国がさらに数ヵ国あります。
シェンゲン加盟国からまた別のシェンゲン加盟国に移動する際は、原則として入国審査が廃止されていることから、面倒な手続きなしでスムーズに国境越えができ、一般の旅行者にとっても便利な制度といえます。
EUとシェンゲン協定の違いって?
同じヨーロッパでの多国間の枠組みであることから、しばしば混同されるEUとシェンゲン協定。ですが、EUとシェンゲン協定はまったく異なる仕組みです。
EUは、第二次世界大戦後、「二度とヨーロッパを戦場にしない」ことを目的に設立された欧州石炭鉄鋼共同体を前身とする連合。欧州議会や欧州旗をもち、経済をはじめさまざまな分野での共通ルールを定め、域内の統合を推進しています。
域内のモノや人の移動が自由化され、EU加盟国の国民はほかの加盟国でビザなしで居住したり働いたりできるようになっていますが、その対象はあくまでもEU市民に限られます。
たとえば、EU市民であるルーマニア人は自由にドイツに働きに出られても、EU市民でない日本人がドイツで住んだり働いたりするには、当然のことながらビザを取得しなければならないのです。
その一方、シェンゲン協定はその対象をシェンゲン加盟国民に限ってはいません。シェンゲン圏に滞在するパスポートやビザを持っている人は誰でも、加盟国間を国境検査なしでスムーズに移動することができるのです。
EU加盟国とシェンゲン協定加盟国は違う
ヨーロッパを旅行するにあたって気を付けたいのは、EU加盟国とシェンゲン協定加盟国が異なること。
フランス、ドイツ、スペインなど、EUとシェンゲン協定の両方に加盟している国が多いものの、アイルランドやイギリス(2019年にEU離脱予定)、クロアチア、ブルガリアなどのように、EUには加盟しているけれどシェンゲン協定には加盟していない国や、アイスランドやノルウェー、スイスのように、EUには加盟していないけれど、シェンゲン協定には加盟しているという国があるのです。
日本人がヨーロッパを旅行するにあたって確認すべきは、その国がシェンゲン協定に加盟しているかどうか。EUに加盟しているかどうかにかかわらず、シェンゲン協定加盟国は外国人の入国条件を統一化しているからです。
入国審査は最初に上陸する加盟国で
日本人が日本からヨーロッパに渡航する場合、入国審査は最初に上陸するシェンゲン協定加盟国で実施されます。
たとえば、日本を出発した後まずはアムステルダムで乗り継ぎ、最終的にドイツのミュンヘンを目指す場合、実際にオランダに滞在するかどうかは別として、入国審査はオランダのアムステルダム空港で行われます。
これを知らないと、搭乗口に行く前にいきなり入国審査のゲートが立ちはだかって驚いてしまうかもしれません。
最初に上陸する加盟国で入国審査を終え、無事にシェンゲン圏に入れば、その後は何度加盟国間を行き来したとしても、原則として国境検査はありません。
シェンゲン圏を旅行する場合、入国審査は最初の加盟国に入国するときと、最後の加盟国からシェンゲン圏を出るときの2回のみ。パスポートに押されるヨーロッパのスタンプは2つのみです。
日本人のシェンゲン圏滞在は「180日間で90日以内」
観光目的の場合、日本パスポート保持者はシェンゲン協定加盟国にビザなしの入国が可能。現地での長期滞在ビザを保有しない日本人がシェンゲン圏に滞在できる期間は、「あらゆる180日間で最大90日まで」と定められています。
このルールは、すべてのシェンゲン協定加盟国での滞在を合計した期間に適用されるため、ヨーロッパを長期旅行する人や、ヨーロッパを頻繁に訪れる人は、この範囲を超えないように気を付けなければなりません。
「あらゆる180日」という表現がややわかりにくいですが、これは必ずしも「直近のシェンゲン圏への入域日から最大で90日間滞在できる」わけではないことを意味します。
それは、過去にシェンゲン協定加盟国に滞在した時期や日数により、これから滞在できる日数が減ることがあるため。
過去180日間でまったくシェンゲン圏を訪れていなければ、過去の滞在歴は考慮する必要はありませんが、180日以内にシェンゲン圏に滞在していた期間があれば、その日数分を踏まえて今後の滞在可能期間を計算しなければなりません。
ヨーロッパに90日を超えて滞在するには?
シェンゲン滞在の途中でシェンゲン圏を出て、非シェンゲン圏に滞在した場合、その日数分はシェンゲン滞在の90日にはカウントされません。
同様に、シェンゲン圏に90日間滞在した後で、周辺の非シェンゲン加盟国にしばらく滞在すれば、必ずしも日本に帰国しなくても再度シェンゲン圏に入ることが可能。
長期旅行者のなかには、このルールを活用して、ヨーロッパでの滞在期間を延ばしている人もいます。
この方法は、各国での滞在期間を守っている限りは、不正でも違法でもありませんが、短期間で同じ国で出入国を繰り返すと不審がられ、入国を拒否される可能性があることは念頭に置いておきましょう。
一度シェンゲン圏から出て再度シェンゲン圏に入れば、カウントがリセットされ、新たに最大90日の滞在期間が付与されるわけではない点にも注意が必要です。あくまでも「180日間で90日まで」がルールなのです。
なお、シェンゲン加盟国であっても、オーストリアなど一部の国は日本との二国間協定によって90日以上の滞在を認めている場合があります。
その場合、滞在国へ直行便で出入国するなど、一定の条件が求められることがあるため、特定のルールのもとで90日を超えての滞在を希望する場合には、滞在予定国の大使館や領事館に事前に確認をとることをおすすめします。
シェンゲン加盟国の一部で国境検査が復活?
これまで、シェンゲン協定加盟国間では、原則として出入国審査が廃止されているとお伝えしてきました。
「原則として」の意味は、2015年の難民危機以降、ヨーロッパでテロや犯罪への懸念が高まり、一部の陸路国境で抜き打ち的に国境検査が実施されることがあるからです。
筆者自身、ドイツからスイスに入国するときや、ドイツからフランスに入国するときに国境検査に遭遇したことがあります。
特に格安バスの利用者に対して検査が行われることが多く、身分証明書(非EU市民の場合はパスポート)を携帯していなければ、国際線バスへの乗車を拒否されることも。
国境を超える移動をする場合、パスポートを持っているのが当たり前と思われるかもしれませんが、隣国まで目と鼻の先という場所が少なくないヨーロッパでは、「外国に行く」という感覚なしに、気軽に隣国に行けてしまいます。
シェンゲン圏滞在中、隣国に日帰りに出かける際などは、うっかりパスポートを忘れないよう気を付けたいものです。
加盟国に同じルールが適用されているために、旅行者にとって便利な一方で、よく知らないと混乱させられることも多いシェンゲン協定。
知らないうちにオーバーステイなんてことにならないよう、特に長期旅行を予定している人はしっかりとシェンゲン協定への加盟・非加盟の確認や、滞在日数のカウントをしておきましょう。
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