同書の著者で、国際ボディランゲージ協会代表理事、イメージコンサルタントとして世界標準の装いや仕草に精通する、安積陽子氏へインタビュー。
連載 第4回 テーマ:無知なジェスチャーが、旅先でもあなたを危険にさらしている
仕草や振る舞いと同様に、ジャスチャーにも日本と海外で意味の異なるものが多くあります。中には、全く逆の意味になってしまうジェスチャーも。誤解だけならまだしも、身の危険を招くジェスチャーは、ぜひとも覚えておきたいものです。今回は、日本人が海外旅行でもやってしまいがちな、不快や危険を招くジェスチャーについて安積さんに伺っていきます。
以下のリスト、一つでもチェックがつく人は必読ですよー!
- 外国人と接する機会がある
- 海外旅行が好き
- 会話中の身振り手振り(ジェスチャー)は多いタイプ
- 姿勢が悪い
「実は、ジェスチャーの捉え方は地域によって異なるだけでなく、宗教によっても異なります。ですので、万国共通で正解を見つけるほうが難しいですね。日本人同士では些細なジェスチャーでも、異なる文化や宗教の中においては、命の危険にかかわるようなメッセージを放っていることもありますので、海外旅行の際などでも注意が必要です。」
ブッシュ元大統領も失態を招いた、逆ピースサインの罠
↑逆ピースサイン、ついついやってしまっていませんか?
「まずは、日本でもお馴染みのピースサインです。アメリカでは平和や勝利を意味するサインとして、日本でもポジティブな意味で使われるジェスチャーではないでしょうか。
ですが、ギリシャでは『くたばれ』の意を示すジェスチャーです。また、逆ピースサイン(※拳を自分側に向けたピースサイン)も同様に、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドではネガティヴな意を示すジェスチャーと言えます。」
「はい。逆ピースサインについては、故ジョージ・ブッシュ(父ブッシュ)元大統領も失態を招いています。彼は、1992年のオーストラリア訪問の際、移動中の車の中から、逆ピースサインをして気さくさをアピールしたのですが、オーストラリアにおいては『侮辱』の意を示すサインですので、オーストラリア中から非難を浴びてしまいました。
最近では、日本のアイドルや著名人、一般の方も、逆ピースサインをして写真を撮っていますが、国によっては大変な不快を招くジェスチャーですので、海外へ渡航する際はくれぐれも気をつけて頂きたいと思います。」
Facebookの『いいね』のもう一つの意味
↑Facebookでも使われているこのジェスチャーも、実は気をつけたいサイン。
「そうですね。昨今、ITの発達に伴った更なる国際化は、誰しもに関わる事です。また、SNSが普及したことで、国境を超えたコミュニケーションも容易になりました。だからこそ、各国におけるジェスチャーの捉え方は知っておいたほう良い。ジェスチャーについては、SNS上でも思わぬ落とし穴が存在していますので、それを知っているだけでも、コミュニケーション上の致命的なトラブルを避けられますよね。」
「例えば、日本でも言わずと知れたFacebookですが、投稿に対するリアクションボタンの中に、親指を上げるジェスチャーを表す“いいねボタン(Like)”が存在するのはご存知だと思います。親指を上げるジェスチャーは、北米では『OK』や『いいね』を示しますので、北米で誕生したFacebookは当初、そのサインをリアクションボタンに採用したのでしょう。 しかし、中東や南米、西アフリカなどの一部では侮辱を意味するジェスチャーになりますので、Facebook上で『いいね!』という意味で“いいねボタン(Like)”を押したつもりでも、それを複雑な気持ちで受け取る人もいる、ということです。」
「はい、それはありますね。見ず知らずの人々と繋がることのできるSNSは、便利なツールですが、異文化への理解なくしては成り立たないものだと思います。」
オッケーサインは、全くOKではないサイン
↑所変われば品変わる。OKサインも、違う意味のサインになってしまいます。
「人差し指と親指で丸を作るジェスチャーは、アメリカでは『OK』や『いいね』を意味し、日本では、時に『お金』を意味するサインとしても使われますよね。しかしながら、ブラジル、スペイン、イタリア、ギリシャ、トルコ、ロシアなどの国々では、性的な侮辱を意味します。スペインやフランスと同じヨーロッパ圏にあっても、これがフランスでは、『ゼロ=役立たず=価値がない』ことを示すジェスチャーになりますので、このジェスチャーを活用する場合、使う場所には非常に注意が必要となります。
このジェスチャーを使って良いのか否かに自信がない場合は、『OK』や『No Problem』など、言葉で意思表示をするのも手です。」
