京都の祇園からほど近い場所に、知る人ぞ知るフォトジェニックなお寺があります。それが、ロックな壁画絵師「Ki-Yan」が手がけた襖絵がある青蓮院門跡。
ロックな風味をきかせたレトロモダンな襖絵と美しい庭園が演出する、幻想的な風景に会いにいきましょう。
ロックな壁画絵師「Ki-Yan」とは?
京都市動物園「Gorilla’s daily life」
「Ki-Yan」こと木村英輝氏は、「平成の琳派」とも称されるロックな壁画絵師。1942年大阪に生まれ、京都市立美術大学を卒業。日本のロック黎明期にオーガナイザーとして数々の音楽イベントをプロデュースし、還暦を迎えてから絵師になったという異色の経歴の持ち主です。
「ライブな街に絵を描きたい」という思いから、キャンバスではなく「壁」を創作の舞台とし、これまでに手がけた壁画は国内外で180以上。大胆な構図にキレのある躍動感、鮮やかな色彩が特徴のKi-Yan作品は、一度見ると忘れられないほどのインパクトを残します。
皇室ゆかりの青蓮院門跡
Ki-Yanの代表作が見られる場所のひとつが、京都の「青蓮院門跡(しょうれんいんもんぜき)」。
平安時代に最澄が比叡山延暦寺に造った僧坊「青蓮坊」をその起源とし、代々皇族や貴族が住職を務めてきたという由緒あるお寺です。「門跡(もんぜき)」とは、皇室や貴族が入寺する格式の高い寺院やその住職のことで、青蓮院門跡は、三千院、妙法院とともに、天台宗の三門跡寺院とされています。
本尊は、熾盛光如来(しじょうこうにょらい)。天台宗では、その化身とされる不動明王が信仰されていて、国宝の青不動明王二童子像は、現在山の上の将軍塚青龍殿に祀られています。
祇園からほど近い絶好の立地ながら、団体観光客はほとんど訪れず、おもな参拝者は京都観光のリピーター。誰もが訪れる有名寺院に比べると、静かな時間が流れる穴場的寺院です。
ロックな襖絵が造る幻想空間
2005年、格式高い青蓮院門跡に新風が巻き起こりました。ロックな壁画絵師、Ki-Yanが客殿である華頂殿にまったく新しい襖絵を描いたのです。
寺院らしく、蓮の花を大胆に描いた作品は、「LOTUS」。「極楽浄土」「生命賛歌」「青の幻想」の3つのパートからなり、一間ごとに趣の異なる絵が描かれています。
寺社仏閣を訪ね歩くのが好きという人でも、襖の絵柄に注意を向けることはあまりないのではないでしょうか。しかし、この華頂殿では、なによりも真っ先にKi-Yanの鮮烈な襖絵が目に飛び込んできます。
深く鮮やかな青や赤、黄色を用いた大胆な色使いに、襖の下部のみに大輪の蓮の花を描くというダイナミックな構図・・・
従来の「襖絵」のイメージを覆す斬新な作風でありながら、不思議と歴史ある書院に溶け込んでいます。むしろ、この襖絵が青蓮院門跡に新たな世界観を与えたといってもいいかもしれません。
気品漂う和の雰囲気を感じさせながらも、ロックでダイナミックなKi-Yanの襖絵は、どこか浮世離れした幻想的な空間を造り上げています。
躍動感あふれる生命の姿
襖絵「LOTUS」からは、天に祝福されたかのような生命のエネルギーが伝わってきます。「生命賛歌」のパートでは、蓮の花の周囲に描かれたたくさんの「いのち」に注目。
蓮の花の上に座っているカエルや、今にも池に飛び込もうとしているかのようなカエル。
水中を泳いでいる様子の親子のカメ。
よく見ると、花のなかにカニが隠れています。
ここに登場する生き物たちは、みんなどこかとぼけているような表情や、微笑んでいるかのような表情をしていて、見れば見るほど愛らしい。難しい理屈はなしにして、単純に「生きるっていいな」というメッセージを伝えてくれているかのようです。
襖絵と庭園の美しき一体感
Ki-Yanのユニークな襖絵とともに楽しみたいのが、華頂殿から望む「相阿弥の庭」。室町時代に絵師として活躍した相阿弥の作と伝えられ、粟田山を借景に、その山裾を利用した池泉回遊式庭園です。
龍心池や洗心滝、苔のじゅうたんやもみじの木々が配置され、訪れる季節によって四季折々の美に出会えます。
力強い襖絵と、柔らかな庭とのコントラストもまたフォトジェニック。
華頂殿の縁側ではお抹茶席も設けられているので、抹茶をいただきながら、ゆるやかに流れる時間に身を任せてみるのもいいかもしれません。
あらためて、「襖絵」という日本古来の芸術に目を向けさせてくれるKi-Yan作品。
一度青蓮院門跡を訪れたら、もっと襖絵に注目したくなるに違いありません。
[All Photos by Haruna]
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