赤ちゃんガメとの触れ合いも!ウミガメと泳ぐならマレーシアの「聖地」レダン島が最適な理由【マレーシア】

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Sep 23rd, 2019

生き物と同じ速度で手足を動かし、空間を移動して、同じ時間を共有すると、心に震えのような感動が生まれますよね。例えば海でイルカと一緒に泳いだり、ハングライダーで鳥と並走したり。ウミガメと一緒に海を泳いだりする瞬間が、典型的です。そこで今回は、かなりの確率でウミガメと一緒に泳げるマレーシアの離島を紹介します。マレーシア東岸の沖合に浮かぶ離島の楽園レダン島で、島のあるトレガンヌ州は、ウミガメが州のシンボルになるくらいウミガメで有名な場所です。

地元サッカーチームのニックネームも「ウミガメ」だとかで、保護活動にも力を入れている土地でもあります。研究施設の見学も含めてウミガメと触れ合う旅に出かけられますから、遅めの夏休みの行先を探している人は、ぜひともチェックしてみてください。

マレーシアのウミガメが直面している危機

レダン島とは、マレーシア東岸のトレガンヌ州にある沖合46kmに浮かぶリゾート地です。2000年の香港映画のロケ地として一躍中華圏で有名になり、その後リゾート地へと変ぼうを遂げていきました。

しかし、過度に観光地化され、リゾート開発が行われているわけではありません。島が海洋公園に指定されており、環境保護にも力を入れています。その一環でウミガメの保護にも、大変な功績を残しているのですね。

どうしてレダン島でウミガメの保護が盛んに行われているのかと言えば、1990年代初頭の卵の乱獲によるウミガメの激減が背景にあるのだとか(今でも一部のウミガメの卵に関しては、食用として合法的に販売されている)。

もともと4種類存在していたマレーシアのウミガメは、2種がトレガンヌ州で絶滅し、2種が危機的な状況に陥りました。そこでウミガメのフィールドリサーチ機関である『SEATRU』が設立され、1993年にレダン島の北部に拠点を構えて、ウミガメの保護がスタートしたのですね。

SEATRUが設立されたレダン島北部のChagar Hutangは、ウミガメにとって聖域のような場所で、数にして年間で700~1,300の巣が確認されているのだとか。レダン島は船で沖合から眺めてみると、(少なくとも東岸は)全体的に海食が進んだ絶壁が目立ち、生き物の上陸を拒んだ印象があります。

しかし、奥まった湾などにときどき目を見張るような白砂のビーチが広がっていて、その砂浜にウミガメが産卵に訪れるのですね。

桟橋もないサンゴの砂浜にウミガメの足跡が残されている

ウミガメの聖域Chagar Hutangには、桟橋もありません。海から眺めると、背後に熱帯のジャングルが広がっていて、このあたりの主役は人ではなく、魚であり野鳥であり獣であり、ウミガメなのだという神々しさが伝わってきます。

上陸時には水深の深い場所を丁寧に選びながらボートを砂浜に寄せる必要があります。その上で、乗客は海に飛び込まなければいけません。

足をぬらし浅瀬に着地すると、海底はサンゴの死骸(しがい)が堆積(たいせき)していると分かります。細かく砕かれていないため、ビーチサンダルと素足の間に破片が潜り込んできて痛いくらい。そんなサンゴできた白い砂浜には、産卵のためにウミガメが上陸した跡が、何本も描かれていました。

ウミガメの保護を行う研究者・Mona Masturaさん

ウミガメの保護を行う研究者・Mona Masturaさん

SEATRUの研究者・Mona Masturaさんによれば、産卵後にウミガメの卵は45~60日でかえると言います。卵のからを足場にそれぞれが地上を目指し、陸に出たらクロールしながら海を目指すのだとか。

1,000匹に1匹しか大人になれない

ただ、自然の環境は厳しいです。1,000匹の赤ちゃんウミガメの中で、生殖が可能なまでに成長する個体は、わずかに1匹なのだとか。

天敵はそれこそたくさんいて、海にたどり着くまでの間だけでも、カニからトカゲ、アリまでがウミガメを襲います。ウミガメの赤ちゃんにストレスがかからない範囲で触らせてもらうと、思った以上に固くしっかりしていると分かります。しかし、柔らかい組織はもちろんあって、アリはその柔らかい部分を狙って体内に食い込んでいくのですね。

