3年ほど前、成田上空のエア・カナダ機内での出産がニュースとなりました。乗り合わせていた医師が立ち会い、赤ちゃんは無事誕生。もともと成田行の飛行機は、予定より早く成田空港に緊急着陸しました。こんな風に上空で生まれた赤ちゃんの国籍はどうなるのでしょうか?
妊婦の搭乗制限
そもそも、なぜ機内で出産という状況になったのでしょうか。国際的な統計は存在しませんが、機内での出産は稀です。
エア・カナダでは、妊娠36週(出産予定日の28日以内)ギリギリまで、早産の経験がない場合に限り搭乗可能となっています。それ以降は搭乗できません。日本のANAとJALでは、妊娠36週以降の妊婦は、診断書の提出が義務付けられています。出産予定日から1週間以内の場合は医師の同伴が条件です。
機内で出産したカナダ人女性は、妊娠していたことに気づかなかったと主張していました。実際、体格がよい人や生理不順の人は妊娠に気づかない場合があるそうです。
ブリティッシュ・エアウェイズ機内での出産例
1991年のこと。ガーナで暮らしていたデボラさんが、イギリスでの里帰り出産を企画しました。イギリスで出産すれば、子供がイギリス国籍を手にすることも考えたうえでの選択でした。
フライトは、出産予定日の6週間前でした。しかしガーナを出発し、アルジェリアの上空あたりで産気づきます。デボラさんに対し、機長はなんとか持ちこたえるように伝えました。
フランス上空を過ぎたころには限界に達していました。そしてイギリス上空で間もなく出産。居合わせたオランダ人医師と客室乗務員の助けを得て、ファーストクラスでの出産となりました。
赤ちゃんが誕生し、機長は大喜びで、「新たな乗客が搭乗しました」とアナウンス。キャビンでは拍手が起こり、シャンパンがふるまわれました。そして30分後にロンドン・ガトウィック空港に到着しました。
上空で生まれた赤ちゃんは、SKYのイニシャルになるように「Shona Kirsty Yves(ショーナ・カースティ・イヴス)」と名付けられたそうです。
フライト中に誕生した赤ちゃんの国籍
ショーナちゃんの場合は、母親が国籍を持つイギリスの上空で生まれ、イギリス国籍になりました。
もし赤ちゃんが、国際水域や、母親と関係のない国の上空で生まれたら、国籍はどのように決まるのでしょうか。
国際条約である「無国籍の削減に関する条約」に批准した国からのフライトであれば、乗っている飛行機が登録されている国が国籍になります。批准していない国からのフライトの場合、誕生の瞬間の国際空域内での飛行機の位置が国籍になります。さらに、その国が自国民になることを認めなければ、父親か母親の国籍になります。
最初のカナダの件は、成田上空での出産でしたが、カナダがこの条約に批准していて、エア・カナダの機内で生まれたのでカナダ国籍です。この条約では、上空のどこにいようと、自国の航空機の中で生まれた場合、自国の領域内で生まれたとみなすのです。
日本はというと、この条約に加盟していません。そのため、日本の空域内で他国の両親を持つ赤ちゃんが生まれても、日本国籍とはなりません。日本の国籍に対する考え方は「血統主義」を採っていて、父親か母親が日本国民である場合に子供は日本国籍を取得するというシステムです。
このように、上空で生まれた赤ちゃんの国籍は、さまざまな考え方からできた各国の法律を照らし合わせて決まります。
機上だけでなく、クルーズ船上で生まれる赤ちゃんも同様です。航海の期間が長いので、こちらの方が上空よりも数が多いそうですよ。
※写真はすべてイメージです。
気になる飛行機トリビア、過去記事『まさにロイヤル航空! オランダの王様はKLMのパイロットだって、知ってた?』『エコノミークラスの旅を快適に楽しむ方法10選。飛行機での長旅の参考に!』などもぜひ!
参考
[The Telegraph]
[弁護士ドットコム]
[YOMIURI ONLINE]
[Air Canada]
[ANA]
[JAL]
[UNHCR]