「それだけに、日本にいるときのように気軽には使えないジェスチャーと言えますよね。場所と場合によっては、身の安全を脅かす事態に繋がる可能性もありますので、海外では不用意に使用しない方が宜しいかと思います。
日本人がよくやるジェスチャーでも、外国人から見ると、危険を招いていると思えるものは案外多いんですよね。人によっては、癖のようになってしまっている場合もありますので。」
危険を招く、日本人特有のジェスチャーと仕草
「沢山あるのですが、まず、日本でもよく見かけるのが、顔の前で手を振るジェスチャーですね。日本では、『私ではありません』『いいえ』といった意思を示すジェスチャーですが、海外では『臭い』と解釈されることがあります。
あとは、前回のお話でも話題に上りましたが、日本人特有の口元に手を当てて笑う仕草は『軽蔑する微笑み』ととらえる国も沢山あります。」
↑『上品な微笑み』のはずが、海外では『軽蔑の微笑み』に見られてしまうことも。もしくは、『自分の口臭が臭い』『相手の口臭が臭い』というようにも解釈されてしまう仕草。
「他にも、レストランのウェイターや街頭でタクシーでなどを止める際に、日本人は手を真っ直ぐ上に伸ばして拳をパーにしますよね。いわゆる、挙手の仕草ですが、ドイツやその周辺国を訪れる際は控えるべき仕草です。」
「この姿はナチス式敬礼やヒトラーを思い起こさせるため、ドイツにおいては非常に不快に思われる仕草ですし、ドイツの子どもたちは、“絶対にやってはならない仕草”として、大人から教育されます。」
「ドイツやその周辺国で、ウェイターさんを呼び止めたいときはアイコンタクトで知らせるか、タクシーを呼び止めたいときは、このように人差し指を軽く立てて、手を挙げるようにすると良いと思います」と安積さんは話す。
ジェスチャーだけではない、日本人特有の歩き方が危険を招く?
「もちろん、この他にも沢山あります。ですが、意外と盲点になっていて、ご本人が気づきにくいのが“歩き方”かな、と思います。日本人の歩き方は、攻撃を誘発する歩き方とも捉える事ができます。」
「はい。それが分かる外国の方は、“足音を聞いただけで日本人だと分かる”とおっしゃるくらいです。
過去のことになりますが、アメリカにいたときに“日本を見直したい”と思い、アメリカで日本舞踊を習い始めたんですね。すると、その日本舞踊の先生が言うには、『日本人が歩くときには、特有の足音がする。だから足音で日本人だとすぐ分かる』と。どんな足音かと尋ねると、ズズッと靴底を擦るような音だとおっしゃるんです。
日本では着物で歩く際は、足を擦るように小股で歩きますよね。たぶん、この和式歩行を、なぜか洋服を着ていてもやってしまっているのでしょうね。」
「日本人の歩き方を指摘されたときは、私もハッとして、自らを振り返りました。歩き方には国民性が表れるそうで、靴の減り方・歩くリズム・足を蹴り上げるのか足を擦って歩くのかなど、国ごとに傾向があるそうです。」と安積さん。
「犯罪者に襲われやすい人の歩き方として、ある研究結果から見受けられるのは、どこか不自然な歩き方や、手を差し伸べたくなるほど不安定な歩き方だということです。
日本人は、和式歩行と洋式歩行が混じり合っている方が多く、歩き方がアンバランスに見える方も少なくありません。これには、遺伝的特徴(骨格、筋肉のつき方)や姿勢、生活習慣も大きく関係しているので、ある意味仕方のないことではありますが、外国人から見ると、なんとなく不自然で不安定な歩き方に見えてしまいます。」
「ご自身の歩き方を見直すという意味では、靴底を見れば、自分がどのように歩いているのかを把握できます。美しい佇まいや歩き方をされている方は、靴底が左右均等に平らに減っていますが、歩き方に歪みが生じている方は、靴底が斜めに減っています。姿勢が悪かったり、ご自身の歩き方に違和感を感じていたりする場合は、靴底と併せて、ご自身の動きを見直されるのが宜しいかと思います。」
普段使っているジェスチャーも、なんとなく使っているだけでは、上手に使いこなすことはできないようです。装いや立ち居振る舞いと同じく、“なんとなく”というスタンスを卒業して、意識的に使うことで、ジェスチャーが活きてくる。 最終回の次回は、装いや立ち居振る舞いを通して、日本らしさと世界標準の間で、これから私たちはどう在るべきかを考えていきたいと思います。
どうぞお楽しみ!
安積陽子氏インタビュー連載
<1>海外で笑われないための装い、洋服選び
<2>日本人は着物と一緒に「装いの哲学」も脱ぎ捨ててしまった?
<3>日本の常識は世界の非常識?日本人を残念に見せる仕草とは
もぜひチェックしてくださいね。
[Interview photo by MASASHI YONEDA]
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