実際にビーチを歩いていると、ウミガメの赤ちゃんが動かずに横たわっている現場を発見しました。一緒に歩いていたMona Masturaさんが拾い上げると、アリに柔らかい組織を食い破られ、中身が空っぽになっていました。

アリに襲われて命を落としたウミガメ

ヒアリに襲われて命を落としたウミガメ

これほど天敵が多いウミガメの卵を人間が乱獲すれば、一気にウミガメの数は減ってしまいます。その結果、4種のうち2種がトレガンヌ州で絶滅し、残りの2種も絶滅の危機にさらされているのですね。

ウミガメとの遭遇は恐怖が先行する

それでもSEATRUを始め、さまざまな方面の努力が徐々に実り始め、今ではGreen Turtleを中心に、ウミガメの個体数にも改善の傾向がみられるのだとか。

レダン島では、ツーリズムを利用してウミガメの現状を知ってもらうべく、ウミガメとのシュノーケリングを楽しめるようにもなっています。

遭遇率は極めて高いため、地元のガイドの方からは、ウミガメが自分に近づいてきたときの対処法が事前に指導されます。

最大の注意点は手の出し方。ウミガメの接近に対して、手のひらを広げるようにして押し返しすと、指先をえさと勘違いして、かみついてくると言います。ウミガメが近づいてきたら拳を握り、ひじで押し返すと、自然と自分の右か左、あるいは下によけてくれると言います。

最初、ボートの上で説明を聞かされているとき、正直に言って「押し返すもなにも、そのまま抱き着けばいいじゃないか」くらい軽い気持ちを抱いていました。

しかし海に入り、ウミガメの接近を目の前にすると、激しい恐怖を感じます。決して危険な生き物ではないと分かっていても、巨大な海の野生生物が自分に向かって泳いでくる姿を見ると、パニックでおぼれそうになってしまうのですね。

手のひらで押し返すどころか、ひじで押し返す動作すら怖くて、ただ両腕で自分の体を抱きすくめウミガメがよけてくれるまで待つしかできませんでした。見れば同行したメンバー全員も、同じように体をこわばらせ、軽いパニックに陥ったように水面で手足をばたつかせていました。誰もが似たような気持に陥るのかと思います。

7匹のウミガメに囲まれながら海を泳ぐ幸せ

ただ、慣れてくると不思議なもので、ウミガメとの遊泳を楽しむゆとりが生まれてきます。体から余計な力が抜け、ウミガメとの適度な距離感をそれぞれが体得していくのですね。

一番多い時間帯は、7匹くらいのウミガメが筆者たちを囲みました。思い切ってウミガメの後を追い、ウミガメの呼吸や水をかく動作をまねてみると、海の中で自分とウミガメが1つになったような感覚が得られます。

海は静かで、どこまでも青く、ウミガメの動作はいかにも優雅で、平和の象徴のように思えてきます。水中には熱帯の魚がたくさん居て、人間の数など海洋生物全体の数に比べれば、たかが知れているのではと思わされるくらい、海面の下には豊かな世界が広がっていました。

不意に水中をかいていた足が、重みのある何かを蹴ります。慌てて振り返ってみるとウミガメの背中でした。甲羅には海藻が生えていたため、ぬめりを感じました。当たり前ですが、ウミガメは背中に海藻が生えるくらい、生まれた直後からずっと海に暮らしてきたわけです。何か壮大な時間の流れを感じて、海中でもの思いにふけってしまいました。

異国の海で出会うウミガメには独特の味わいがある

ウミガメは、日本でも確認されています。沖縄や九州南部が有名で、鹿児島は特に知られていますよね。SEATRUの研究者であるMona Masturaさんも、鹿児島に留学経験があると教えてくれました。奄美大島などではウミガメとのシュノーケリングも楽しめるみたいです。

もちろん、国内での体験も素敵で、身近な環境を考えるきっかけにもなるはずです。チャンスがあれば、積極的に出かけたいですが、熱帯のサンゴ礁の海で出会うウミガメには、異国の旅情も重なって、特別な趣きがあります。

マレーシアは日本人の移住先としても人気ですし、距離的にも日本から遠くはありません。ウミガメと泳ぎたい、ウミガメの生育について知りたいと思ったら、ウミガメの聖地であるトレガンヌ州のレダン島は、最適な場所のはずです。

日本に留学経験のある研究者もいますから、SEATRUにもぜひ訪れてみてくださいね。

レダン島の海岸線

レダン島の海岸線

All photos by Masayoshi Sakamoto(坂本正敬)

[参考]

SEATRU

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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