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東尋坊の北にある「聖域の島」に怖いうわさ話がささやかれる理由-雄島のミステリー【福井県】

Posted by: 坂本正敬
掲載日: Nov 17th, 2020. 更新日: Nov 16th, 2020

北陸の福井には人気の観光地、東尋坊があり、その近くには雄島があります。この離島は、かつて聖域だったために上陸が禁じられていた島ですが、観光地となって久しい今、ちょっとした怖いうわさがあります。

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雄島

雄島


東尋坊の近くに浮かぶ島全域が神域の雄島

東尋坊

東尋坊

福井県の観光地といえば、どこを思い浮かべますか?永平寺や恐竜博物館、氣比神宮など、旅好きの人であればいくつも挙げられるはずですが、年間に訪れる人の数でいえば東尋坊も有名です。

東尋坊とは、福井の北部、嶺北と言われるエリアの海沿いにある絶壁の観光地で、TABIZINEの過去記事「【福井の絶景】絶壁から眺める「東尋坊」の夕日に酔いしれたい」でも紹介しました。

『広辞苑』にも掲載される有名な場所で

<福井県北部、九頭竜川河口北側にある景勝地。安山岩の柱状節理から成る険しい海食崖>(岩波書店『広辞苑』より引用)

とあります。実に過不足のないコンパクトで的を射た解説ですね。柱状節理とは、冷え固まった溶岩に亀裂が走り、何本もの柱が束になったように見える状態をいいます。

今回の舞台はこの東尋坊ではなく、そのすぐ北側にある離島です。東尋坊から、柱状節理の見られる海岸線を北に向かって移動した先に浮かぶ雄島になります。

年平均で12.6人が東尋坊で亡くなっている

雄島

雄島は、島全体をご神体とする大湊神社のある離島で、海岸線から300メートルほど離れているため、陸地と雄島橋で結ばれています。福井県によれば、島は周囲2.1キロメートルで、越前海岸で最大の離島になります。

観光を目的とした上陸を県が認可し、1937年(昭和12年)に橋が架けられてからは、一般の参拝客が訪れるようになりました。しかしこの島は、かつて一般の人が上陸を禁じられていた場所で、現在もその時代を連想させる形で、島に自生した常緑広葉高木林がうっそうと生い茂っています。

この島の南2キロメートルに、先ほどの東尋坊があります。東尋坊は年間で140万人が訪れる景勝地ですが、一方で全国屈指の自殺の発生現場としても知られています。福井県坂井西警察署の発表によると、1975年(昭和50年)から2019年(令和元年)までの自殺者の合計は688人、年平均で12.6人になります。直近の2019年(令和元年)でいえば、10人が東尋坊で亡くなっています。

なお、東尋坊に設置された電話ボックスには、自殺を考える人を思いとどまらせる張り紙などがあり、NPO法人心に響く文集・編集局など、自殺を考える人の支援を行う団体も少なくありません。

この東尋坊で亡くなる人の一部が、潮の流れの関係で雄島まで流れ着く場合もあるといいます。その恐ろしさと雄島の神聖さが重なって、そのうち雄島には怖いうわさ話がささやかれるようになっていきました。

雄島を反時計回り(左回り)に歩くと霊に取りつかれる?

雄島の怖いうわさ話とは、大湊神社を中心とした雄島の歩道を、時計回り(右回り)ではなく反時計回り(左回り)に進むと、自殺者の霊に取りつかれるという話。

雄島は大湊神社のご神体そのものだと言いました。神社は一般的に、時計回り(右回り)の参拝が基本とされています。もちろん、反時計回り(左回り)が正しい神社もありますが、玉串も時計回り(右回り)に手元で回して奉納します。

この正しい向きを破ると、雄島で浮かばれない霊に取りつかれ、島を離れてから病気になったり、命を落としたりすると語られているのですね。逆回りに歩いた人が、過去に島で道に迷ったり、事故に遭ったりしたケースもあるのだとか。

もちろん、この「のろい」のような話に信ぴょう性はありません。そもそも自殺者の霊の存在が、さらに言ってしまえば、神社のまつる神様の存在そのものが、証明できないからですね。

島全体が神聖なスポットに自殺者の霊が浮かばれない状態で居座っているという設定も、冷静に考えれば怪しいかもしれません。しかし、このうわさ話に説得力を持たせるだけの何らかの迫力が、雄島にみなぎっている点だけは否定できません。だからこそ、まことしやかな怖いうわさ話が、なくならないのですね。

死者と聖域のイメージが薄気味悪いうわさ話を生んだのか

東尋坊

東尋坊

この話は、いつごろから人々の口に上るようになったのでしょうか。島に橋が架かる前は、人が立ち入れなかったので、存在しなかったはずです。恐らく東尋坊で自殺者が増えた時期以降に生まれた、一種の怪談話だと思われます。

福井県坂井西警察署の発表を見返すと、過去40年に自殺者が最も多かった年は、1984年(昭和59年)と1999年(平成11年)です。1984年はバブル経済が過熱する直前で、1999年はいわゆるバブルが弾け、「失われた10年」と言われる時期の真っただ中です。

自殺者の多さと景気の良しあしは必ずしも一致していない様子。いずれにせよ、この2つの時期前後で、東尋坊が自殺の名所として認知が高まったと考えられます。

神聖な島の海岸線に遺体が打ちあがるニュースが報じられるたびに、死者と聖域が結び付けられ、何やら薄気味悪いうわさが、人々の間で自然発生的につくられていったのかもしれません。この「怖い話」を知った上で現地を訪れると、神聖な島の見方も深まると思います。

[参考]
活動の成果 – NPO法人 心に響く文集・編集局
東尋坊における自殺防止対策状況視察 – 福井県公安委員会
大湊神社 – 福井県神社庁
東尋坊雄島地区 – 福井県
雄島橋 – 大湊神社
令和元年 福井県観光客入込数(推計) – 福井県
雄島の照葉樹林 – 福井県
[All photos from 福井県観光連盟]

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。


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